新型コロナウィルス対策の裏で進む人工知能による監視システム(前)
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国際政治経済学者 浜田 和幸
新型コロナウィルス(COVID-19)の猛威は収まる兆しが見えない。日本では大阪や宮城など、東京圏以外での感染、とくに変異種による拡散が問題視されるようになった。そのため、緊急承認されたアメリカやイギリスの製薬メーカーによるワクチンでは変異種への予防効果が不明との問題点が急浮上。すでに医療関係者や高齢者から優先的な接種が始まっているが、感染力が強く死亡率も高いと見られる変異種に向き合うには「現在のワクチンでは効果が期待できない」との指摘も出てきた(3月30日付け、英国の「ガーディアン」紙)。
7月に開催予定の東京オリンピックに関しては聖火リレーもスタートし、「開催ありき」で準備は進んでいるようだが、海外からの観客は来日が認められず、選手団にもさまざまな感染予防対策上の制約が課せられるということで、本当に実施できるのか不安は払しょくされないままだ。クーベルタン男爵が提唱した「スポーツと文化を通じた人間復興」という近代オリンピック憲章の精神からは乖離してしまったように思われる。
一方、世界で最悪の感染者や死者に見舞われているアメリカでは、ワクチン開発や接種とは別の動きが加速している。そこからは日本とはまったく異なり、「唯一無二の超大国を維持する」との観点から、「ポスト・コロナ時代」で主導権を握ろうとする意図がうかがえる。その主役を担うのは人工知能(AI)であり、「データの収集と管理がすべてを左右する」との発想が見て取れる。
具体的にいえば、「国家AI安全保障委員会(NSCAI)」ではAIやマシーン・トレーニングなど、国家の安全保障に関する総合的な関連技術の研究開発を積極的に進める方針を打ち出した。議長は「Google」の親会社である「アルファベット」の元代表エリック・シュミット氏。同氏曰く、「今こそアメリカ政府が立ち上がらなければ、シリコンバレーは技術戦争で中国に負ける」。その危機感は政権の内外に広く共有されている。
確かに、中国はAIを活用した医療診断はもとより、スマートシティ構想でもアメリカの先を行く。すでに中国は顔認証システムをジンバブエへ、スマートシティ関連のノウハウをマレーシアに輸出しているほどだ。さらには、インドで利用が拡大するモバイル決済「ペイTM」は中国企業が完全にコントロールしている。いわゆる「キャッシュレス・インディア」計画に他ならないが、その基盤となる技術は中国に依存しているわけである。国境地帯では戦闘が散発するインドと中国であるが、デジタル経済の分野では相互依存が進んでいる。
こうした中国政府が主導するAI戦略に対抗すべく、アメリカ政府は2018年に決定した「国家防衛許可法(National Defense Authorization Act)」に基づき、アメリカの覇権を強固なものにしようと目論んでいる。巷間、「第4次産業革命」と命名されているが、「データが新たな石油となる」といった観点から、中国のAI戦略を見越したうえで、「共同AIセンター(JAIC) 」を設立したのである。
そこで中心的な役割を期待されているのが、「AIメディスン」である。ここではAI開発の薬でコロナウィルス用の治療を加速させようと取り組んでいる。現在接種が行われている「ファイザー」や「モデルナ」、そして「ジョンソン・エンド・ジョンソン」などのワクチンは「あくまで感染した際に重篤化を押さえるのが目的で、感染そのものを予防する効果はない」ため、根本的な治療薬の開発に先鞭をつける考えに他ならない。変異種も分析し、新たな治療薬の開発に結び付けようとの動きが加速している。
そのため、「マイクロソフト」は「健康のためのAI」計画で2,000万ドルをNSCAIから調達し、コロナウィルス関連データの分析を進めている。そうして得られたデータを基に、今後は遠隔診断や治療への応用を目指すという。と同時に、追跡アプリの開発や精度の向上も課題となっている。要は、現在進行中の新型コロナウィルス対策に止まらず、次なるパンデミックの発生予防にAIを活用しようという目論みである。国家予算を投じて、ハイテク企業の総力を結集しようとするわけで、見方によっては「テクノ専制国家」の誕生を予感させる。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。関連キーワード
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