2024年12月23日( 月 )

日米同盟深化、1ドル120~130円視野に~地政学が引き起こす円独歩安(前)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2021年4月1日付の記事を紹介。

 I. 円の独歩安が進行している、日足でみれば年初来円は独歩安である。週足でみれば2016年からの円高トレンドは完全に終焉したようである。月足でみれば、円は11年の大天井の後、20年に二番天井を付けた形勢が濃厚である。長期円安が始まったかもしれない。

 II. 日米同盟の深化が円安を惹き起こす。円安で日本経済を立て直すことは米国国益にとっても重要と考える。

 III. 円安で日本の景況は様変わりする。製造業競争力は激変する。コロナ後日本への観光客は急増するだろう。企業収益は飛躍し、賃金上昇が始まるだろう。

激流期に入った世界情勢

 歴史の流れは緩急自在、何十年も変化を止めている時もあれば、激流のごとく1年で10年、20年分の変化を成し遂げることもある。今、我々はこの歴史の激流期に差しかかったのではないか。バイデン政権成立から100日もたたないうちに、米中敵対関係は抜き差しならない事態となり、対立はエスカレートの一途である。

 バイデン政権の下でも米国は中国を敵対関係にある国と認識し、米日豪印4カ国対中連携(クアッド)の構築、英仏艦隊アジア派遣、中国包囲のミサイル網構築、米国軍備の近代化など、軍事的包囲網の準備を進めている。

 他方、中国はロシアとの外相会談を開催し連携関係を強化、イランとの25年間の協力協定締結、北朝鮮との通商拡大、トルコとの連携など、潜在的非民主国家群とのネットワーク構築をあからさまに展開している。また、全人代常務委員会で香港選挙制度改正案が可決され、香港自治が最終的にはく奪された。

最大のリスクは中国が米国衰退論を確信すること

 米中関係は、爆発しかねない危険をはらんだ地雷原のようだ。なかでも最大のリスクは、中国が米国の衰退を過信することだ。自信過剰になった中国の指導部が一線を越えて挑発的になれば、米国は強硬な反撃をせざるを得なくなる。南シナ海、通商、とりわけ香港と台湾などでそのリスクが表面化している。バイデン米政権が取り始めた対中政策はこのリスクを念頭に置いている。バイデン政権の戦略は、米国の経済・外交・軍事面の底力を明確に示すことで、米国が衰退しつつあるとの中国の主張を打破するものである。そのメッセージは「米国の力を見くびるな」という単純明快なものだ。

 それは中国が自国領土と考える台湾において、最も重要なものかもしれない。習近平氏が軍事力を行使してでも台湾統合に進み始める可能性を、米当局は懸念している。香港の民主主義の弾圧は、その予行演習かもしれない。習氏にそれを思いとどませる最良の方法は、米国が依然強力で国際的影響力を保持していることを見せつけ、米国による反撃が強大であることを認識させることかもしれない(WSJ21年3月30日付、「Fear of Miscalculation Haunts China Policyバイデン氏の対中政策、中国の過信の打破にある」)。

日米同盟強化は必須、円安が切り札に

 あと1つ、米国の反撃力を担保するものは、強力な同盟関係である。なかでも日米同盟は決定的重要性をもっている。歴史上、今ほど米国にとって日本の存在が重要になったことはなかったのではないか。バイデン大統領が最初に会見する海外首脳として菅首相が選ばれたこと、米ブリンケン国務長官、オースティン国防長官が初外遊として来日し、日米2プラス2会談を実施したことなどは、それを示している。

 米中敵対時代において日本は、第1に地理上、米中両国にとって決定的に重要な存在だ。日本が米中のどちらにつくかは、米中覇権争いの帰趨の決定要因の1つであろう。

 第2に、経済の面からも日本の役割が重要である。アジアにおける日本のプレゼンスの引き上げが必須になってくるだろうと考えられる4月初旬の菅首相訪米により、日米同盟の強いきずなが宣言されるはずである。菅首相は米国が期待する新疆などにおける人権侵害批判の国会決議を持参するかもしれない。それとの見返りに米国が日本に与えるものは、円安容認ではないか。円安こそ日本のデフレ脱却を決定的にし、日本経済を停滞から脱出させる切り札だからである。

 バイデン政権のインド太平洋調整官の任についたカート・キャンベル氏は「同盟国に経済的利益を与えることなくして同盟強化はあり得ない」という主張をフォーリン・アフェアーズ(2021年1月12日「How America Can Shore Up Asian Order A Strategy for Restoring Balance and Legitimacy」)で展開している。

(つづく)

(後)

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