2024年11月23日( 土 )

人類は進化する人工知能(AI)との戦いに勝てるのか?(前)

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。今回は、2021年3月19日付の記事を紹介する。

 自らを「テクノキング」と称し始めた電気自動車「テスラ」の最高経営責任者イーロン・マスク氏は、ことあるごとに故スティーブン・ホーキング博士の言葉を口ずさむことで知られる。同博士は「人類の未来はあと1,000年で終焉を迎える」との見通しを語っていた。ところが亡くなる直前、この予測を全面的に見直した結果、「人類に残された時間は、せいぜい100年しかない」と軌道修正した。なんと、900年も人類の未来をカットしてしまったのである。

 一体全体、どういうことなのか。故ホーキング博士いわく、「人類は急いで別の惑星に移住することを考え、実行しなければならない。地球は生物が生存するには、あまりにも危険が大きくなり過ぎた」。これまで人類はさまざまな偉業を成し遂げ、科学の力で生活を便利で豊かなものに進化させてきた。このことに異論をはさむ人はいないだろう。

 たしかに、我々は空を飛ぶようになった。もちろん飛行機のおかげだが…。また、多くの機械を発明、製造してきた。病気を克服する医療の進歩も目覚ましい限りだ。コンピューターもインターネットも飛躍的な進歩を遂げ、ビジネスも生活も格段に飛躍することになった。

 その一方で、破壊や対立も巻き起こった。ミャンマーで起こった軍部によるクーデターがもたらしている惨状は、悲惨としかいいようがない。国連の事務総長が「震撼させられる」と心情を吐露するが、民主主義の基盤がいかに脆いかを明らかにしている。2度の世界大戦はいうまでもなく、個人レベルでも地域間でも、些細ないざこざから流血騒動、そして人種や宗教が絡まり、紛争やテロが絶えないありさまだ。

 誰もが望まなくとも、対立や戦争は起きる。過去の人類の歴史を紐解けば、そうした結論に到達せざるを得ないだろう。翻って、第2次世界大戦後も今日に至るまで、戦争が勃発しなかった年は1年もない。これが世界の現実である。「戦争ほど儲かるビジネスはない」とうそぶくのが、軍産複合体と呼ばれる軍需産業界の実態といえよう。

 しかも、今や核兵器の拡散という新たな脅威が生まれてきた。世界では核廃絶の声が高まる一方ではあるが、アメリカ政府もロシア政府も一向に聞く耳をもたないようだ。さらには、新たに核保有国となった北朝鮮が関わるとなると、これまでの地域紛争や人種、民族対立から派生した戦争とは大違いのリスクが避けられないだろう。なぜなら、人類や地球の最期になりかねない危険をはらんでいるからだ。

 そんな状況を見据えて、車椅子の物理学者として著名な故ホーキング博士は、人類の未来について悲観的ともいえる遺言を残したのである。残された時間を1,000年から100年に縮めてしまった。科学の力を信じ、宇宙への関心を広げ、自らも宇宙への旅立ちに備え、無重力体験を重ねていたホーキング博士であった。そんな同博士の遺言的未来予測は杞憂であってほしいと願うばかりである。

 実は、ホーキング博士は2016年11月の時点では「人類にはほかの惑星への移住を完了するまで1,000年の時間的余裕がある」と述べていた。ところが、それから1年も経たずして、「残された時間はあと100年」と大幅な修正を行ったのである。ということは、16年から17年の間に起こった事態に原因があるのだろう。

 その意味では、同時期に繰り返された北朝鮮による核実験やミサイル発射実験が、故ホーキング博士の未来予測を大きく変えさせたに違いない。トランプ政権下で、金正恩委員長との間で3回の米朝首脳会談が行われたが、北朝鮮の核開発を止めることはできなかった。バイデン政権が誕生した後も、金正恩委員長は大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験を匂わせているため、アメリカ政府はその阻止に向けて日本を含む同盟国へ連携強化を訴えている。

 要は、結果的にアメリカが北朝鮮の核保有を認めることになったわけで、そうした核の脅威が継続するのであれば、韓国や台湾、そして日本も核保有の道を歩むことになる可能性も否定できない。日本人はそう思わなくとも、海外からはそうした目が向けられていることは理解しておく必要がある。いわゆる「核兵器の拡散」というドミノ現象が広がり、何らかの人為的判断ミスや操作ミスによって、地球全体が核爆発に飲み込まれる恐れが大きくなったといえるだろう。

 こうした核兵器をめぐる状況に加えて、人類が自ら首を絞めるような行為を重ねた結果、「地球温暖化」という脅威が急速に頭をもたげてきた。トランプ前大統領は「地球温暖化はフェイクニュースだ。そんなものは存在しない」と啖呵を切ったが、テキサス州やフロリダ州を襲った前代未聞の大洪水、カリフォルニア州の200カ所で同時に発生した山火事などは紛れもなく、温暖化のなせる業であった。

 「知の巨人」と異名を取る故ホーキング博士が、亡くなる直前、人類の未来を900年も短く予測せざるを得なくなったのは、偶然ではないだろう。と同時に、故ホーキング博士の懸念は人工知能(AI)にもおよんでいた。「シンギュラリティ」と呼ばれているが、AIが人間を凌駕する時代が間もなく到来する可能性が高いとの警鐘にほかならない。

 この分野に関心を寄せる「テスラ」や「スペースX」の創業社長であるイーロン・マスク氏は「40年には人類はAIに価値判断を委ねるようになる」と語る。欲望の虜になりがちな人間に任せていては、地球環境は悪化するばかりで、紛争や戦争も絶えない。人類全体の幸福や地球全体の生存を考えたとき、すなわちそれは「AIの出番となる」というわけだ。とはいえ、AIが人間のいうままであり続ける保証はない。マスク氏も「人間は注意しなければAIに支配されかねない」と考えているという。

 この点は故ホーキング博士も同様であった。AIが自ら価値判断を下すようになれば、生身の人間では生存できない劣悪な環境下でもロボットとしてAIは生き残れるので、いずれ生んでくれた人類に見切りをつけ、AIの社会や国家を目指すようになる。そうなれば、人間に勝ち目はないだろう。

 そうしたAIの天下が現実のものとなる前に、人類は安全に暮らせるより良い環境を求めてほかの惑星に移住する道を進むべきだ、というのが同博士の主張であった。これにはマスク氏も大いに共鳴し、「スペースX」を通じて「火星への移住計画」を打ち出している背景となっているに違いない。


著者:浜田和幸
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