2024年12月22日( 日 )

【長期連載】ベスト電器 消滅への道(15)戦略なき拡大と挫折と新世界、M&Aの波間に消えた九州小売業の雄たち(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 ユニード、寿屋、そしてベスト電器。「九州の覇者から全国へ」という野望を抱き、事業拡大に走ったが、いずれも惨憺たる結果に。没落していく企業にはそれなりの理由がある。ベスト電器が繰り広げた“ドラマ”を振り返る。

戦略的撤退と反攻

 寿屋やダイエーなどかつて九州で大きなシェアをもっていた企業を傘下に収めながら今に至るイオンは、思い切った戦略を実行した企業でもある。一時、本拠地の関西を中心に各地でダイエーに圧倒されると、江釣子ショッピングセンターに象徴されるようなルーラル立地の広い商圏を求めて戦略の転換を図った。まさに勇断だ。その後、ダイエーをはじめとする都心型多層階型小売業が破綻していくと、逆にそれらを次々に傘下に収める。 

 イオンの場合は、前述した寿屋やダイエーに見られる本体、生え抜き出身という優先登用の構図が少し違った。旧ジャスコの社名が示す通り、初めからその連合は横の連携であり、主導権をもっていた岡田屋の一方的な人事支配ということにはならなかった。二木屋、シロなどの合併スタート時、各社の人材を比較的うまく活用できたのである。その後も、合併した相手企業の店舗名称や企業名もすぐに自社のブランドにするのではなく、ある程度の猶予期間を経て統一する手法を取った。相手先社員の誇りや自負をいきなりすりつぶすような、一気に社名変更することはしなかったのだ。

 現在のイオンでもその構図が続いているといってもよい。業種や企業にかかわらず、合併の効果は人材の確保にかかるが、それをうまく実行する企業は少ない。イオンはそれを比較的うまく実行しての現在がある。しかし、傘下に収めたダイエーやマイカルなどの多層階店舗のスクラップに苦労してもいる。

 そんなイオンを意識してか、地方小売業の動きも活発である。北海道、東北ではいうまでもなく、アークスグループの動きが注目される。アークスを率いる横山清が標榜するのは八ヶ岳連峰経営である。連合各社の自主性を重視し、各社の優れたシステムと経営手法を水平展開するやり方である。

 横山の連邦経営はこのところ、北海道、東北といった地域を越えて、中部のバローや九州・山口のリテールパートナーズにまでその範囲を広げている。横山のかつての考え方は、イオンという巨人に対抗して北海道・東北、関西、九州・山口でそれぞれ1兆円の企業連合をつくるというものだったが、それをさらに進めて、各地方連合を糾合してイオンに匹敵する規模を模索するところまできている。

 この流れには新潟、群馬に店舗展開するアクシアルグループやその他の企業連合も無関心ではいられないはずだ。四国、中国ではすでに中四国の雄であるマルナカがイオンに吸収され、同じポジションのフジもイオンとの提携に踏み切っている。九州や東北といったローカルでは、今やわずかな地場小売業とエーコープといった限られた小売業がイオンのマックスバリューに対抗する構図が定着した感がある。

 九州・山口には地場3社連合のリテールパートナーズのほかに、長崎のエレナや鹿児島のタイヨー、北九州のハローデイ、ルミエールなどの有力企業が存在するが、これらの小売業が単独で東征することはなかなか容易ではない。逆に業務スーパーや食品をもつドラッグストアからの脅威に晒されることになる。もちろん、産直オンラインなども新たな競合だ。

待ち構える拡大の罠

 九州の小売業はなぜ東征できないのかということは、関係者の間でよく話題になるが、これは九州だけでなく、前述したように本州中部以外に共通することでもある。そしてこれは何も現代だけの話ではない。鎌倉時代から戦国時代を通して、西国や東北の武士集団が天下に覇を唱えたことはない。島津や大友、大内、武田や伊達などの有力守護大名も同じである。

 その理由は情報、文化、気質、戦略性などが考えられるが、これらを乗り越えて全国に覇権を確立した組織はごくごく限られている。強いていえば、中世は織田、豊臣、徳川。近代、現代はダイエーやイオンなど国の中部に本拠を置く集団である。彼らは伝統的にそれなりの人口、農地のほかに、貿易や物流の要である港湾を備え、豊富な資金と戦略物資の獲得がその他の地域より有利であったことが、その理由と考えられる。中世に博多が商都として繁栄したのも、同じような理由から来るところの要素が大きく影響したはずだ。

 翻って、現在の小売事情に目をやると、九州の小売業で大きなポジションを占めるのがディスカウントコスモスである。同社は社名をディスカウントドラッグからドラッグを外した生鮮をもたないタイプの小売業である。積極的な出店で店舗数は1,000店を超え、その半数近くを関東以西の本州、四国各県に展開している。15%前後の経費率で、非生鮮食品市場を席巻している。しかし、その将来性には、拡大の罠も待ち構えるはずだ。それは差別化が容易でない同質化競争である。同質化は、同業に比較して明確なメリットをお客に提供できないというジレンマを生む。かつてのGMSが陥ったのと同じ構図だ。その結果は坪効率の低下である。そうなると経費率が上昇し、安売りができなくなる。その結果、同業同士のM&Aに舞台が移るのはアメリカの例にある通りだ。

 アメリカの流通業の流れが10年経つと日本にやってくるというのは定説だが、コロナやグローバル化の亢進によって、10年が5年になる可能性が高い。規模の大小を問わず、エリアを超えて全国各地で相互連携の動きが加速する環境変化のなかで、九州発祥の小売業がどのように発展、拡大していくのか興味は尽きない。

(了)

【神戸 彲】


<プロフィール>
神戸 彲
(かんべ・みずち)
 1947年、宮崎県生まれ。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

(15)-(中)
(16)

関連キーワード

関連記事