2024年11月22日( 金 )

感染再爆発東京に責任転嫁の筋違い

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を抜粋して紹介する。今回は、「コロナ対応で最終責任を負うのは東京都ではなく、あくまでも内閣総理大臣だ」と訴えた4月20日付の記事を紹介する。

4月20日の東京市場で日経平均株価が前日比584円下落し、29,100円になった。
株価急落の主因は米国による渡航禁止地域の大幅拡大である。

米国国務省は4月19日、新型コロナウイルス・パンデミックの持続を踏まえて、米国民向け海外渡航情報で最も高いレベル4の「渡航中止」の対象国を大幅に拡大すると発表した。
世界約200カ国のうち8割の国が対象になる見通し。
日本がこれに含まれることは確実だ。

このことが何を意味するか。
米国が東京五輪開催不能の判断を固めた可能性が高い。
東京五輪中止の可能性が一気に高まった。
これが株価急落の主因だ。

報道管制が敷かれていると見られる。
米国国務省の発表を東京五輪中止と結びつける報道が皆無に近い。
この不自然さが推察の信ぴょう性を引き上げている。

株価急落について、日本における緊急事態宣言再発出の恐れを原因として指摘する声もあるが、最大の懸念要因は東京五輪の中止である。
菅首相は訪米し、バイデン大統領から東響五輪開催に対する支持を取り付けようとした。
しかし、共同記者会見でバイデン大統領は東京五輪について一切触れなかった。

日米共同声明に盛り込まれた表現は
「今夏、安心・安全な大会を開催するための菅総理の努力を支持する」
であって
「東京五輪開催の支持」
ではない。

菅首相は、
「帰国会見で「バイデン大統領が五輪開催を支持した」と話したが、日本メディアは「開催ではなく『開催努力』を支持した」と訂正した」
と報じられている。

共同記者会見でロイター記者から
「公衆衛生の専門家から開催の準備ができていないという指摘がある。無責任ではないか」
と質問されたが、菅首相はこの質問を無視した。

開催国の首相に対してメディアが質問し、これに対して誠意をもって答えるどころか、質問そのものを完全に無視。
致命的な失態である。

また、共同通信社の記者から
「大統領から、アメリカの選手団の派遣について、具体的な約束や前向きな意向は示されたのか」
と質問されたが、菅首相は、この質問に対しても回答しなかった。
米国が東京五輪に対して極めてネガティブな判断を有していることが推察される。

自民党の二階俊博幹事長が菅首相の訪米直前に東京五輪中止について言及したのは、米国の決断によって東京五輪が中止になる可能性が高まったことを受けて布石を打ったものと考えられる。

このなかで、日本国内の感染拡大が進行している。
4月20日の東京都新規陽性者数は711人になった。
1日の新規陽性者数が1,000人を超えるのは時間の問題。
感染第4波が急拡大している主因は政策対応の誤り。

菅首相は3月21日に緊急事態宣言を強引に解除した。
大阪府は先行して3月1日に緊急事態宣言解除を強行した。
感染の中心が変異株に移行し始めていた。

3月末にかけて人流が急拡大する時期にさしかかっていた。
人流自体は2月中旬から明確に再拡大に転じていた。
3月こそ、感染拡大を抑止するために最大の力を注ぐべき時期だった。
この時期に感染抑制策を一気に緩めた。

その順当な結果として、現在の感染急拡大が生じている。
緊急事態宣言が再発出されれば東京五輪中止決定が確定的になる。

4月25日国政三選挙で菅政治に厳しいNOが突き付けられる可能性が高い。
菅内閣総辞職が秒読み態勢に移行したと判断できる。

株式市場は現実を冷徹に観察する。

米国が渡航禁止地域を大幅に拡大する。
日本のメディアは、対象地域に日本が含まれるかどうかは不明などと悠長なコメントを発している。
「対象地域に日本が含まれることは確実と見られる」
とコメントするのが適正だろう。

日本でのワクチン接種は全人口の1%程度である。
ワクチン接種には重大リスクがともなうから、私はワクチン接種に反対だが、日本におけるコロナ感染リスクが高いことは明白だ。

東アジアのコロナ被害は相対的には極めて軽微だ。
しかし、菅内閣は、この「地の利」をまったく生かしていない。
台湾のように感染封じ込めも不可能でなかったはずだ。

ところが、菅首相は、わざわざ感染拡大を推進する施策を強硬に推進した。
私はGoToトラベル、GoToイートがGoToトラブルになると主張し続けた。
実際に、GoTo事業によって1月の感染爆発がもたらされたことは明白だ。

「後手後手・小出し・右往左往」
のコロナ対応を続けて、すべてを壊している。
東京五輪開催を最重視するなら、東京五輪開催までは、脇目も振らずに感染抑止に注力すべきだ。
「安心・安全の五輪開催」を目指すなら、当然の行動だ。

ところが、菅義偉氏は、GoToトラベル、GoToイート全面推進の先頭に立った。
「感染抑止より利権」がその主因だったのだと推察される。
利権を優先してGoToトラブル事業に全力を注ぎ、その結果として感染爆発を招いて東京五輪開催不能の現実を招来するなら、誰も同情しない。

アスリートは菅コロナ大失政を糾弾すべきだろう。
政治判断とは突き詰めれば「優先順位の設定」だ。
それぞれの局面で、何が最重要であるのかを的確に判断する。
その判断に基づいてブレずに行動する。
これがリーダーの役割だ。

昨年1月以来、政府が取り組むべき最重要課題は、コロナ感染収束である。
同時に、国民の命と健康を守らねばならない。
感染収束を優先し、その範囲内で国民生活をしっかりと支える。
国民の命と健康を守るには、医療崩壊を引き起こしてはならない。

この観点で重要なことは「医療マネジメント」である。
コロナ対応が不能に陥らないように、コロナ病床とコロナ対応スタッフを確保する。
政府は国公立病院、国公立大学病院に対して適切な指示を出して、国公立病院、国公立大学病院での対応能力を確保する必要がある。

民間医療機関の協力を要請するには、十分な補償措置が必要である。
十分な補償措置を講じずに日本医師会を批判しても無責任だ。
政府としてはたすべき責務をはたしてこなかったことが最大の問題だ。

菅内閣は対応に失敗すると責任を東京都に転嫁する言動を示す。
政府からの要請を受けた御用コメンテーター、御用芸人が、口をそろえて東京都を批判するのは極めて奇異。
最終責任を負うのはあくまでも内閣総理大臣だ。
菅首相のこれまでのコロナ対応は最悪としか言いようがない。

3月21日に緊急事態宣言を解除する際に国会で
「いま解除して本当に大丈夫か」
と厳しく問われた。

菅首相は「大丈夫だと思う」と答弁したが、客観情勢は、この時点で緊急事態宣言を解除すべきでないとの判断を促していた。
宣言解除から感染急拡大が生じ、再び緊急事態宣言発出に追い込まれようとしている。

菅首相の責任は明白。
菅首相はこれ以上晩節を汚さぬよう、退く判断だけは潔く実行すべきだ。


▼関連リンク
植草一秀の『知られざる真実』

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