2024年11月15日( 金 )

成功するための身だしなみ「Dress for Success」とは(3)

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Princess Hiromi ファウンダー&デザイナー
島津 洋美 氏

 服の歴史とは、西洋(ヨーロッパとアメリカ)の衣服および服飾の歴史を指し、そのルーツははるかギリシャ・ローマ時代にまでさかのぼる。そして、日本における本格的な服の歴史はわずか100年に過ぎない。欧米世界では「Dress for Success」という言葉がよく知られており、「成功するための身だしなみ」という意味だ。私たちにどのような知恵を授けてくれるのだろうか。

 この言葉が現代にもつ意義について、Princess Hiromiファウンダー&デザイナーの島津洋美氏(ニューヨーク州弁護士)に話を聞いた。陪席は中川十郎・日本ビジネスインテリジェンス協会理事長。中川氏は商社時代(ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長)にイタリア、フランス、ニューヨークファッションを手がけた。

女性のパンツスーツ、「市民権を得た証」は古い考え方

 ――海外勤務が長く、いろいろな経験をしたと思います。

 中川十郎氏(以下、中川) 次のような体験もしました。イラク駐在中にバクダッドの得意先と一緒に日本に出張したことがありました。彼は自分の身分にふさわしいホテルを選んでほしいということで、ホテルオークラに宿泊し、朝は洗顔した後、必ずいい匂いのするオーデコロンをさりげなくつけていました。

 イラクは気候が暑く、すぐ発汗するため、体臭には人一倍気を使っていたのです。それを見て私も彼を見習い、お風呂の後や朝の洗顔の後にはさりげなくオーデコロンをつけるのが習慣になって、もう60年近くになります。日本人は口臭や体臭に無頓着な人が多いと思いますが、外国で生活する場合や、国際社会のなかでビジネスを行っていくためには、この点にも十分に注意が必要と考えています。

 ――キャリアウーマンにとっての「洋服」という観点からはいかがでしょうか。

 島津洋美氏(以下、島津) 欧米の歴史を見ても、女性の洋服が仕事に適用できるものに変わり始めたのは、1920年代のココ・シャネル()の時代からです。当時、上流社会ではテニスがはやり始め、洋服にも機能性が要求され、ココ・シャネルが女性をコルセットから解放して、動きやすいスーツが登場するようになります。

 欧米ではよく知られた、成功するための身だしなみを意味する「Dress for Success」という言葉があります。これはジョン・T・モロイが75年に著した男性のための服装のマニュアル本でした。後に女性バージョンが出版されます。そこには女性のパンツスーツ(ジャケットとスラックス)姿が多く載っていました。

 今でもまれに「女性が市民権を得た証」だと言って、頑なにパンツスーツを好まれる方もいますが、その後、男性の真似をするのはやぼったいという意見が多くなり、パンツスーツは少なくなっていきました。アメリカで90年代から長期にわたって人気番組だった「Sex and the City」のヒロインである作家のキャリーは、ドレス(ワンピース)を再びアメリカ中にはやらせ定着させました。働く女性もキャリーのファッションにとても影響を受け、おしゃれな上質のワンピースを多く取り入れるようになりました。

米国政財界の女性はスカートが多数

 ――パンツスーツは過去のものですか?

 島津 おもしろい話があります。アメリカ大手会計事務所で日本勤務の50代のアメリカ人経営者が、「私はパンツスーツしか着てこなかったし、これからも着ません」と言っていました。私は、基本的に着る人がコーディネートに悩まないようにワンピースをデザインすることが多いのですが、あるシーズンのコレクションで「あなたのためにパンツスーツも用意したので、ぜひお越しください」とデパートの売り場のご案内をその方に送りました。ご来店いただき、パンツスーツとワンピースの両方を試着してもらいました。彼女自身の目にも、あまりにもスカートが似合っていたので、結果的にワンピースをお買い上げいただきました。

 パンツスーツについては、たしかに先ほどのお話のように「女性が市民権を得た証」という捉え方をする人もたまにいますが、女性としての魅力を考えれば、ワンピースがより似合う方のほうが多いです。この方は仕事用のご自身の個性を魅力的に引き出すワンピースに出会ったとたん、生涯にわたるパンツスーツの神話はどうでもよくなったのです。

 この件について「女性のスカートとパンツスーツをどう思いますか」と男性にもインタビューしてみました。「スカートを履いていると女性であることを意識し、緊張感があって敬意を払う」、「パンツスーツだと男性と同じに見えるので、言葉使いが男性と同じになってしまう」などの回答がありました。

 女性にとってはパンツスーツの方が楽なのですが、姿勢や足さばきなどが雑になる傾向があります。何よりもパンツスーツを着続けていると、スカートを履く際にリハビリが必要になるのです(笑)。私は2000年からアメリカのファッション業に携わってきましたが、活躍する政財界の女性はスカートの方が断然多かったし、似合っていたと感じています。

 話は変わりますが、21春夏コレクションのイベントが4月16~30日に東京・銀座松屋2Fの「H.P.FRANCE Boutique」で行われます。16~18日は私も店頭でお客様の職業や個性に合った服をアドバイスします。読者の皆さまもお越しになった際は、気軽にお声をおかけください。

※:ガブリエル・ボヌール・シャネル(1883~1971)。フランスの服飾デザイナー。第1次世界大戦後、シンプルで着やすいドレスを考案して新しい女性らしさの概念を打ち出した。いわゆるシャネルスーツのほか、香水でも知られる。 ^

(つづく)

【聞き手・文:金木 亮憲】


<プロフィール>
島津 洋美
(しまづ・ひろみ)
Princess Hiromi ファウンダー デザイナー 島津洋美 東京都出身。ジョージタウン大学卒、ボストンカレッジ法科大学院で法学博士(J.D.)、ニューヨーク州弁護士資格を取得。ウォール街の法律事務所で働く。その後、コロンビア大学経営大学院で経営修士号(MBA)取得。ニューヨークの大手アパレルメーカー・リズクレボーン社で日本担当統括マネジャーとして日本・アジア地域のブランド戦略を担当。経営コンサルタントの傍ら、ニューヨークと東京でテキスタイル、立体裁断、デザインについて各分野の第一人者に師事。2011年Princess Hiromi創業。デザイナーとして、国際感覚をもつ知的で女性的な「個性を魅せる服」を創り出している。駐日スウェーデン大使館からの日本起業家賞、DELLグランドブレイカー賞など多数。著書に共著 「カラーセオリー イン ショップ」(日本実業出版社)がある。


中川 十郎(なかがわ・じゅうろう)
 東京外国語大学イタリア学科国際関係専修課程卒後、ニチメン(現・双日)入社。米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長を経て、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授など歴任。日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、米国競争情報専門家協会(SCIP)会員、中国競争情報協会国際顧問。2014年東久邇宮国際文化褒賞を授章。

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