【ラスト50kmの攻防(20)】フル規格ルートの絞り込み始まる
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九州新幹線鹿児島ルートの全線開業から3月12日でまる10年が経った。鹿児島と並んで九州の高速鉄道になる長崎ルートは2022年秋の部分開業が迫る。双方の接続区間の新鳥栖―武雄温泉間も、佐賀県のフル規格推進派がルートの絞り込みに動き始めた。
鹿児島や長崎など整備新幹線5線のうち東北(盛岡以北)と鹿児島がすでに全線開業。あと3線のうち北海道は新青森-新函館北斗が開業。新函館北斗―札幌間212kmが30年度完成を目標に工事が進む。
北陸は、上越新幹線と分岐する高崎を起点に金沢までの117kmが開業。続く金沢-敦賀間125kmは24年春開業を目指し工事中。さらに敦賀-新大阪間143kmは着工の前提になる環境アセスメントの段階。これに対し長崎は、武雄温泉―長崎間66kmは22年秋に開業。それ以東の新鳥栖-武雄温泉間は行政手続上、何も進んでいない。整備方式も、ルートも不透明だ。
ただ整備方式とルートは、国交省と経営主体のJR九州が、旧国鉄が環境アセスメントを実施した佐賀駅経由のルートをフル規格整備することで一致。佐賀県の説得を続けている。
不思議なのは、与党整備新幹線建設推進PТの九州新幹線西九州ルート検討委員会の立ち位置。ルート問題を棚上げしたままフル規格を打ち出した。理由は、佐賀駅経由(通称アセスルート)以外に山沿いを走る北ルートや佐賀空港付近を通る南ルートを主張する有力者が潜在するためだ。南ルートは、鹿児島ルート筑後船小屋駅(福岡県筑後市)から分岐する案さえあるという。
新鳥栖-武雄温泉間の距離はわずか50km。北海道の渡島(おしま)トンネル32kmと札樽(さっそん)トンネル26kmの合計距離にもおよばない。整備方式で一致するフル規格推進派は、ルートでは3派に分裂、北か南なら「新佐賀駅」が必要になる。
南・北ルート派は、新幹線の貨客併用を念頭に長崎道の佐賀大和IC付近または佐賀空港付近で貨物の集出荷が可能な土地の確保を考える。フル規格に猛反対する佐賀県の山口祥義知事が「整備方式をめぐる国交省との幅広い協議ではルートも協議対象」と公言するのも、フル規格派がルートで一致しないとみての発言だ。
ところが、ここにきて自民党佐賀県連が政党機関誌「自由民主」佐賀県版で西九州ルート(長崎ルート)の特集記事を初めて掲載。フル規格ルートは佐賀駅経由のみを描いた。党内がまとまったか即断できないが、フル規格はルートの絞り込みを棚上げにしてはできない実態を、図らずも浮き彫りにした。
4月11日に経済団体主体の「フル規格促進佐賀県民会議」の設立総会が嬉野市で開かれる。新幹線建設の必要性を広く啓発するのを目的にした組織の総会であるが、ここでもルート問題は避けて通れない。長崎に先行する北陸は、与党PTが「北陸新幹線敦賀・新大阪間整備委員会」を設置した。建設費2兆1,000億円(国交省の17年3月試算)の財源確保策をまとめ、22年末の工事実施計画の認可申請、23年春の着工を目指す構え。
しかし現実は厳しい。財源確保もさることながら、新幹線が縦走する京都丹波高原国定公園内の京都府南丹市や京都市の一部地域で、建設主体の鉄道・運輸機構が環境アセスメントの立入調査を拒まれている。
また京都盆地や大阪府の市街地は、深さ40m超の大深度地下をトンネル掘削するため、大量の排土が発生する。トンネルが8割を占める北海道・新函館北斗-札幌間は、大量の掘削土が有害物質を含むため排土置き場を確保できず、30年度開業に”黄色信号”が灯る。その点、長崎は短距離で佐賀駅経由ルートの大半は平坦地。建設財源は6,200億円(国交省の20年10月試算)で北陸の3分の1をやや上回る程度。着工条件が整えば、早期の全線開業も望める。
【南里 秀之】
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