コロナとニューヨーク~花は咲く、世界は変わる(前)
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大嶋 田菜(ニューヨーク在住フリージャーナリスト)
春になって暖かい風邪が吹いてくる。人生や社会はちっとも変わっていないのに、何か変わったような気がする。四季はそのような更新の幻想を与える力があるのだ。というか、実は本当に変わっているのかもしれない。周りが変われば人間も変わる。毎日、1秒ごと世界は変わっていく。人間は毎日同じ家に住んでいても、毎日違う家に住んでいる。「人は同じ川には足を2度入れることはできない」とヘラクレイトスは言った。
ワシントンスクエアには、たった2本の桜が静かに咲いている。冬風とは違うやや暖かい風に、花びらが揺れている。咲いているのは細い枝の先の方だけで、桃色のトンボが止まっているかのように、いくつもばらばらに咲き出している。内側の枝はまだまだ冬。
桜の木のすぐ下にベンチがいくつかあって、そのベンチには人が座っている。20代の男女が多く、もうだいぶん強くなった日差しを浴びながら、気楽にサンドイッチを食べたり、マスクをしながらお喋りしたり、本を読んだりしている。
この1年間ずっと閉じたままだったニューヨーク大学(NYU)の学生か、それともブルックリンから散歩にきたのか、とにかくパンデミック以前の世界を勢いよく取り戻そうとしている。朝は曇っていたのが、お昼には晴れる。気温15度ぐらいになればすぐに半袖や半ズボン姿になるニューヨーク人、今日も真夏の格好をしている。
ワシントンスクエアはいつもより空いているが、昨年と比べれば賑やかだ。とはいえ、パンデミックの前に広場の中心の水のない噴水でよくブレークダンスをしていた黒人の男たちはもういない。大きな扉の真正面でピアノをひいて、立ち話している周りの人々にグランドピアノの下で寝ころがって音楽を聞いてくださいと誘っていたピアニストも今はいない。
ソーホーに向かって歩いていくと、レストランがたくさん並ぶ路地がある。どの店もきちんとテーブルを道端に出し、プラスチックのグリーンハウスみたいな小屋や、きれいな花に覆われたパティオのようなものを並べている。日曜の朝だとブランチが一番人気だ。若者はしゃれたダイナーでベーコン、卵、アボカド、トーストなどをカクテルと合わせて食べる。テーブルとテーブルの間にはプラスチックの仕切りがある。
(つづく)
※画像は著者撮影、提供
<プロフィール>
大嶋 田菜(おおしま・たな)
神奈川県生まれ。スペイン・コンプレテンセ大学社会学部ジャーナリズム専攻卒業。スペイン・エル・ムンド紙(社内賞2度受賞)、東京・共同通信社記者を経てアメリカに渡り、パーソンズ・スクールオブデザイン・イラスト部門卒業。現在、フリーのジャーナリストおよびイラストレーターとしてニューヨークで活動。関連キーワード
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