2024年12月23日( 月 )

オンライン授業が新型コロナ下で一気に前進(2)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
公立大学法人 名桜大学 名誉教授 清水 則之 氏

 新型コロナが大きく変えたものの1つに「大学教育のあり方」がある。イスラエルの人類学者であるユヴァル・ノア・ハラリ氏(ヘブライ大学歴史学部の終身雇用教授)は、昨年放映のNHK(ETV特集)で「私の大学では過去20年間、一部のコースのオンライン化を検討してきたが、“ああでもない、こうでもない”という反対で何もできなかった。それが今回は1週間で全てのコースがオンラインに移行した」と語っている。早くから、大学授業のオンライン化に注力してきた公立大学法人名桜大学名誉教授でエドノール・インスティチュート代表の清水則之氏に話を聞いた。

(聞き手・文:金木 亮憲)

2006年ごろから積極的にeラーニングの実験を実施

 ――大学に着任後早々、研究の傍らeラーニングについて多くの実験を試みていますね。

 清水則之氏(以下、清水) 一般的には、インターネットを利用したeラーニングを行う大学が増えてきたのは、約10年前の2010年前後と言われています。しかし、私は名桜大学で06年ごろから段階を追って、かなり積極的にいわゆるeラーニングの実験を行ってきました。最初は隣室とビデオケーブルでカメラとプロジェクターを接続して遠隔講義を行い、その後はテレビ電話用ソフト、ウェブ会議システムと機能を拡張しながら実験を繰り返しました。07年前後の事例について、エピソードを含めてご紹介しましょう。

【事例1】隣室の教室からの遠隔講義

 集中講義で受講申し込み人数が教室定員を大幅に超えてしまったため、急きょ2つの教室を使用して受講してもらうことになりました。私の講義教室で講義をしている様子(講師と表示している教材)をマイクとカメラで収録し、隣接する教室のスピーカーとプロジェクターにケーブルで接続し、学生が受講できるようにしました。隣室のため、ケーブル接続でなんら問題はありませんでした。学生はゆったりと講義が聞くことができて、とても満足していました。

【事例2】学科会議と大学協議会への遠隔地からの出席

 東京に出張中、学科会議に出席する必要があり、東京の知人の企業にインターネットを借用し、skypeシステムを利用して出席しました。会議資料は事前にメールで送付、学科会議では会議室のモニターに映る自分の顔を見ながらマイクを通して討議に参加しました。また大学協議会にもインターネット経由で出席し、このことは大学の理事長、学長、事務局の部課長の方々への啓蒙になりました。

【事例3】国内外から名桜大学生に講義

(1)アメリカから名桜大学生に講義(06年)

 1年次の基礎演習で「シリコンバレーの最新動向」と題して、アメリカ・カリフォルニア州のコンサルタント(後に名桜大学客員教授)のオフィスから、動画と音声で講義を行いました。説明にはパワーポイントを使用。受講側の教室にはカメラとマイクを設置し、学生からの質問にもリアルタイムで回答しました。当時、シリコンバレーから大学に向けたリアルタイムの音声・画像の授業は沖縄初ということで、『琉球新報』などに大きく取り上げられました。

 このときの琉球新報記者の最初の質問は「90分の授業で費用はいくらかかりましたか?」でした。「インターネット回線を使ったので無料です」と答えると、とても驚いていました。国際電話のイメージから、かなりの費用がかかったと思っていたのです。この06年時点で、日本国内はもちろん、世界の著名な教授の講義を沖縄県名護市にいても受講できる日は近いと感じました。

(2)台湾から名桜大学生に講義(08年)

 アジア最大のICT博覧会「Computex」を訪問するため、台湾に出張中、1時限目の講義を宿泊ホテルから、3時限目の講義を博覧会会場のプレスルームから、ウェブ会議システムを使って行いました。記者たちのざわめきのなかでも、ヘッドセットのマイクとイヤフォンを使ったため、周囲の雑音を拾うことなく講義ができました。ICT博覧会会場の様子も学生にリアルに伝えることができて好評を博しました。必要な機器さえ持参していれば、ネット環境が整っているところならどこでも講義ができるという自信がつきました。

(3)出張中の米国ホテルから名桜大学生に講義(07年)

