成功するための身だしなみ「Dress for Success」とは(5)
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Princess Hiromi ファウンダー&デザイナー
島津 洋美 氏服の歴史とは、西洋(ヨーロッパとアメリカ)の衣服および服飾の歴史を指し、そのルーツははるかギリシャ・ローマ時代にまでさかのぼる。そして、日本における本格的な服の歴史はわずか100年に過ぎない。欧米世界では「Dress for Success」という言葉がよく知られており、「成功するための身だしなみ」という意味だ。私たちにどのような知恵を授けてくれるのだろうか。
この言葉が現代にもつ意義について、Princess Hiromiファウンダー&デザイナーの島津洋美氏(ニューヨーク州弁護士)に話を聞いた。陪席は中川十郎・日本ビジネスインテリジェンス協会理事長。中川氏は商社時代(ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長)にイタリア、フランス、ニューヨークファッションを手がけた。
肌によくて地球にやさしい天然素材
――世界では、天然素材が好まれているのに、日本人は化学繊維を使うことが多いと聞いています。SDGsとの関係でも話題になっています。
島津洋美氏(以下、島津) SDGsですが、今は正直、関係者の皆さんがそれぞれの立場でできることをいろいろと考えている段階だと思います。自然(土など)に戻るものがふさわしいという観点でいえば、天然素材が良いといえます。
「動物を虐待してはいけません」という立場に立てば、毛皮に賛成することはできず、「エコファー(フェイクファー)(※)」が好ましいともいえます。しかし、エコファーは化学繊維なので、自然に戻るという観点からは基本的に外れてしまいます。
私は綿・絹・麻などの天然素材が好きで、日本でも産地を探しています。日本はもともと麻や綿など、植物由来の天然繊維の産地として有名でした。しかし、日本は化学繊維で経済発展してきた国でもあります。絹で有名だった石川県などの多くの産地は、化学繊維に移行してしまいました。
日本の繊維業界全体が海外の低価格の生地に押されて、今瀕死に面しています。肌によくて地球にやさしい天然素材が、日本に戻ってきてほしいと思っています。私は上質で風合いのあるイタリアやスイスの生地をニューヨークで仕入れていますが、一部は日本の優れた産地から選んでいます。
中川十郎氏(以下、中川) 同感です。私もSDGsの観点も含めて、環境と健康に優しい天然素材が好きです。日本の産地が減少してしまったことを残念に思っています。
インドのニューデリーに駐在していたときは、インドの天然綿と草木染の繊維、シルク生地、スカーフの対日輸出に努力しました。インド綿の生地「シフォン」(薄くて柔らかく透明感のある綿織物)は最上品でした。しかし、当時は染料に問題があるという理由から、日本では取り上げてもらえませんでした。
その後、ニチメンは中国の新疆ウイグル自治区のウルムチに日本商社で唯一事務所を開き、世界最高クラスといわれたウイグルの超細番手の綿の輸入に成功しました。
3・11を機に実行、「世の中に一番貢献できること」
――話は変わりますが、3・11(東日本大震災)は島津さんにとって大きな転機となり、Princess Hiromiを創業されました。そして、今回のコロナ禍をどのように受け止められていますか。
島津 3・11以前から自分の服は、自分でデザインしたものをテイラーにつくってもらって着ていました。私は会社ではデザイナーではなく、戦略部門のアジア地域の責任者でした。しかし、ニューヨークの同僚や友人から「どこで購入したの?とっても素敵!」と言われていました。
友人から同じものをつくってほしいと頼まれました。サイズも違うし面倒と断り続けていたのですが、あるとき、どうしてもという希望に応じて、その友人のためにパターンナーを雇ってつくりました。すると、その友人に「どこに行ってもほめられた」とものすごく喜んでもらったのです。もちろん、そのときは自分のための趣味でした。
このまま趣味で行くのか、ビジネスにするのかと迷っていた矢先に3.11が起こりました。地震発生時に私は東京都渋谷区の恵比寿にいました。当時自宅は千代田区にあり、歩いて帰れない距離ではありませんでしたが、ハイヒールを履いていて、もちろんタクシーはつかまりませんでしたので、帰宅難民に解放された恵比寿のウェスティンホテル東京で一夜を過ごしました。
そのときから、「災害が起これば人生もいつまであるかわからない。他人のブランドを売るのではなく、自分のブランドをつくろう」と思うようになりました。自分の人生に悔いは残したくありませんので、自分が世の中に一番貢献できることをやろうと思い立ったわけです。そして、自分のブランド「Princess Hiromi」を創業しました。
今回のコロナ騒動は一時的とはいえ、ビジネスのスピードが遅くなったので、「自分にとって何が重要なのか」、「自分にとって何が幸せなのか」などを考える良い機会となりました。
※:動物の毛皮の代わりに化学繊維を使用した立毛調生地。動物の犠牲をともなわずにファッションを楽しめる点が肯定的に捉えられている。若い世代を中心にファッション素材の1つとして定着しつつある。 ^
(つづく)
【聞き手・文:金木 亮憲】
<プロフィール>
島津 洋美(しまづ・ひろみ)
東京都出身。ジョージタウン大学卒、ボストンカレッジ法科大学院で法学博士(J.D.)、ニューヨーク州弁護士資格を取得。ウォール街の法律事務所で働く。その後、コロンビア大学経営大学院で経営修士号(MBA)取得。ニューヨークの大手アパレルメーカー・リズクレボーン社で日本担当統括マネジャーとして日本・アジア地域のブランド戦略を担当。経営コンサルタントの傍ら、ニューヨークと東京でテキスタイル、立体裁断、デザインについて各分野の第一人者に師事。2011年Princess Hiromi創業。デザイナーとして、国際感覚をもつ知的で女性的な「個性を魅せる服」を創り出している。駐日スウェーデン大使館からの日本起業家賞、DELLグランドブレイカー賞など多数。著書に共著 「カラーセオリー イン ショップ」(日本実業出版社)がある。
中川 十郎(なかがわ・じゅうろう)
東京外国語大学イタリア学科国際関係専修課程卒後、ニチメン(現・双日)入社。米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長を経て、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授など歴任。日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、米国競争情報専門家協会(SCIP)会員、中国競争情報協会国際顧問。2014年東久邇宮国際文化褒賞を授章。関連記事
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