2024年12月23日( 月 )

安倍・菅政府のこの1年の新型コロナ対策を振り返る(2)

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九州大学非常勤講師・フリーライター 辻部 亮子 氏

感染状況を本気で把握する気なし

 たとえば、PCR検査などの感染者捕捉体制である。新型コロナウイルスはヒトからヒトへと感染するものである以上、その拡大を抑止するには、感染者と非感染者との接触を断つのが基本である。その前提となるのが両者の識別だが、今回のウイルスは感染しても無症状のままであることも多いだけに、幅広い検査の実施は不可欠であるはず。にもかかわらず、安倍政権はまずは「医療態勢を守るために検査数を絞る」という本末転倒なロジックで臨んだことは周知の通りである。

 偽陽性・偽陰性の問題など、種々の論拠がもっともらしく振りかざされたが、核心には、1980年代の「臨調行革」および94年の保健所法改悪を通じ、歴代政権が行政検査の窓口としての保健所を次々と減らしてきたことがあった。あるいは、利権とメンツを保ちたい「国立感染研究所―厚労省」ラインの思惑が反映された結果だったと見る向きもある。いずれにせよ、政府はその後、国内における感染者増加および国内外からの猛烈な批判を浴びて方針を変え、2020年7月にようやく検査能力の拡充および無症状者も対象とした検査体制が一通り整った。

 確かに、その後PCR検査実施数は着実に増加した。1度目の緊急事態宣言が解除された5月25日に5,000件強だった実施件数は、7月以降急拡大を示し、2度目の緊急事態宣言中の21年1月14日には1日に9万件を超えるまでになった。しかし、ここで見落としてはならないのは、厚労省ホームページに掲載されている色分けグラフを一瞥するだけでもわかる通り、検査実施件数を大きく押し上げてきたのは地方衛生研究所・保健所や医療機関による行政検査ではなく、民間会社による検査であるという点である。

 感染している可能性も低く症状もないが、渡航や仕事などさまざまな理由で自らの感染の有無を知りたいと望む人の多くが、民間検査会社の自費検査を利用できるようになった。ここに商機を見出す企業の参入も増え、驚くべき低価格で検査を提供する会社も次々現れた。しかるに、医師の診察をともなわない検査について、感染症法は報告に関する規定をとくに設けていない。つまり、ここで感染が判明しても検査会社に行政への報告義務はなく、すべては感染者の自主性――ある人は保健所に自ら報告する(ここでつながらないケースも少なくない)、ある人は会社やコミュニティにおける非難の目(日本人には、遺憾なことに、なぜか感染者のような弱者をさらに迫害する習性がある)を恐れて秘匿するなど――に丸投げというわけだ。

 要するに、現在の検査体制は感染状況を正確に把握するという本来の機能をはたしていないのである。政府はといえば、検査能力を増やすだけで、あとは与り知らぬと言わんばかり、検査結果を行政につなげるための有効な改善策を講じる気配もない。これでは捕捉されない感染者により市中感染・院内感染が広がり、他のコロナ対策の効果が減じられてしまうのは当然である。政府は、実のところ、「外野」にうるさく言われたから検査能力を拡充してきただけであって、国民の感染状況を正確に把握しようという気など端からなかったのではないか。

(つづく)

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