東芝・車谷社長が事実上のクビ、CVCと仕掛けた救済策が大炎上(1)
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「策士、策に溺れる」。東芝の車谷暢昭社長が辞任した。事実上の解任である。「ものいう株主」に追い込まれた車谷社長を救済するため、「プロ経営者」の藤森義明氏が英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズと組んで仕掛けた東芝の買収劇。車谷社長は前CVC日本法人の会長、東芝社外取締役・藤森氏はCVC日本法人の最高顧問。車谷社長の「自己保身」のための出来レースと猛反発を招き、失敗に終わった。
永山取締役会議長が車谷社長に引導
外資系ファンドから買収提案を受けた東芝で車谷暢昭社長兼最高経営責任者(CEO)が、英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズ出身という理由で社内や株主から批判され、辞任に追い込まれた。4月14日の臨時取締役会で辞任を表明した。取締役会議長の永山治社外取締役(中外製薬名誉会長)が車谷氏を解任する構えだったため、自ら辞任を表明したという。事実上の解任である。後任には前社長の綱川智会長が復帰した。
永山氏はファンドの提案について、「内容が乏しく、大変唐突なもので慎重な検討を要する問題がある」と距離を置いた。
東芝は4月7日、CVCから買収提案を受けたことを明らかにした。新聞各社の報道によると、東芝を対象にした株式の公開買い付け(TOB)を7月に実施し、10月に上場廃止。企業価値を高めたうえで、3年後の再上場を目指すという。
買い付け価格は1株5,000円。6日の終値より3割ほど高く、この水準で全株を買えば総額2兆円を超える。買収は単独では行わず、日本の官民ファンドである産業革新投資機構(JIC)や、政府系金融機関の日本政策投資銀行(DBJ)の参加を予定している。
東芝は原発や防衛にかかわる事業を手がけており、昨年施行の改正外国為替および外国貿易法(外為法)で審査の厳しい「コア業種」に位置づけられている。日本の政府系金融機関の参加を想定しているのは、買収への抵抗感を薄める狙いがある。
東芝の株式を非上場にする狙いについて、短期的な利益の還元を求める投資ファンドなど「ものいう株主」(アクティビスト)からのプレッシャーに、経営陣がさらされている弊害を挙げているという。これが買収提案の本当の狙いだ。「ものいう株主」に追い込まれている車谷社長を救済するためにホワイトナイト(友好的買収者)を買って出て、うるさ型の株主たちには退場してもらうという筋書きだ。
車谷氏の古巣であるCVCによる車谷社長の救済大作戦である。仕掛けたのはCVCの最高顧問で、東芝の社外取締役・藤森義明氏とみられる。
車谷社長救済劇の”3人衆”
救済劇に登場する”3人衆”のプロフィールを見てみる。「自作自演」と酷評された主人公は東芝社長・車谷氏(63)。東京大学経済学部卒。80年三井銀行(現・三井住友銀行)に入行。政財界に大きな影響力をもち「三井のドン」といわれた小山五郎氏の秘書役を3年間務めた。小山氏は1982年の三越事件で岡田茂社長の解任を主導したことで知られる。
三井銀行の経営戦略室長として、住友銀行との合併交渉を担当。合併した三井住友銀行では経営中枢の経営企画畑を歩き、15年に持株会社三井住友フィナンシャルグループ副社長と三井住友銀行副頭取を兼務、投資銀行部門と証券事業を担当。17年上席顧問に退いた。
仕掛け人は、東芝社外取締役・藤森氏(69)。「プロ経営者」として有名だ。東京大学工学部卒。日商岩井(現・双日)を経て、86年日本ゼネラル・エレクトリック(GE)に転職。「20世紀最高の経営者」といわれたジャック・ウェルチ氏に認められ、米本社上席副社長に就いた。
日本GE会長として帰国した藤森氏は、ウェルチ氏の秘蔵っ子のスター経営者として引く手あまた。住生活グループ(現・LIXILグループ)創業家の潮田洋一郎氏から三顧の礼で招かれ、11年に社長兼CEOに就いた。海外売上高1兆円を目指し、ただちに海外買収に打って出た。
11年10月、イタリアのカーテンウォール大手のペルマスティリーザを608億円で買収。13年8月には米衛生陶器大手のアメリカンスタンダードを531億円、同年9月には水栓金具で欧州最大手の独グローエを4,109億円でそれぞれ手に入れた。
しかし、得意のM&Aでつまずいた。グローエの中国子会社の不正会計を見抜けず、LIXILグループは662億円の損失を計上。ペルマスティリーザも775億円の損失を出した。その経営責任を追及され、藤森氏は16年6月に解任された。
ホワイトナイトは、CVC日本法人代表の赤池敦史氏(49)。東京大学大学院工学科研究科地球システム工学専攻修士課程、コロラドスクールオブマインズで博士課程を修了し、99年に世界4大会計事務所のプライスウォータハウスクーパースに入社。
その後、コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパンを経て、02年に日本の投資会社アドバンテッジパートナーズに参画し、シニアパートーナーに就任。10年以上にわたりさまざまな投資案件を手がけたのち、15年5月、CVC日本法人のCVC・アジア・パシフィック・ジャパンに入社し、代表取締役に就任した。
(つづく)
【森村 和男】
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