2024年11月14日( 木 )

【株式市場】コロナ禍でも株高のなぜ?に隠れた理屈 株投資は「美人投票」

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

バブル相場以来の3万円台

 私は、投資顧問資格やファイナンシャルプランナー資格を有していない。したがって、株式市場の全体相場動向や個別銘柄の売り買いを断定的に語ることはできない。とはいえ、株式投資絡みの記事は書いている。株式セミナーの類で喋(しゃべ)る機会もある。ズルいかもしれないが「私は~と考えますが、皆さんはいかがでしょうか」と逃げをうちつつ、である。

 今回のテーマは、「現状の株式市場高を、マクロ面からどう見るか」。つまり、コロナ禍中にありながらの株高の背景を探ってみたい。現に米国のダウ平均株価も日経平均株価も昨年1年間で上昇している。前者は約6%、そして現在は3万ドル大台に移行し「高値更新」トレンドで推移している。後者は約18%上昇して、2月15日には30年半ぶりにバブル相場以来の大きな節目の3万円台実現(3万84円)となった。

 昨年来の新型コロナ禍は世界中の経済活動を大きく後退させ、一般的には不況をもたらしたとされる。それにもかかわらず、株価は前記のごとく上昇した(している)。私はその背景を「株式投資は美人投票」と考えている。

株式投資は「美人投票」~勝つのは平均的美女

 「美人投票論」は、近代経済学の祖とされるジョン・メイナード・ケインズ博士が著書のなかで提唱している説である。博士は、「玄人筋の行う投資は『100枚の写真のなかから最も美人だと思う人に投票してもらい、勝利した美女に投票した人たちに賞品を与える新聞投票』に見立てることができる」とし、この場合、「投票者は自分自身が美人だと思う人へ投票するのではなく、商品を得るために、平均的な美人と思われる人に投票するようになる」と予測した。

 株価は確かに、基本的なファンダメンタルズ(経済指標など)が反映されて形成されるとは言い難い側面がある。好業績の企業が高く、そうでない企業が安いとは限らず、「期待感・失望感」「思惑」「需給」などで動くことが多い。

 そこで改めて、「美人投票論」と「不況下の株高」の相関関係を私なりに噛み砕いてみた。2月8日付の朝日新聞デジタルは、「国際通貨基金(IMF)によると、コロナ対策で各国政府の財政支援は14兆ドル(約1,450兆円)に上る。日米欧の中央銀行は、民間金融機関が持つ国債や社債などを大量に買い取って巨額の資金を流しており、主要国で市場に出回るマネーは前年比で2割増えた。これが株高を支える。実体経済が悪いと、むしろ金融緩和が長引いてもっと資金が入るとの期待すら働く」としている。しかし、IMFの指摘するストーリーだけでは正直、疑問が残る。私は以下のような段取りだと考える。

金融緩和は実体経済を動かさないが、株価は動かす

 たとえば、不況期に工場の稼働率が下がっているタイミングに金利が下がる(金融が緩和される)とき、はたして工場を新設・増設しようとする経営者が増えるのか。とりわけ今はゼロ金利下。金融緩和が経済再建を牽引する設備投資を促さないことは、設備投資の先行指標となる機械受注(民需)の推移から明らかに読み取れる。

金融緩和で株価が動く理由

 一言でいえば、市場参加者が「金融が緩和されれば株価は上がる」と思い込んでいるからだろうが、そう思い込むのはなぜか。市場に資金が出回り、その一部が株式市場に向かうから、とする見方が多いが、実際はどうなのか。たしかに株式市場では、日銀によるETF(上場型投信)買いが市場の下値を支えるとする声が横行している。しかし、銀行筋はこう打ち明ける。「ゼロ金利下の金融緩和では世の中に金は出回らない。日銀は銀行が保有のゼロ金利国債を買い上げ、資金を供給するというが安全パイ(高与信)の借り手がいない。結局、売却代金は日銀に預けるだけが現実だ」。では、「金融緩和⇒株高」はどう説明すべきなのか。

美人投票 

 ほかならぬ大口投資家とされる生保や損保の機関投資家やファンドマネージャーは、こう語る。「過去の金融緩和時の経験則から、ほかの投資家も株高が起きると考えているから株価は上がる。我々も買わない手はない」。まさに美人投票の理屈である。「ほかの投資家が上がると思っている」と多くの投資家が追随すれば、株価上昇に理由などいらないのだ。

スペイン風邪流行後、米国ダウは12年間で5.8倍に

 1月の定例記者会見で日本証券業協会の鈴木茂晴会長は、在宅勤務が増えている環境を踏まえ、「パソコンの販売増などで半導体関連製品の需要が増え、電気機器業界などは業績の回復期待から株が買われている」とした。立場上という部分を勘案しても、当該時点では間違った指摘ではない。

大和証券のチーフ・テクニカルアナリストで理事の木野内栄治理事は、「パンデミック後は長期の株高傾向が認められる」と発信し、具体例を引いている。事実、1910年代末のスペイン風邪流行後に米国ダウは12年間で5.8倍になっている。2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)では、4年間で上海株価指数が4.7倍になった。

 では、美人投票でつくり上げられた現状の不合理な相場の「今後」は、どう捉えればよいのか。バブル相場と見るか否かが1つのポイントになるだろう。バブル相場は永続不可能で「泡と散る」ことは、経験則が教えている。しかし現時点まで、過去に類を見ない金融緩和に関する出口は聞かれていない。「金融緩和が終わるときは経済の再生が見定められたときであり、経済成長・企業収益が株価に追いつき不合理でなくなってくる」とする論が支配的だ。ケインズ博士の認識を聞いてみたいが、あの世への通信法を知らない。

【千葉 明】


<プロフィール>
千葉 明

 1973 年日本短波放送(現・日経ラジオ社)入社。経済評論家・亀岡大郎氏に師事。日本短波放送・兜倶楽部詰め放送記者。主著に『野村證券 企業部』『円闘』『ザ・ノンバンク』『不況にも強い一流の経営』『男が勝負する時』など。著作 25 冊。

関連記事