【コロナで明暗企業(5)】藤田観光~仰天!!ホテルの「新御三家」椿山荘も売却の対象だった(後)
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新型コロナウイルスの影響で、ホテル業界はかつてないほどの大打撃を受けた。インバウンド(訪日外国人)はゼロ。宿泊だけでなく、レストラン、宴会、婚礼などすべての需要が蒸発し、「生き残り」をかけて資産の売却を始めた。箱根観光のシンボル「箱根小涌園」を経営する藤田観光(株)は、始祖・藤田家から受け継いだ結婚式場「太閤園(大阪市)」を売却した。ホテルの「新御三家」と謳われた「ホテル椿山荘東京(東京・文京)」も売却候補だった。名門・藤田観光の歴史をたどる。
箱根の観光スポット箱根小涌園、ビジネスホテルのワシントンホテル
温泉を掘り当てたことから小川栄一氏は藤田鉱業の社長に就き、観光業に乗り出し、藤田観光を設立。1959年、美しい景観の土地と旅館を組み合わせた観光施設として、「大衆のためのオアシス」箱根ホテル小涌園を開業した。
50年から68年にかけて堤康次郎氏率いる西武グループと安藤猶六氏の小田急グループ、およびそのバックに付いた五島慶太氏の東急の間で繰り広げられた箱根の輸送シェア争いは「箱根山戦争」といわれるほど熾烈のものだった。
作家の獅子文六氏は、観光開発競争が真っ只中の神奈川県箱根町を舞台に小説『箱根山』を著した。箱根の観光利権をめぐって、西郊鉄道の篤川氏(西武がモデル)と関東急行の木下氏(小田急がモデル)が激しいつばぜり合いを見せていた。そこに第三勢力の氏田観光(藤田観光がモデル)が常春園(小涌園がモデル)をつくって箱根に乗り出してきた。第三の男、氏田観光の北条一角氏のモデルが小川氏である。
新興の箱根小涌園は、正月の風物詩である関東大学の箱根駅伝のテレビ中継で、「ホテル小涌園」が実況報道の拠点となり、その名を全国に轟かせた。箱根駅伝効果で、箱根小涌園は箱根観光のスポットとなったのである。
64年に外国人観光客をターゲットとしたシティホテルの開業に携わった小川氏は、意外にも1人で宿泊する日本人ビジネスマンの利用が多いことことに目をつけ、「サラリーマン向けのホテルを建設すべきだ」と考えた。69年、ビジネスホテルの先駆けとなるワシントンホテルの第1号を名古屋市で開業した。
小川氏は77年に体調を壊して退任するまで社長として君臨。一代で、箱根小涌園、椿山荘、ホテルなどの観光王国を築き上げ、78年12月、78歳で亡くなった。
事業の原点である箱根町に新ホテルの開業計画
時代は移る。19年3月に藤田観光の社長に就いた伊勢宜弘氏は、20~24年の中期経営計画の柱に、1940~50年代から開発してきた箱根小涌園エリアの再開発を掲げた。
同社は17年に比較的単価の高いホテル「天悠」を同エリアに開業した。箱根は、インバウンドの追い風を受けて、高級ホテルや若年層向けホテルの開業が相次いだ。
藤田観光は、箱根全体を見渡したとき、最も必要な施設が足りないとみて、新ホテルを開業する。新ホテルは23年1月の開業を予定、150室の客室、大浴場やビッフェ型のレストランを設ける。価格帯は1人1万5,000円程度からと値ごろ感を高め、家族客や訪日観光客をターゲットにする。隣接する温泉テーマパーク「箱根小涌園ユネッサンス」と主な客層が近い家族客を取り込む狙いがある。
藤田観光は、事業の原点である神奈川県箱根町に重点投資する。しかし、23年の新ホテル開業に乗り出した直後に、新型コロナウイルス禍が襲った。ホテル業界に共通することだが、壊滅的な打撃を受けた。
椿山荘の売却はあるか?
藤田観光の2020年12月期の連結決算は惨憺たるものだった。
売上高は前期比61%減の266億円、営業損益は206億円の赤字(前期は2.8億円の黒字)、最終損益は224億円の赤字(同2.8億円の赤字)だ。
椿山荘やワシントンホテル、「ホテルグレイスリー」などの宿泊部門の売上高は前年比73%減の84億円、婚礼部門は同61%減の40億円だ。ホテル椿山荘東京の宿泊部門の稼働率は前年比36ポイント減、婚礼人員は同73%減。椿山荘ではかつて年間4,000件くらいの婚礼をやっていたが、今や2,500件くらい。結局、「椿山荘の大阪版」といえる太閤園を売却した。
業績悪化を受けて、大リストラに踏み切った。2月に早期退職を募集、社員の1割にあたる315人の応募があった。全従業員を対象に基本給を3~16%を減額する。社員寮として利用していた大阪府の建物と土地2物件を売却する。
太閤園の売却益で21年1~3月期に特別利益329億円を計上して債務超過は免れたが、コロナが収束して、宿泊数や婚礼数がコロナ前の水準に戻るのがいつ頃になるかは見通せない。さらなる資産売却を迫られる。箱根は死守する構えだから、椿山荘やワシントンホテルが売却候補に上ることが想定できる。
筆頭株主のDOWAホールディングスは同根とはいえ、選択と集中を進める過程で、非鉄とは異質な藤田観光の株式を投資ファンドに売却することもあり得る。そうなれば、資本構成が大きく変わる。コロナ禍によって、藤田観光は設立以来、最大の転機を迎えている。
(了)
【森村 和男】
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