『脊振の自然に魅せられて』大雪の脊振山へ(前)
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1月7日から3日間、日本全土に寒波が襲来して福岡市の道路も積雪に見舞われ、タイヤにチェーンを巻いて走るバスや車を見かけた。
筆者の住むマンションの敷地にも積雪があり、子どもたちが2階にある雪の積もった駐車場からの坂道でダンボールやビニールを使って、ソリ遊びを楽しんでいた。子どもたちのはしゃぐ声が賑やかだった。
筆者は毎年、佐賀県の天山スキー場へ通っているので、スキーシーズン前に冬タイヤ(スタッドレスタイヤ)に交換している。今シーズンは新型コロナのためスキー場は営業を自粛したが、筆者は脊振の雪景色を見る機会があると予測し、冬タイヤに交換をした。
自宅の窓から眺めると、白く雪化粧をしている脊振山が見える。久しぶりに脊振山の雪景色を楽しめると思い、胸が弾んだ。
1月10日の早朝、脊振山へと愛車で向かった。福岡市早良区の椎原集落から五箇山ダムへ続く県道136号はカーブが多い山道である。雪道となった県道でライトを点灯させて走る。雪道では、車が滑り出すとすぐには止まらない。長崎で下の坂道から滑ってきた対向車に当てられた経験があり、山道では安全対策のため、日頃からライトを点灯させて運転している。
雪道には、車のタイヤ跡が長く続いていた。県道136号は生活道路でもある。カーブの多い県道を車で10分も走ると、早良区の山間部にある雪景色となった荒谷集落に着いた。荒谷集落から、雪の積もった県道をさらに登って行く。
標高655mの板屋峠から下りカーブが続く。学生時代に板屋峠から脊振山へ登ったことを思い出した。ブレーキテストをして、エンジンブレーキを掛けてカーブを下る。早良区最奥の山村である板屋集落も、積雪で静まりかえっていた。公衆トイレに行くと水洗トイレの水が凍結していたので、降り積もった雪で手を洗った。
ここから脊振山頂駐車場までは自衛隊専用道路となっている。新雪が降り積もった自衛隊道路には、タイヤの跡がなかった。早朝にきた筆者の車がこの日の「1番乗り」である。
愛車の冬タイヤが雪を踏みしめる音が響いてくる。曲がりくねった積雪の道路を登り、標高が高くなると下界とは違ったすばらしい雪景色が見えてきた。
大雪を被った樹木が静かに枝を下げていた。対抗車がないことを確認して車を止め、雪景色を撮影する。冷えた空気が身を包み、目の前の自然がつくりなす光景に感動を覚えた。脊振山頂の航空自衛隊基地ゲートでは、隊員が雪かきをしていた。右折するとまもなく脊振山頂駐車場である。広い駐車場は一面の銀世界となっていた。車を路肩に寄せて、筆者のタイヤ跡がつく前に駐車場を撮影する。道標や脊振の案内板も雪の綿帽子を深く被っていた。
駐車場周辺の撮影を済ませたあと、登山靴に履き替えてカメラを首から下げ、片手に三脚を携えて脊振山頂へ向かった。自衛隊基地ゲート前の登山口から、いきなり深い雪に囲まれた。
誰も歩いていない登山道に足を入れると、深雪に足が沈む。雪から足を抜き、雪のなかに左右の足を交互に入れる動作が続く。風もないなか、降り積もった雪道を歩く体は、汗をかくほど暑い。「ハーハー」と息を吐きながら、雪との格闘が続く。うしろを振り向くと、筆者が歩いてきた足跡が太陽のもとで輝いていた。普段なら徒歩10分で着くはずの山頂が遠くに見えた。
山頂への道は新雪で吹き溜まりとなり、丸くて柔らかい雪景色が続いている。
「ここで倒れた方が楽になる」と感じるほど、雪はますます深くなった。右足を雪の中から抜いて、左足を雪の中に入れる。股の近くまで雪に埋もれて、筆者はエネルギーを使いはたし、空腹で疲労を感じた。喉が乾くが、空荷できていたので、水も持ってなかった。思わず雪を口に含み、口のなかで雪が溶けるのを待って、喉に流し込んだ。雪をそのまま食べると唾も喉に入り、かえって喉が渇くからだ。
しばらくそうして進んでいると、山頂近くの灯籠がようやくみえてきた。灯籠までわずか10mの距離であるが、深い雪に阻まれて前に進めず、持っていた三脚をスコップ代わりに雪をかき分けて足場をつくった。このような作業を10分間続けると、防寒手袋をして三脚を持つ右手指がジンジンと痛くなり、指先が凍傷になるほど冷えてきた。
雪のなかを泳ぐことしばらくして、灯籠の場所へようやく這い上がることができた。ここは平な場所で雪の吹き溜まりもなく、凍てついた石段を10段ほど上がり山頂に着いた。山頂の御堂や道標にも氷柱が垂れ下がっていた。
セルフタイマーで記念写真を撮り、そうそうと下山を開始する。筆者が歩いた深い雪の足跡に足を入れて進み、駐車場に停めた愛車にようやく戻ることができた。
(つづく)
2021年1月23日
脊振の自然を愛する会
代表 池田友行関連キーワード
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