【ラスト50kmの攻防(18)】国費増の壁を崩さず
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あくまで、国費増の”壁”を崩さない政府
北陸新幹線の建設費膨張から、九州新幹線長崎ルートと北海道新幹線を含む整備3線(北海道、北陸、長崎ルート)の建設財源の調達方法が注目された。政府は、JRへの貸付料を主とし、国と地方の負担で賄う現行スキームを堅持し、2021年度当初の予算案を閣議決定した。
建設費の増額にともなう地方負担の増加は、長崎ルートにとっても身近な話だ。コロナ禍で財政出動が常態化するなか、地方負担を増やさない手法についての政府の答えは、JRへの貸付料の操作による財源対策。政府はあくまで、国費増の”壁”を崩さなかった。
今回の対策は、長崎ルートの新鳥栖―武雄温泉間をフル規格新幹線で整備した場合にも、大幅な法改正を行うことなしに取り得る手法に近いとされる。
その方法はこうだ。まず、JR貨物の経営を支援する「貨物調整金」。新幹線の開業後に新幹線と並行する在来線が第三セクターの鉄道になると、JR貨物は三セク鉄道に鉄路の使用料を払う。国土交通省はその支払いが滞らないよう、JR貨物に貨物調整金を貸し付ける。
北陸新幹線の金沢―敦賀間の増額分2,658億円を埋めるため、この貸付料から1,310億円を確保。同じ北陸新幹線の高崎―長野間の貸付料支払い契約期間を現行の30年延長から最大50年延長すると想定して、624億円捻出した。
この操作により、増額分と貸付料財源の差額を、国が3分の2、地方が3分の1の割合で負担。地方負担(石川県と福井県)の90%は、両県が発行する償還期間の長い地方債で調達する。さらに、元利償還金の50%~70%は、国が地方交付税で補てんする。
その結果、佐賀県より人口が少なく財政力指数は1ランク上の福井県の負担額170億円は、実質80億円まで減るという。
”抱き合わせ論議”の姿勢を崩さない政府・与党
文字通り、「無理算段」であったが、その背景には財務省の強い抵抗がある。20年度当初予算案で整備3線の国費は初の800億円超えとなった。与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(以下、PT)は、「23年春の北陸新幹線の金沢―敦賀間開業後に切れ目なく、敦賀―新大阪間の建設に移るため、21年度は1,000億円突破を」と気勢を上げた。ところが、主にトンネルと駅舎の工事費がかさんだことによる金沢―敦賀間の建設費増で、整備3線の21年度当初の国費は20年度並みの804億円となり、その勢いが止まった。
長崎ルートの武雄温泉―長崎間は、22年秋開業の見通しが立った。しかし、新鳥栖―武雄温泉間については、佐賀県議会の20年11月定例会で山口祥義知事が「フリーゲージトレイン(FGT)も選択肢として残っている」と”逆走”して波紋を広げた。
これに対しJR九州は「武雄温泉―長崎間が22年秋に開業する際は、新鳥栖―武雄温泉の整備方針を決めておかないと無責任。どうなるかわからずに開業すべきでない」(青柳俊彦社長)と踏み込む。
国交省は20年11月のJR九州との初協議に続き、去る12月25日には長崎県と協議に入った。北陸の建設費増を乗り切った与党PTは同16日、「敦賀―新大阪間を23年度当初に着工するため、建設財源の確保など着工5条件の早期解決を図る」と申し合わせた。
長崎ルートの新鳥栖―武雄温泉間と北陸新幹線の敦賀―新大阪間の財源スキームについて、政府・与党は”抱き合わせ論議”の姿勢を崩していない。
国交省幹線鉄道課は、「いつまでも佐賀県と”幅広い協議”を続ける考えはない。武雄温泉―長崎間が開業する22年秋と言わず、もっと早い時期、可能なら新幹線の試運転が始まる前に一定の区切りをつけたい」と話した。次に開かれる与党PTでの財源論議を待ちたい。
【南里 秀之】
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