【検証】トクホ“復権”に向けた消費者庁の検討会、失敗に終わる可能性も
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機能性表示食品の登場により、影が薄くなった特定保健用食品(トクホ)。トクホ制度をテコ入れするため、消費者庁は昨年12月に「特定保健用食品制度(疾病リスク低減表示)に関する検討会」を立ち上げた。ところが、これまでの検討状況を見ると、議論は迷走し、検討会は失敗に終わると予想される。その原因を検証する。
議論が成り立たない状況
トクホ制度は1991年にスタート。2019年度時点の許可件数は1,072件を数える。これ対し、15年に導入された機能性表示食品制度の届出は3,673件に上り、トクホを圧倒している。
どちらも「血圧が高めの方に」などの機能性を表示できるが、トクホはその範囲が限定的。一方、機能性表示食品では、トクホに見られない機能性表示が次々と登場。商品開発の費用もトクホと比べて格段に安い。業界の“トクホ離れ”が進むのも当然といえる。
トクホの凋落ぶりに危機感を抱くのは、トクホ業界だけでない。制度を所管する消費者庁や審査する消費者委員会も同様。そこで、消費者庁が打ち出したのが、トクホだけに認められている「疾病リスク低減表示」の拡充だ。これにより、機能性表示食品との差別化を図るという狙いがある。
疾病リスク低減表示は、具体的な疾病名を表示できる。この点がほかの機能性表示と大きく異なる。現在、「カルシウムと骨粗しょう症」と「葉酸と神経管閉鎖障害」の2つがある。
疾病リスク低減表示の拡充へ向けて、消費者庁は検討会を設置。昨年12月25日に初会合を開き、今月22日に2回目の会合をもった。
通常、国の検討会は所管官庁が示した論点や案を議論し、一定の方向性を取りまとめる。ところが、22日の第2回検討会では、多数の委員から、議論自体が成り立たないという旨の発言が相次いだ。
検討の中心的なテーマは、欧米で認められている疾病リスク低減表示をトクホに導入すること。消費者庁は具体案として「カルシウム、ビタミンDと骨粗しょう症」「ビタミンDと転倒」などを提示。また、摂取量を減らすことによる「ナトリウムと高血圧症」、対象成分を限定しない「穀物・果物・野菜とがん」なども検討課題に挙げた。
具体案に対し、多くの委員が「トクホと海外の制度はかなり異なり、海外の例は参考にしてはいけない」などと指摘。「ビタミンDを入れてほしいというのではなく、食事摂取基準を考えたうえで丁寧に議論すべき」といった批判が寄せられた。
消費者庁が出した論点や具体案に対し、多くの委員が真っ向からダメ出しするという異例の展開となった。
ミスだらけの論点
国の検討会で、所管官庁が示した論点をめぐり、議論さえも成り立たないというケースは極めて珍しい。その原因について考察する。
そもそも今回の施策は、水面下で業界側から持ちかけられたもの。消費者庁が犯した最大のミスは、海外の制度とトクホ制度の設計が異なるにもかかわらず、「欧米のように表示を広げてほしい」という業界の要望に沿って動いたことだ。
トクホ制度は日本独自の基準に基づいて運用されている。このため、欧米の事例をそのまま反映させることには無理がある。そのことをもっとも理解しているはずの消費者庁が、今回の案を持ち出したこと自体が驚きといえる。
次に、国の栄養政策と整合性を取る必要があるにもかかわらず、その配慮が完全に欠如していたこともミスの原因だ。
18年4月~19年3月に行われた厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定へ向けた検討では、ビタミンDについて時間を割いて議論した。ビタミンDは食事で摂取する以外に、日光を浴びることによって体内でも産生される。判断を誤ると、国民を過剰摂取に導く恐れがあることから、慎重にビタミンDの摂取基準を決めた経緯がある。
一方、疾病リスク低減表示の場合はどうか。欧米で認められているという理由だけで、ビタミンDを追加しようとしているようだ。過剰摂取につながる恐れもあり、国の栄養政策と矛盾する。
「減塩」による疾病リスク低減表示や、関与成分を限定しない野菜・果物の疾病リスク低減表示も、トクホの定義や制度設計を見直さない限り、議論の俎上に乗せることさえできないはず。本来、今回の検討会で論点に挙げるようなテーマではないとみられる。
多くの委員が議論にならないと反発したのも、以上のようなことが背景にある。
検討会は3月に開く最終会合で、今後の方向性を取りまとめる。しかし、論点や具体案には致命的なミスがある。具体的な施策を打ち出すことは困難と考えられる。
さらにいえば、今回の検討会を設置したことに意味があるのかという疑問も湧く。意味があるとすれば、トクホ制度を拡充するためには、制度設計を根本から見直す必要があることが明確になった点だけといえそうだ。
【木村 祐作】
法人名
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