2024年12月22日( 日 )

地震保険裁判において画期的な判決!非公開の基準表の存在を保険会社が公式に認める~被災者が勝訴(後)

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一級建築士・都甲栄充氏の見解

 以下に、一級建築士・都甲栄充氏の見解を紹介する。


 地震保険の問題点を挙げると、1つ目は、保険契約が対等な契約になっていないことだ。とくに、保険金の支払いに関する調査方法や計算方法などが契約で明確にされておらず、保険会社に任せざるを得ない。

 2つ目は、損害認定基準表が曖昧であることだ。建物の柱や梁といった、主要構造物1本ごとの損害の程度を判定する基準が抽象的であり、明確になっていない。(一社)日本損害保険協会(以下、損保協会)の内部資料には、判定のための具体的数値が記載されているが、損保会社との契約によれば、抽象的な基準にとどまっている。

 3つ目は、ひび割れの判定が難しいことである。ひび割れの原因が、地震などの災害によるものか、経年劣化によるものか、手抜きなど施工不良によるものかを判定することが難しい。

 4つ目は、鑑定人の資格が確立されていないことだ。損保協会の鑑定人認定や保険調査会社が教育した建築士などが鑑定を行っているが、現在は判定結果のばらつきが大きい。一級建築士を対象に、罰則まで盛り込んだ保険調査の国家資格を設けるべきだと考える。

 保険加入者が納得できる保険金を得るためには、以下の点を注意すべきだ。

 (1)地震保険について勉強し、知識を得ること。
 (2)損保会社の調査員が調査にきた際には、加入者本人が立ち会うこと。
 (3)調査の前に、調査方法や計算方法などの説明を受けること。
 (4)調査結果報告書の提出を求めること(通常は電話による報告のみ)。
 (5)マンション特有の問題として、外部廊下側は調査が自由にできるが、ベランダ側は 1、2階を除くと部屋のなかを通らなければ調査が不可能。調査をできずに被害を確認できない柱や梁は無傷と推定される場合が多いため、廊下側のみの調査であれば50%以下の点数としかならない。
 (6)程度Ⅰと程度Ⅱのみでは「半損」判定とならないため、必ず、程度Ⅲ以上となるものが1カ所以上必要。

 加えて、マンション管理組合が共用部分について地震保険に加入していれば、共用部の判定結果が自動的に専有部分の判定とされるが、共用部分について管理組合が地震保険に未加入であり、専有部分について個人で加入している場合は、鉄筋コンクリート造専有部の判定基準がないため、判定が曖昧になり、結果的に加入者に厳しい判定となる。

 保険会社は、保険金の支払額を少なくしたいと考えているため、支払いが少なくなるように進める。なかでも、この裁判の被告の例はその典型である。


 編集部が調べたところ、損保ジャパンは2006年に金融庁より業務停止命令の行政処分を受けている。行政処分の原因は、いくつもの該当行為を繰り返していたためだ。

  • 1,128件の支払い漏れ。
  • 保険証券を二重に作成した不正行為。
  • 保険契約のために、支店長が社員に名義借りや保険料負担(いずれも法令違反)を求めた。
  • 支社・代理店が大量に他人の印鑑を保有し、顧客に無断で押印。
  • 担当業務に関係なく、顧客の個人情報の閲覧が可能な状態となっていた。
  • 内部監査・監査役監査が、適切な指摘や改善勧告を行っていなかった。
  • 不祥事件の調査・処理が不十分。

 損保ジャパンは14年には、07年に行政処分を受けた日本興亜損害保険(株)と合併した。行政処分を受けた体質の保険会社2社が合併し、今回の裁判のような事例が続いている。

 損保会社の売り上げランキング(19年度)を見ると、損保ジャパンは東京海上日動火災保険(株)につぐ2位であり、損保ジャパンの18年度の収入保険料は2兆1,486億円、純利益は1,757億円となっている。

 この利益のなかには、本来支払われるべきはずだった保険金も含まれていたのではないだろうか。地震保険などのように、被災の判定に専門知識を必要とする保険の場合、保険加入者には専門知識がないため、保険会社側の調査員の判定によらざるを得ない。

 今回の裁判の判決により、保険加入者にも理解できる損害認定基準の存在が明らかになった。保険会社の判定に納得できない保険加入者は、この裁判に関わった都甲氏のように地震保険に詳しい一級建築士に相談することにより、被災の判定レベルが引き上げられ、正当な保険金を得て、建物を復旧させる道が開けるのではないだろうか。

(了)

【桑野 健介】

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