オンライン授業が新型コロナ下で一気に前進(1)
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公立大学法人 名桜大学 名誉教授 清水 則之 氏
新型コロナが大きく変えたものの1つに「大学教育のあり方」がある。イスラエルの人類学者であるユヴァル・ノア・ハラリ氏(ヘブライ大学歴史学部の終身雇用教授)は、昨年放映のNHK(ETV特集)で「私の大学では過去20年間、一部のコースのオンライン化を検討してきたが、“ああでもない、こうでもない”という反対で何もできなかった。それが今回は1週間で全てのコースがオンラインに移行した」と語っている。早くから、大学授業のオンライン化に注力してきた公立大学法人名桜大学名誉教授でエドノール・インスティチュート代表の清水則之氏に話を聞いた。
(聞き手・文:金木 亮憲)
30年以上の積み重ね
――2020年からの新型コロナ騒動を大学教育の観点から振り返ってください。
清水則之氏(以下、清水) 新型コロナウイルス感染症は誰も予想できず、突如19年12月末に中国・武漢で確認され、一気に中国全土、そして全世界に広がりました。現在までの累計感染者数は世界で約1億800万人、死亡者数は約240万人に上っています(米ジョンズ・ホプキンズ大学の集計、21年2月13日現在)。そのため、各分野に多大な影響が出ました。教育の分野も例外ではありませんでした。
一方、世界各国の大学では緊急事態になってから、ほとんどすべてのコース(授業・科目)をわずか1週間から1カ月でオンライン化することに成功しました。なぜでしょうか。それは30年以上にわたる研究・実験の積み重ねがあったからです。
私がいわゆるeラーニングの研究・実験を始めたのは、日本IBMに勤務していた1980年代からです。当時のIBMでは、インターネットとは別に「BITNET(ビットネット)」という学術研究分野の情報交換を目的としたネットワーク回線を使っていました。BITNETは、ニューヨーク市立大学のアイラ・フュークスとイエール大学のグレイドン・フリーマンによって、両大学を結ぶネットワークとして81年から始められたものです。
BITNETが提供したサービスは、電子メール、ファイル転送、チャット、メーリングリストなどシンプルなものでした。このときの専用回線の速度は9.6kbps、料金は年額約3,000万円という、今から考えると信じられない遅さと使用料金の高さです。しかし、BITNETは当時の国内の若い研究者や技術者に影響を与え、その後の多くのネットワーク構築のきっかけとなりました。
私は日本IBM東京基礎研究所に勤務する傍ら、複数の大学で非常勤講師や客員研究員をしていました。研究テーマはネットワークとeラーニングです。もっとも、まだインターネットが普及する前でしたので、当時は学術用語で「ディスタンスラーニング(遠隔教育・遠隔学習)」と呼んでいました。
eラーニングについては今回奇しくもコロナ禍で突如、大きく表舞台に出た格好になっていますが、コロナ禍が去った後でも、これを機会にどんどん発展していくものと考えています。なぜならば、現在のさまざまなニーズに応えるためのほぼ全ての準備が整っているからです。
インターネット環境を通じた学習
――eラーニングとは、そもそもどのようなものですか。
清水 eラーニングとはelectronic learningを略したもので、パソコン・タブレット・スマートフォンなどのデジタル機器を使用し、インターネットなどを通して提供されたコンテンツを学習する方法です。80年代までは「ディスタンスラーニング」という学術用語で呼ばれ、インターネットが普及する90年代後半ごろから、一般的にeラーニングと呼ばれるようになりました。
従来の集合型研修は、受講する時間を決めて講師と受講者が同じ場所で過ごさなければなりませんでした。移動にも費用や時間がかかり、会場のセッティングも必要でした。しかも、学習の進捗状況などは講師がすべて管理する必要がありました。教材としては主に紙媒体が使われてきました。
しかし、学習の進捗やモチベーションには個人差があり、講師が個人で管理するのは効率的ではないという意見はかなり前からありました。そこで、コンピューターの力を借りて学習内容を提示したより効率的な学習、すなわちコンピュータ支援教育(CAI: Computed Aided Instruction)の研究が、アメリカをはじめ世界各国で行われるようになりました。その結果生まれた新しい学習形態がeラーニングです。
私は03年9月に約32年間勤務したIBM社を退社し、同年10月から沖縄県北部の名護市にある公立大学法人名桜大学の教授になりました。その後は、ネットワーク、経営情報論、医療情報学を担当し、並行してeラーニングの研究・実験をしていくことになりました。
(つづく)
<プロフィール>
清水 則之 氏(しみず・のりゆき)
公立大学法人名桜大学名誉教授、エドノール・インスティチュート代表。早稲田大学理工学部卒業後、1971年日本アイ・ビー・エム(株)入社。IBMシステムセンター、IBM東京基礎研究所、IBMヨーロッパネットワーク研究所(ドイツ・ハイデルベルグ)、IBMパロアルト研究所(アメリカ・シリコンバレー)に勤務。主に汎用コンピュータ導入前テスト、ネットワークプロトコルの研究、金融系ネットワークシステムの構築などに従事。2003年から11年まで名桜大学教授。研究分野はネットワークプロトコル、ディスタンスラーニング、医療情報学。情報処理学会シニア会員。著者・訳書に『グループウェア』『インターネット電話ツールキット』など多数。関連キーワード
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