オンライン授業が新型コロナ下で一気に前進(4)
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公立大学法人 名桜大学 名誉教授 清水 則之 氏
新型コロナが大きく変えたものの1つに「大学教育のあり方」がある。イスラエルの人類学者であるユヴァル・ノア・ハラリ氏(ヘブライ大学歴史学部の終身雇用教授)は、昨年放映のNHK(ETV特集)で「私の大学では過去20年間、一部のコースのオンライン化を検討してきたが、“ああでもない、こうでもない”という反対で何もできなかった。それが今回は1週間で全てのコースがオンラインに移行した」と語っている。早くから、大学授業のオンライン化に注力してきた公立大学法人名桜大学名誉教授でエドノール・インスティチュート代表の清水則之氏に話を聞いた。
(聞き手・文:金木 亮憲)
重要な役割をはたす離れ島・僻地間の看護情報交換
――医療分野でも遠隔で行う情報のやり取りが重要となってきました。
清水則之氏(以下、清水) 名桜大学の周りには伊平屋村、伊是名村、伊江村、東村など多くの離れ島・僻地があります。これらの島・僻地には常駐のドクターがいません。週に1回、琉球大学附属病院からドクターが通っています。そのため、離れ島・僻地間の予防・看護情報交換はとても大切な役割をはたしています。
そこで私は2008年に伊平屋村、伊是名村、伊江村、東村の保健師・看護師さんを対象に、出前講座を現地で行いました。講座のタイトルは「みんなで使えるICT基礎講座」で、ウェブ会議システムを予防・看護活動に生かしてもらうという目的がありました。
会場にウェブ会議システムを設置し、会場内の数カ所と名桜大学を結んでの模擬会議でした。ウェブ会議と言っても遠隔講義と同じで、ノートPC、カメラ、マイク、スピーカー、そしてインターネットがあれば十分。会議が始まって30分後には、参加者は皆、自由自在にインターネットを使いこなしていました。今では保健師さん、看護師さんが自発的に集まり、意見交換を行っています。
小中高のeラーニングにはICT補助員を
――コロナ後にeラーニングはどのように変わると思いますか?
清水 大学については今までお話したように、日本では約20年前にはeラーニングを実施できる体制が整っていました。ICT技術に詳しい教員・研究者がいる大学では単発的とはいえ、研究・実験が継続的に行われてきました。しかし、「インターネットで行う遠隔講義は効果が薄い。これだけで単位を出すのは好ましくない」という議論が文科省を中心にありました。そして、その壁を打ち破る人も出てきませんでした。
しかし、今回の新型コロナが日本はもちろん、世界中の大学の壁をわずか1週間から1カ月で破壊しました。壁はなくなりましたので、今後のeラーニングは加速的に進化していくものと考えています。欧米には、すでにインターネットだけの大学・大学院もたくさんあります。国内でもインターネットだけの大学院ができています。
次に小中高ですが、日本はOECDの調査(2018年)で、学校でのパソコンなどの使用頻度は加盟国中最下位でした。19年の時点で日本はパソコンなどの端末が5人に1台しかない状態です。また、パソコンなどを使って対面でのオンライン指導に取り組んでいる自治体はわずか5%。そのため、日本は「オンライン教育後進国」と言われています。欧米、オーストラリア、北欧諸国などでは、小中高で1人1台のタブレットまたはPCが常識になっています。私は、このことについて2つの観点から考察しています。
1つ目は、生徒(両親の考え方を含む)の観点です。日本でも、小学生にタブレットまたはPCを与えれば、十分に使いこなすことができます。慣れることが必要で、そのためにはゲームなども含めて、さまざまなケースでタブレットまたはPCを使わせてあげるといいと思います。「パソコンはプログラムを組むものである」や「うちは理数系の学校でないので、パソコンはいらない」というのは、古い考えで大きな間違いです。パソコンはプログラムを組むものではなく、日常的に必須の道具の1つなので、できるだけ自由に持たせて、使わせてあげるとよいと考えています。
2つ目は、学校の観点です。1人1台のタブレットまたはPCを持った後は、その使い方を教える必要があります。大学にはICT分野の教員や研究者もたくさんいますので、技術的には問題ありません。
しかし、小中高ではそうはいきません。高校に「教科(情報)」が導入されたときは、数学や理科の先生に研修を受けてもらい、急場を凌いだところがたくさんありました。しかし、小中高に本格的にタブレットやPCを導入する場合は、進んだ諸外国のように、専門職としてのICT補助員をつける必要があります。予算上の問題もあると思いますが、そうすれば小中高のeラーニングは見違えるように進展すると思います。
何処にいても、著名な先生の講義が聞くことができるようになる
清水 大学もeラーニングが浸透することによって大きく変わります。昔は東京・大阪など大都市に負けないように、地方の拠点にも大学をつくる必要がありました。1946年の学制改革に基づいて、49年に新設された国立大学は「駅弁大学」(俗称)と呼ばれました。しかし、もうその役目は終わりました。なぜならば、eラーニングによって、地方にいても都市部の授業が受けられるので、教育現場における地方と都市部のギャップはすでになくなっているからです。近い将来、「どの大学を卒業したか」ではなく、「何を専門として、誰に学んだのか」が問われる時代が来るかもしれません。
学生はどこにいても、国内外の著名な先生の講義を聞くことができるようになるので、大学教員の数は少なくなっていくでしょう。たとえば「コンピューターネットワーク」という科目は、理系であればどこの大学にもあります。そして多くの大学で、担当教授はその分野の最先端を行く著名な教授の同じ教科書を使っています。それならば、直接その教授に教わった方が、学生も理解が速くなるかもしれません。
少子化により学生数の減少が叫ばれるなかで、この流れは止まらないと思います。その結果、大学は統合されていくでしょう。もちろん、多くの学生が受講できても、成績評価は講義教員1人でできるわけではありません。また、単位取得の問題も絡むのですぐには無理と思いますが、間違いなくその方向に進んでいくでしょう。
(了)
<プロフィール>
清水 則之 氏(しみず・のりゆき)
公立大学法人名桜大学名誉教授、エドノール・インスティチュート代表。早稲田大学理工学部卒業後、1971年日本アイ・ビー・エム(株)入社。IBMシステムセンター、IBM東京基礎研究所、IBMヨーロッパネットワーク研究所(ドイツ・ハイデルベルグ)、IBMパロアルト研究所(アメリカ・シリコンバレー)に勤務。主に汎用コンピューター導入前テスト、ネットワークプロトコルの研究、金融系ネットワークシステムの構築などに従事。2003年から11年まで名桜大学教授。研究分野はネットワークプロトコル、ディスタンスラーニング、医療情報学。情報処理学会シニア会員。著者・訳書に『グループウェア』『インターネット電話ツールキット』など多数。関連キーワード
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