2024年12月23日( 月 )

日銀ありがとう~日本病 (Japanification)からの脱却が始まった(後)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2021年3月11日付の記事を紹介。

日本経済の蹉跌⇒名目GDP500兆円台から脱却できず、コロナで再びデフレに陥落

 日銀の政策失敗のせいではまったくないが、日本経済は依然世界の落第生から脱却できてはいない。バブル崩壊後の1994年以降、26年にわたって日本の名目GDPは500~550兆円の範囲内で推移している。黒田日銀登場直前の2012年の500兆円に対して、コロナ前の19年561兆円と、7年間で12%(年率1.7%)しか増加していない。20年はコロナにより消費者物価指数の増減は再度マイナスに落ち込み、名目GDPは540兆円を下回る見通しである。詳細な分析は省くが2つの根本原因を指摘したい。第1は財政引き締めの影響である。2度の消費税増税により財政赤字(対GDP比)は12年の▲7.4%から19年には▲2.6%に改善した。財政改善により累計でGDPの約5%が失われた。日銀の異次元金融緩和効果は財政の逆風により大きく減殺されたといえる。

根拠なき悲観論の大罪

 第2の日本停滞の根本原因は、過度の根拠なき悲観論である。1990~2005年頃までは日本固有の成長制約があった。米国の日本叩き、円高誘導、バブルのつけ(不良債権処理・企業のリストラコスト)などが成長を抑制した。しかし05年頃より、日本固有の制約要素がなくなったにもかかわらず、成長率の向上が実現できなかった。悲観論の定着⇒経済悪化と悲観の悪循環が起きてしまったと考えられる。

 たとえば、なぜ日本のハイテク企業は敗れたのだろうか。日本のハイテク企業には高い技術力があり、技術者はまじめに働いたが、円高で価格競争に負けた。また、リスクキャピタルの凍結で投資競争に負けた。エルピーダメモリの破綻など、相次ぐハイテク企業の挫折・部門売却、技術流出はなぜ起きたのだろうか。日本には「資金=貯蓄」は極めて潤沢にあったが、リスクプレミアムが高すぎて投資には向かわなかったためである。なぜリスクプレミアムが高かったのか。それは根拠なき悲観のため、アニマルスピリットが消えたからである。

 アニマルスピリットの喪失が日本株式の極端なアンダーバリュエーションを引き起こしている。日本と各国のPBRを比較すると米国4.1倍、英独仏1.7倍、日本1.2倍と極端な割負けが存在している。日銀が株式ETFを購入する目的はリスクプレミアムの引き下げとしているが、これこそ日本の病の核といえる。

渡辺教授が指摘する恐怖心が与える大きな経済制約

 渡辺努東京大学教授は、恐怖心こそがコロナ後の景気悪化の最大原因であったと分析している。健康被害(コロナ感染者/死者数)の大きな米国の経済被害が日本と変わらないのは、恐怖心が原因であるとの分析である。100万人あたりの死者数が1,500人に上る米国の経済被害(渡辺教授試算のGDP損失)は6%で、100万人あたりの死者数が54人と米国の30分の1に過ぎない日本もこれとほぼ同等である。米国の平均寿命は20年6月現在、77.8歳と、前年比1年短縮し06年以降もっとも短くなった。これほどの健康被害にもかかわらず、米国の経済成長率は先進国のなかで最高である。OECD(経済協力開発機構)は3月9日に21年の経済見通し(前回は20年12月実施)を改定したが、全世界は4.2%⇒5.6%へと20年12月比1.4ポイントの改善であったが、うち米国は3.2%⇒6.5%へと同3.3ポイントという最大規模の改善となった。ちなみに日本は2.3%⇒2.7%へ同0.4ポイントの改善、ユーロ圏3.6%⇒3.9%へ同0.3ポイントの改善、中国は8.0%⇒7.8%へと同0.2ポイントの悪化となっている。

 「カギは人々の恐怖心だ。人々は感染を恐れて外出を抑制する。これにともない飲食店などサービス業への需要が激減し、GDPが大きく落ち込む。これが経済被害が起きる仕組みだ。恐怖心は得体のしれないもので、直接検証しにくい。だが心理学では『感染が心配で夜も眠れない』『命を落とすことを心配している』などの質問に答えてもらうことで人々の恐怖心を測定し、恐怖心の強弱と感染対策の行動(外出抑制やマスク着用など)との関係を探ろうとしている。恐怖心と感染対策行動の間には強い相関が確認される」(『日経新聞』経済教室21年3月9日付)。コロナ禍で奇しくも顕在化した恐怖・悲観といった心理要因が日本病(Japanification)の原因と特定できるのではないだろうか。

日本病(Japanification)からの脱却が始まった

 しかし今、日本病からの脱却が始まりつつあるのではないだろうか。コロナ禍により長らく日本経済の制約要因であった財政のくびきが取り払われた。日本のコロナ対策による財政寄与は他国より格段に大きい。またポストコロナの世界経済回復が見え始め、その恩恵が表れつつある。米国景気回復・長期金利の上昇とドル高傾向もみえてきた。日経平均は3万円台まで回復した。日銀の追加策がとくになくても経済回復、物価上昇、株高が維持できる局面に入りつつある。それは日本の根拠なき悲観を一掃し日本病(Japanification)を終わらせるものとなるだろう。

(了)

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