地域経済の緩やかな回復に向けて 商工会議所として地場企業の支援に尽力(前)
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福岡商工会議所 会頭 藤永 憲一 氏
新型コロナウイルスの感染拡大が幅広い業界の事業に深刻な影響を与えた2020年。地場企業の経営を支援する福岡商工会議所にとって、刻一刻と変化する状況の把握、苦境に陥る企業からの相談への対応、支援などに奔走した1年であった。20年11月の役員改選において会頭に再任(任期は23年11月まで)された藤永憲一氏に、20年を振り返ってもらうとともに、今後の福岡経済の展望について話を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役 児玉 直)
地場企業への支援が商工会議所の役割
――新型コロナウイルスは経済に深刻な影響をもたらしました。とくに交通運輸業は本当に深刻で、これほどにまで業績が落ち込むとは想定外でした。
藤永憲一氏(以下、藤永) 2019年はラグビーで盛り上がり、20年はオリンピックで福岡にも活気が出るだろうと、1年前に期待していたのですが、2月ごろから「あれよあれよ」という間に状況が変わっていきました。オリンピックはもちろんのこと、博多どんたくなどの祭り、大相撲九州場所も中止となりました。ソフトバンク・ホークスの日本一およびアビスパのJ1昇格が明るい話題を提供してくれたのが不幸中の幸いです。
交通運輸業についていえば、売上が前年比何割減にとどまるものではなく、むしろ前年比で何割しかないという次元にまで落ち込み、本当に深刻です。新幹線は一番ひどいときはガラガラ、空港も人影がまばらでした。現在では利用客がそれなりに戻ってきていますが、それでもまだまだです。
失業は急激ではないにせよ徐々には増えています。追い詰められた派遣労働者、女性の自殺など悪い話もあり、雇用状況について懸念しています。各種イベントが中止となっているため、個々の業界では多くの事業者が苦しんでいます。しかし、福岡のまち全体が不景気で沈んでいるかというと、そのような印象も受けません。実際に各種の経済指標をみても、倒産が非常に多く増えているわけではありません。国、自治体の支援が行きわたっているのかと思います。
――支援といえば、商工会議所にとっても20年の最大の課題はコロナの影響を受けた企業への支援でしたか。
藤永 コロナ対策は商工会議所のみならず、地域経済および会員企業にとっても最大の問題です。商工会議所としても企業の相談にできる限り応じていますが、当所に資金があるわけではなく、できることは限られています。主に国や福岡県・福岡市の各種支援策を紹介し、それらを利用するための申請の仕方を説明するというかたちで支援をしています。また、できることは何でも実行しようと考え、企業の商品・サービスなどを紹介するサイトを立ち上げたり、飲食店の感染防止策と営業の両立を支援する「福岡外食応援団GOOD UP FUKUOKA」を実施したりするなど、事業の継続をサポートしてまいりました。
――会員数に影響は出ていますか。
藤永 倒産が増えているわけではないということもあり、コロナを理由とした会員の退会という傾向は確認できていません。当所は中小企業の各種活動を支援する団体であり、また、会費が比較的低いためか、企業が不況を理由として退会することはあまりないようです。
実際のところ、会員数はこの数年右肩上がりで増えています(19年11月末:1万6,103社、20年11月末:1万6,304社)。その理由として、福岡市の経済活動が活発で、企業数が増えていることが挙げられ、それにともなって入会が増えているものとみています。また、当所が行っている企業への相談対応・支援などが好評をいただいているのかもしれません。20年も会員数はむしろ増えました。ちなみに、福岡市の企業で当所に入会しているのは約2割です。引き続き、地場企業に対して当所の事業について紹介をし、企業の抱えている経営課題の解決のために支援を行っていきたいと思います。福岡の底力
――20年11月に大東建託が発表した調査「住みたい街ランキング2020」によると、福岡市が1位となりました。
藤永 過去の先輩らの努力と、地の利によるものだと思います。先輩らの努力で、現在の第3次産業を中心とした産業構造が出来上がっております。また福岡市には近くに楽しめる海も山もあり、高速船(ビートル)で韓国に、高速道路で風土の異なる九州各県に行くことができます。このように観光業を含め高いポテンシャルを有しています。加えていえば、福岡は古来より諸外国に開かれたゲートウェイとしての役割をはたしてきました。
――雰囲気を良い方向に引っ張ってくれるようなスタートアップ企業がいくつか出てくればよいのですが、なかなかそう簡単にはいきません。
藤永 コロナ以前の話ですが、東京の人が福岡の天神ビッグバンなどの都市再開発、祭りの雰囲気などを見て、総合的に元気があると感じたと話していました。このような雰囲気のもと企業活動が続いていけば、自ずと元気なスタートアップ企業が生まれてくるものと期待しています。ただ短期間で、実現できることではありません。たとえば中国などは基礎となる人口が非常に多いため、商品・サービスがヒットするとすぐに大きくなりますが、日本ではそうはいきません。また福岡は元気がよいとはいえ、その都市圏人口は2~300万人と多くありません。しかし、育っていく雰囲気は徐々に醸成されてきたと思います。
――都市再開発についていえば、天神ビッグバンが進み、箱崎の九大跡地の再開発が計画され、アイランドシティは基盤固めの最終段階を迎え、西区元岡の九大キャンパスを中心とした地域の開発もいい具合に進んでいます。
藤永 都市基盤から見て、福岡市は非常にバランスがとれているといえるでしょう。これだけ小売・サービス業も付帯して開発が行われ、新たに住人が住めるようになる再開発が市内の東西各地で実施されているというのは珍しいものだと思います。九州新幹線が開通し、博多駅が、続けて空港が再整備されました。クルーズ船が停泊できる港もあります。
――再開発への投資が有効に活用されるためにも、人の往来が元に戻ることが必要です。
藤永 天神ビッグバンについては、現在のところ計画が順調に進んでいるようですが、新型コロナで、モノをつくっても期待した成果を収められないという事態になることを懸念する声も聞かれます。まちを活性化するためには、いろいろなニーズが必要です。ただ、インバウンドは当面は本当に厳しく、回復に時間を要するでしょう。
福岡は東京から西に約1,000kmの距離に位置し、福岡から同心円を描けば東京と上海がほぼ同一線上です。福岡のこの地の利と九州各県のそれぞれ異なる持ち味を活かしていくのが、回復の1つの道筋ではないかと思います。
(つづく)
【文・構成:茅野 雅弘】
<PROFILE>
藤永 憲一(ふじなが・けんいち)
1950年福岡県生まれ。73年に京都大学経済学部卒業後、九州電力(株)に入社。経営企画室長、上席執行役員を経て、2009年6月に取締役常務執行役員に就任。12年6月に(株)九電工の取締役専務執行役員に就任し、13年6月代表取締役副社長執行役員、14年6月代表取締役会長、18年6月相談役を経て、20年7月特別顧問。前会頭の辞任にともない、18年6月に福岡商工会議所第30代会頭に就任、20年11月に再任。法人名
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