2024年11月22日( 金 )

五輪中止がもたらす希望の灯

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を抜粋して紹介する。今回は、「五輪開催中止となれば、日本のイメージは史上最悪の水準に低下するが、結果として菅内閣が終焉することが唯一の救いになる」と訴えた4月3日付の記事を紹介する。

不審火を灯す公称「聖火リレー」

実態が伝えられていない。
実態は「商業五輪」「利権ファースト」の象徴。

斎藤美奈子氏が3月31日付東京新聞「本音のコラム:隠されたパレード」にこう記した。

迂闊(うかつ)だった。
聖火リレーがこんな大パレードだったとは。
『ズチャ、ズチャ、ズチャ』と大音響の音楽を響かせ、やってきたのは大型トラック。

荷台の上のDJ(ディスク・ジョッキー)が大声で叫ぶ。
『福島の皆さん、1年待ちました』、『踊って楽しみましょう』。

コカ・コーラ、日本生命、NTTといった上位スポンサーの宣伝トラックに先導されて、だいぶ後からやってきた聖火ランナーの姿はかき消されんばかり。
7月23日までの約4カ月間、この騒々しい一団が全国各地を次々と襲うのだ。

東京新聞の原田遼氏が3月26日付の東京新聞に記事を掲載した。
「聖火リレー 大音量、マスクなしでDJ…福島の住民が憤ったスポンサーの『復興五輪』」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/94041

原田氏は4月2日付東京新聞に
「聖火リレー 私が五輪スポンサーの『お祭り騒ぎ』動画をTwitterから削除した理由」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/94981
を掲載した。

原田氏は、東京五輪聖火リレーで目立つスポンサー車両を映し、ツイッターで約90万回再生された動画を3月28日に削除した。
背景にはメディアの動画公開を撮影から「72時間」とし、公道で撮影した動画すら規制する国際オリンピック委員会(IOC)の独自ルールがあった。

江川紹子氏は
「聖火リレー報道規制IOC『ルール』に法的根拠はあるのか」
https://bit.ly/3uaypia
で、法律専門家の見解を紹介している。
専門家は「日本の法律を無視した傲慢な『ルール』」と指摘している。

日本はいまコロナ感染拡大の危機のさなかにある。
菅内閣が3月21日をもって「緊急事態宣言」解除を強行したのは、3月25日から聖火リレーをスタートさせるためだった。

しかし、3月21日時点でコロナ感染は再拡大に転じていた。
日本はいま、コロナ感染第4波に突入している。
東京都の新規陽性者数は3月9日から前週値を上回り続けている。

3月18日、19日、31日だけ、誤差の範囲で前週値を下回ったが、これ以外の日はすべて前週値を上回った。
週間値は2月28日から3月6日の週をボトムに4週連続で前週値を上回った。
大阪では第3波のピーク水準にまで感染が拡大している。

感染の主流は変異株に切り替わってきている。
感染が急増している関西でのウイルスは英国型の変異株であると見られている。

感染急増を受けて菅内閣は緊急事態宣言解除から10日で「蔓延防止など重点措置」発動に追い込まれた。
感染は全国に広がっており、「緊急事態宣言発出」に追い込まれるのは時間の問題。
この感染再拡大のなかで「不審火リレー」=「聖火リレー」が強行されている。

その「聖火リレー」の内実は「聖火」といえる代物でない。
「商火」である。
コカ・コーラ、トヨタ自動車、日本生命、NTTの広告車リレー――。

スポンサーが、投下したスポンサー料を回収するために聖火リレーを強行させている。
大音量のコンボイを走らせれば観衆は大声を出さなければ会話もできない。
コロナ感染拡大を推進するスポンサーに対する不買運動が必要な状況だ。

「聖火」のリレーが目的でリレーが強行されているのではない。
宣伝カー・コンボイを走行させるためにリレーが強行されている。
五輪は単なる商業イベントである。
単なる商業イベントをコロナ感染の緊急事態下で強行する正当な理由は存在しない。

福島の原発事故は放置されている。
一般公衆の被ばく上限は法律によって年間1ミリシーベルトに定められている。
ところが、福島では年間線量20ミリシーベルトが容認されている。
学校における年間線量も20ミリシーベルトが容認されている。

年間線量が20ミリシーベル以下に低下することが見込まれる地域で避難措置が解除された。
年間線量20ミリシーベルトの土地に居住することが強制されている。

被曝を避けて避難しても補償を一切行わない。
原発事故被災者を完全に切り棄てている。
原発事故被災者を切り棄てておきながら「復興五輪」と表現することなど許されない。
暴動が起きておかしくないレベルだ。

2011年3月11日に「原子力緊急事態宣言」が発令された。
この「原子力緊急事態宣言」がいまなお解除されていない。
福島の原発事故被害者は高線量の放射線汚染地帯への居住を強制されている。
累積被ばく線量が100ミリシーベルトを超えれば人体に悪影響を与えることが科学的知見として認知されている。

100ミリシーベルトの被曝でがん死リスクが0.5%上昇する。
人口100万人で考えれば、5,000人ががんで殺される。
「ジェノサイド」と表現できる規模の影響が生じる。
20ミリシーベルトの被曝が5年経過すれば100ミリシーベルトに達する。
このような棄民政策を容認して良いわけがない。

コロナ感染も再拡大している。
3月21日をもって緊急事態宣言を解除したことが、その後の人流拡大に拍車をかける主因になった。
人流拡大が感染リスクを上昇させる。

多人数での会話をともなう会食機会の増加が感染を拡大させる。
感染を引き起こすのは会食だけでなく、カラオケも重要な原因になるが、感染機会の拡大は人流拡大に連動する。

感染が生じるのは午後8時以降、9時以降と限らない。
昼間の時間帯でも、多人数で会話をともなう会食をすれば感染は拡大する。

昼間の時間帯でも、狭い空間に多人数が集まり、マイクを使い回してカラオケに興じれば感染は拡大する。
飲食店の営業時間抑制ではなく、多人数で会話をともなう会食機会を抑制することが重要だ。

遅い時間帯でも、「個食」「黙食」であれば感染は広がらない。
「家族限定の会食」でも感染は広がらない。
効果的な感染対策が必要だが、まったく実行されていない。
3月21日以前と以後で、感染抑制策は強化でなく緩和された。

一部都道府県に「蔓延防止など重点措置」が実施されても、それ以外の地域には適用されていない。
春休みで大都市圏から全国各地への人流が拡大している。
全国各地で会話をともなう多人数での会食機会が増大している。

新規陽性者数として顕在化するのに約3週間の時間がかかる。
五輪組織委員会が創出している利権ファースト「商火リレー」での感染機会拡大も3週間後の新規陽性者数増加をもたらす。
4月から5月にかけて緊急事態宣言発出に追い込まれれば五輪を中止するしかなくなる。

すでに東京五輪に対する世界の評価は地に堕ちている。
このなかで聖火リレーを強行し、緊急事態宣言再発出に追い込まれ、挙句の果てに、「日本がコロナに敗北した証」としての五輪開催中止となれば、日本のイメージは史上最悪の水準に低下する。

結果として菅内閣が終焉することが唯一の救いになる。


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植草一秀の『知られざる真実』

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