コロナとニューヨーク~花は咲く、世界は変わる(後)
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大嶋 田菜(ニューヨーク在住フリージャーナリスト)
今日はイースター(復活祭)サンデーだ。子どもたちが公園や庭で、鮮やかな色のイースター・エッグを探し出して籠に入れる。スーパーやパン屋、雑貨屋などではチョコレートの卵をたくさん売っている。けれど今年はエッグ・ハント(卵探し)はやらない。子どもたちにとっては寂しいだろうが、夜になればイースター・バニーというウサギがやってきて、子どもたちに改めてチョコレートの卵かお菓子を置いていくのだそうだ。なるほど、ウサギ型のチョコレートやお菓子があちこちで見られる。
今年はユダヤ教の過越祭がイースターと重なって、スーパーや雑貨屋にはクリスチャンのイースター菓子と並んでユダヤの食べ物も置いてある。イーストなしのパンやクラッカー、コーシャ肉など。ニューヨークだったらいつでもどこでもコーシャ食品は手に入るが、過越祭のときしかそれを買わない人も多い。コーシャはユダヤ教によって定められた特別な施設で準備された清浄食品。豚肉はもちろん、魚介類や乳製品も汚れたものとされる。
ニューヨークの人口の25%はもうコロナのワクチンを受けている。主に老人や医者や看護師、それから学校の先生、ウエーターやウエートレスなどだ。先週から30歳から65歳までの人も受けられるようになった。来週からは18歳以上だったら誰でも受けていいことになっている。
そのせいか、なんとなく辺りの気分が落着いてきている。以前は絶対一緒にエレベーターに乗りたがらなかったおじいさんやおばあさんも、今は親切に一緒に乗ろうと誘ってくれて、「もう予防注射しましたよ」とうれしそうに伝えてくれる。目を合わせるのも怖かったぐらいの隣の老女も、今はマスクの向こう側から「こんにちは」と低い声でつぶやく。
店内での食事が可能になった今、ソーホーの日本料理店では客の体温を測ってから、名前・住所・電話番号・メールアドレスなどを書かせる。同じ日にそこで食事をした客が1人でも熱を出したり、コロナウイルスに感染していたりしたら、客全員が検査され、2週間自宅に閉じ込められることになる。
近くの銀杏の木が芽を出し始めている。マグノリアも毎年桜と同じ時期に咲き出す。3月から立派な黄金の花びらを茂らせてきたレンギョウもまだまだ咲いている。マンハッタンの東にあるルーズベルト・アイランドには花見通りがあり、桜はちょうど咲き始めたくらいだが、あと数日もすればイースト・リバー沿いの歩行者専用道路全体が桃色になるはずだ。日本式花見はないが、今年も少しはほかのところから見に来る人がいるだろう。そして、どんなに戻ろうとしても戻れないあのパンデミック以前のときを思い出すに違いない。
※画像は著者撮影、提供
<プロフィール>
大嶋 田菜(おおしま・たな)
神奈川県生まれ。スペイン・コンプレテンセ大学社会学部ジャーナリズム専攻卒業。スペイン・エル・ムンド紙(社内賞2度受賞)、東京・共同通信社記者を経てアメリカに渡り、パーソンズ・スクールオブデザイン・イラスト部門卒業。現在、フリーのジャーナリストおよびイラストレーターとしてニューヨークで活動。関連キーワード
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