2024年07月16日( 火 )

日銀ありがとう~日本病 (Japanification)からの脱却が始まった(前)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2021年3月11日付の記事を紹介。

黒田日銀が日本を救った

 黒田日銀の登場と異次元の金融緩和、量的質的金融緩和開始(2013年4月)から8年、マイナス金利導入(16年2月)から5年が経過した。この間の政策効果を検証すべく日本銀行は3月18、19日の金融政策決定会合で、政策運営の点検結果を公表する。

 日銀批判派は、(1)2%のインフレターゲットが達成できていない、(2)マイナス金利は利幅をなくし、金融機関の収益に打撃を与えた、(3)株式ETF購入により市場の規律を損なった、などと問題点を指摘している。しかし、黒田日銀の登場なくしては、日本経済は想像しがたい打撃を受けていたであろう。実際、日経平均株価は1万円強から3万円まで上昇し、為替相場(ドル円為替レート)は80円から一時120円まで円安となり、デフレ基調からインフレ基調へと、物価動向を変えた。

異次元金融緩和が凍てついたマネーフローを突き動かした

 異次元の金融緩和が決定的に変えたのは、日本の凍てついたマネーフローを大きく突き動かしたということであろう。図表2により日本における主体別国債保有比率の推移を見ると、日銀比率が11%から48%へと12年比37ポイント上昇し、国内金融機関・投資家・公的年金の比率が74%から38%へと同36ポイント低下した。日銀による大幅な国債買い入れは政府の赤字補てんではなく、大量の国債保有で身動きができなくなっていた民間金融機関、ゆうちょ銀行、公的年金(年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)など)を身軽にしたという意義がある。国内金融機関・投資家は、ポートフォリオのリバランスを通して新たな貸し出し、株式や海外資産投資に向けた新たなマネーフローを構築した。

 また、図表3は日本株式の累積投資額であるが、累計35兆円を購入した日銀が唯一最大の買い手であり、株価を押し上げ“機関車”であったことがわかる。経済が成長して企業業績が増加し2%前後の配当率が続くなかで、家計が累計34兆円もの株式を売り越すこと、加えて、その売却代金のうちほとんどすべてを利息ゼロの現預金に滞留させてきたことは、経済的に見て極めて非合理的行為であった。これに立ち向かったのが日銀である。日銀の介入がなかったら株価低迷が続き、デフレは深刻化していたであろう。

日銀は世界に先駆けて政策イノベーションを実施し続けた

 日本は世界で唯一本格的デフレに陥った特別の国である故、通常とは異なる対応が求められる。論理ですべて割り切れる「科学の世界」ではなく、「アートの世界」で活動しなければならない。QE(量的金融緩和)も、株式購入も、長短金利操作(イールドカーブコントロール=YCC)もすべて日銀が世界に先駆けて行ってきた金融政策イノベーションである。

 今回の点検では、物価目標や「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組み自体は有効なので検討対象でないと説明されている。(1)さらなる金融困難・円高への切り札として追加緩和・マイナス金利の深堀の余地を残すこと、(2)長短金利の変動幅の一定の拡大を容認し、金融機関の利ザヤを確保すること(YCC)、(3)ETF購入を弾力化・機動化、などが提起されるだろう。

(つづく)

(後)

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