【STOP!文春砲】参院広島選挙区再選挙でネガティブ・キャンペーン?
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世論調査でほぼ横一線「野党推薦新人がリード」の衝撃
買収事件で逮捕された河井案里・前参院議員の失職にともなう「参院広島選挙区再選挙」(4月8日告示・25日投開票)は、菅政権初の“トリプル国政選挙”のなかで与野党が最も力を入れている天下分け目の決戦だ。吉川貴盛・元農水大臣の辞職による北海道2区補選で自民党は候補擁立を断念、参院長野選挙区補選は故・羽田雄一郎前参院議員の弔い合戦で野党有利。そうなると勝ち目があるのは広島のみ。そのため、再選挙が最も注目されているのだ。
広島は“保守王国”のため政党の基礎票では自民が野党を大きくリード。再選挙のきっかけとなった2019年参院広島選挙区(定数2)でも、自民2候補の得票率の合計が57.5%に対して、野党系2候補の得票率は39.2%と1.5倍弱の違いがあった。買収事件の逆風があっても自民党が元経産官僚の西田英範氏を公認候補として擁立、公明党推薦も受けて勝ちに行こうとしている。トリプル選を1勝1敗1不戦敗とすることで、政権運営への打撃を最小限にしようと目論んだともいえるのだ。
しかし逆風の強さは与党の想定以上だった。野党統一候補となったフリーアナウンサーの宮口治子候補は、西田氏に比べて1カ月近く出馬表明が遅れたのに、世論調査でほぼ横一線状態。「野党推薦新人がリード、自民新人が追う」(4月13日付の毎日新聞)とすでに逆転していると報じる記事も出始めた。
こうした情勢調査結果を受け、自民党関係者に衝撃が走っている。「広島で敗れてトリプル選全敗なら『菅首相では選挙が戦えない』と菅降ろしが始まる可能性は十分にあるし、地元で陣頭指揮を取る岸田文雄・県連会長の総裁選再チャレンジの芽もなくなる」(永田町ウォッチャー)と見られているからだ。
実際、告示翌日(4月9日)に、岸田派の小島敏文・前厚労政務官(中国比例)は尾道駅前での街頭演説会で、「この選挙は将来、広島県から内閣総理大臣が生まれるか生まれないのかという選挙でもあろうと思っています。岸田文雄先生を、何としても広島県から久方ぶりに総理を出そうではありませんか。そのためにも西田候補の当選は、大きな試金石になっている」と訴えていた。街宣後に「総裁選の予備選みたいなものですね」と小島氏に聞くと、「そうよ。ここで勝たないとアウトや。『岸田総理では選挙が戦えない』ということになってしまう」と答えた。長期政権を狙う菅首相にとっても、ポスト菅を目指す岸田会長にとっても負けられない戦いなのだ。
「文春砲」が広島入り~ターゲットは宮口候補?
そんな中、激戦では恒例のネガティブ・キャンペーンが始まっている。野党批判が目立つツイッタ―「永田の住人(@sabakuinu)」が4月9日、ウェデイングドレス姿の宮口氏と地元国会議員(森本真治参院議員)秘書とのツーショット写真付の年賀状を掲載。「宮口候補は、双子の母、障がい児の母、シングルマザーとして、多くの壁にぶつかってきました。その経験を生かし、小さな声を政治に届けてほしいと思います」と応援する海江田万里衆院議員(立民)のツイッタ―を引用しながら、「本当にシングルなの…?」「広島の宮口さん…。シングルマザーが売りだったですけど…。入籍してないだけかな(笑) お相手は立民参議秘書さんだそうです。この党は蓮舫さんといい山尾さんといい、平気でウソをつくよね」と発信したのだ。
まるで宮口候補がウソをついているかのような印象を与える悪意に満ちた投稿だが、3月27日に応援演説をした福山哲郎幹事長に聞くと、「結婚はまだでしょう」「シングルマザーとして子育てをしていたのも間違いない」と答えた。
たしかに宮口候補は街宣で、シングルマザーとして子育てをした経験は語っていたが、新しいパートナーと近いうちに結婚する予定とは語っていなかった。これがウソをついたことになるのか。「まったく問題ないし、問題にする方がおかしい」と一刀両断にするのは、4月10日に宮口候補の応援演説をした前滋賀県知事の嘉田由紀子参院議員だ。
「シングルマザーが別れた夫と共同親権で子育てを手伝ってもらうことも、新しく付き合い始めた男性に子育てを手伝ってもらうこともまったく問題がない。『シングルマザー=母親1人で子育てをする』とは限らないし、それにとらわれる必要もない。いろいろな人に力を借りて子育てをすることの何が悪いのか。海外では当たり前のことです」(嘉田氏)。
宮口候補の支援を決めた市民団体関係者も「宮口さんと面談したときに結婚予定の地元議員秘書もついてきていた。地元記者も2人が付き合っていることは知っていたようだ」と話す。年賀状のツーショット写真は、近いうちに結婚しますという予告であり、複数の近しい人に出していたものであった。隠し事をしていたわけでも何でもないのだ。
宮口候補落選(=西田候補当選)を意図しているように見える「永田の住民」は、「シングルマザーとしての子育て経験を語るのなら、未来永劫、新しいパートナーにも子育てを手伝ってもらうのは罷りならぬ」と言っているに等しいのではないか。海外では笑い物になるに違いない恐るべき見方(縛り)を押し出しながら、イメージダウンを図ろうとしているように見える。
地元では文藝春秋の腕章をつけた記者やカメラマンが宮口候補の街宣で目撃されて、「今週発売の文春砲にツーショット写真付の年賀状の話が出るのではないか」「週刊新潮も動いているようだ」という話も飛び交い始めた。「永田の住人」のツイッタ―を膨らませたような週刊誌の記事が出る可能性が出てきたというわけだが、そもそも参院広島選挙区再選挙は、政治とカネの問題が主要な争点のはずだ。そこに、古きシングルマザーのイメージを使ったネガティブ・キャンペーンが持ち込まれた場合、宮口候補にダメージを与える可能性はあるが、逆に「争点隠しの裏工作ではないか」「旧態依然とした価値観、固定概念の押し付けで女性活躍に逆行する」といった批判が噴出して西田候補陣営のイメージダウンを招くことも考えられる。
週刊文春などの週刊誌が、シングルマザーとして子育てをしてきた宮口候補がどう取り上げるのか。それに対して広島県民がどう反応するのか。何でもありの選挙戦の様相を呈してきた参院広島選挙区再選挙、それはすなわち菅政権最後のあがきともいえる。
【ジャーナリスト/横田 一】
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