公立大学法人 名桜大学 名誉教授 清水 則之 氏
公立大学法人 名桜大学 名誉教授 清水 則之 氏

 カリフォルニアに出張中、宿泊ホテルから名桜大学生に講義しました。時差のおかげで、日中はカンファレンスに出席し、夜間を講義にあて、休講せずに出張できるというメリットを享受しました。現地での使用機器はノートPCとカメラ、マイク、イヤフォン、そしてインターネット(Wi-Fi接続)だけで十分でした。ただし、このころはまだカメラもマイクもPCに内蔵されていませんでしたので、出張には必ず外付けのカメラとマイクを持参していました。

 そのほか、東京に出張中は大学や知人の会社などから発信することがほとんどでしたが、事前の打ち合わせが長引き、講義時間が霞が関の省庁訪問への移動時間と重なってしまい、予定していた場所からの遠隔講義ができなくなってしまったことがありました。まだポケットWi-Fiが普及していなかった時代です。急きょ、当時ネットワーク環境が最も整っていたマクドナルドに駆け込み、講義のセッティングをしました。幸い店内は空いていて、奥の静かな席を確保できて、事なきを得ました。

 出張中も遠隔講義を行ったことには理由があります。普通は出張の際は休講にします。そして、帰ってから補講をすることになりますが、自分の調整もさることながら、学生に多大な迷惑をかけることがわかったからです。学生はアルバイトなども含めて結構忙しく、時間調整が難しかったのです。当時、名桜大学には、同じような研究を行っている先生とネットワークに詳しい優秀なスタッフがいました。そのおかげで何とかできたと言っても過言ではありません。そういう点では恵まれていました。「こういう実験をやりたい」と言うと、すぐにネットワークの接続を確認、プロジェクターなども準備してくれました。とても感謝しています。

【事例4】名桜大学から国内外に講義

(1)オーストラリアに向けて講義(06年)

 名桜大学からオーストラリアのCentral Queensland Universityでアジア文化を勉強している学生に対して、沖縄の歴史について当時の瀬名波学長が英語で講義を行いました。講師も受講者も同時にスクリーンを通して相手の顔が見え、相互に対話できるような環境を設定。講義の途中で学生に学長が質問して学生が答え、逆に学生が質問して学長が答えるという環境を整えました。このときも、名桜大学からインターネットを通して海外の大学へ向けての初めての講義ということで、『琉球新報』などに大きく取り上げられました。

(2)スーダンに向けて講義(07年)

 名桜大学からアフリカのスーダンの社会人と大学院生に対して、「The Waves of ICT in Japan」と題して英語で講義を行いました。スーダンの大学に名桜大学教授(スーダンから琉球大学・大学院に留学、その後、名桜大学教授に)がちょうど帰国しているときでした。受講者には事前にパワーポイントの資料を送付・配布。スーダンの教室には、2台の大型スクリーンが用意され、正面のスクリーンにパワーポイントのチャートが表示され、私(講師)の顔が左のスクリーンに映し出されました。

 パワーポイントのファイルは現地のPCに保存、名桜大学からそのPCをリモートコントロールしてページをめくる実験もしました。コマンドだけが相手のPCに送られたため、スライドショーのページ送りは快適に行われました。

 事例1~4でおわかりいただけるように、06年以降から高速のインターネットが使えるようになり、世界中のどこにいてもメールだけでなく、音声と画像を交えてコミュニケーションをとることができるようになりました。ネットワーク技術と、音声・画像の圧縮技術と高速伝送技術が遠隔講義を可能にし、遠隔地にいるとは思えない環境を作り出したのです。

 現在では、ほとんどすべてのホテルの客室でインターネットが使えます。また、屋外でも無線LANシステムを無料で提供する会社も増えています。さらに空港や駅、そして、ほとんどすべてのファーストフード店で無線LANシステムが使えます。

(つづく)


<プロフィール>
清水 則之 氏
(しみず・のりゆき)
 公立大学法人名桜大学名誉教授、エドノール・インスティチュート代表。早稲田大学理工学部卒業後、1971年日本アイ・ビー・エム(株)入社。IBMシステムセンター、IBM東京基礎研究所、IBMヨーロッパネットワーク研究所(ドイツ・ハイデルベルグ)、IBMパロアルト研究所(アメリカ・シリコンバレー)に勤務。主に汎用コンピューター導入前テスト、ネットワークプロトコルの研究、金融系ネットワークシステムの構築などに従事。2003年から11年まで名桜大学教授。研究分野はネットワークプロトコル、ディスタンスラーニング、医療情報学。情報処理学会シニア会員。著者・訳書に『グループウェア』『インターネット電話ツールキット』など多数。

(1)
(3)

関連記事