2024年07月20日( 土 )

これから先10年、20年、世界はどうなるのか(前)

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広嗣まさし(作家)

 新型コロナウイルスが全世界を「麻痺」させている現在、今後の世界を見通すことは難しい。この先の10年は見当がつかないのが、本当のところだ。シナリオをあえて書くとすれば、「世界の分断化が進む」であるが、もしそうであるならば、我々は何をすべきか。「分断化」を肯定的に受けとることしか、なすすべはないのではないか。

 アメリカでは、ドナルド・トランプが大統領に選出されたとき、「国が分断される」と嘆かれた。それが真実ならば、アメリカの分断はそのまま世界の分断を意味すると思われるため、コロナ以前に世界はすでに分断されていたことになる。アメリカの変化はそのまま世界に反映する。

 実際に、トランプが大統領になると、中国との経済戦争が激化した。そのため、中国共産党の習近平国家主席は焦り、欧米に対抗する一大経済圏の建設に乗り出した。これを「アメリカの1人勝ちを許さない果敢な試み」と評価する向きもあったが、コロナ騒動でそれも消えた。コロナ発祥の場所が武漢であったことが、習近平政権の動きを激化させた。

 中国政府は世界に謝罪するどころか露骨な覇権主義に走り、それが仇となり、一度は「一帯一路」を夢みた国々までもが徐々に中国から離れた。中国にとって、コロナは思わぬ誤算であった。

 これからの世界では、利害を共有する国どうしが提携して、アメリカにも中国にも頼らないネットワークをつくらない限り、生き残れないだろう。日本は、インドとオーストラリアと手を組んで活路を見出すべきだ。

 問題はいつ、どのようなタイミングでそれを行うかということである。日本政府はもうすでに取組み始めているが、アメリカや中国に気がねや未練もあり、なかなか思い切って進めない。日本はそうこうするうちに、国としての自立性や力を失っていくが、それも1つの選択肢と割り切るべきか。

 韓国は文政権が南北統一神話から自由にならないかぎり、自立のタイミングを逸するだろう。このままではアメリカ、中国からさらなる圧迫を受け、統一どころかかえって分断化が進んでしまう。もっとも、朝鮮民族には日本人にはない生命力があるため、世界のあちこちに離散してでも生き残る道は残っている。理想をいえば、韓国人の優秀さを日本が生かし、2つの国の総合知を生み出せればよいのであるが、両国民が実現するためには人間的な成長が必要だ。

 台湾にはチャンスが巡ってきており、中国と対立する国々を次々と味方につけて、国際舞台へ躍り出る可能性が出てきた。一方、いまだに中国に気を遣う国が多く、思い切って進めない。日本と提携して国益を上げたいところであるが、いつまでも煮え切らない日本政府をそれほど当てにはできない。

 しかし、なんといっても大きな困難が待ち受けているのは中国である。基盤となるイデオロギーが空疎なものになり果てており、政府は権力を維持するためのメカニズムにすぎなくなった。加えて、そのメカニズムが最新の技術をともなって巨大化しており、為政者までもがその奴隷になっている。現在のように情報が氾濫し、唯一の価値が経済力となっている時代に、このようなメカニズムでは長続きしない。

 日本はアメリカと中国から距離を保って進むのがもっとも望ましいのであるが、それを実現するためには政治家や財界人の工夫のみでは足りない。ほかならぬ国民に、その準備がなくてはならない。今から150年前、福澤諭吉氏は「国民1人ひとりが自立していなければ、国の自立はあり得ない」と言った。さらに、「国とは株式会社であり、国民1人ひとりは株主だと思うべし」とも言った。

 ところが、福澤諭吉の言ったことを理解した日本人はこれまでいない。日本は、このままでは国際社会において自己を確立できず、かつてあったエネルギーも喪失してしまうだろう。時代がそこからの脱皮を求めている一方で、それができないのが今の日本である。

 韓国は、「日本」という幻想から脱皮すべきだ。一段と広く世界を見ることができなければ、いつまでも精神的な隷属状態から脱することはない。ある在日韓国人の学者は、「韓国が日本に文句を言い続けるのは、中国に言いたいことをいえないからだ」と言った。もっともな言葉であるが、日本も中国やアメリカに言いたいことをいえているわけではない。

 中国はもう一度、革命が必要だろう。毛沢東によって実現した社会主義国家は、鄧小平によって一大転回し、ようやく光がみえてきたと思ったら習近平時代になり「絶対主義王朝」に逆戻りである。この時代錯誤を是正するには真の文化革命が必要であるが、到底できそうにない。

 国民1人ひとりが孔子の望んだ精神の自由を達成することなど、「夢のまた夢」に違いないのだ。今のままでは、この大きな国は自らの体重に耐えかねて瓦解し、小国に分断されてしまうだろう。中国政府もそれを知っているため、やたらに抑圧的になっている。

(つづく)

(中)

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