2024年12月23日( 月 )

感染地から他県への人流放置

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を抜粋して紹介する。今回は、「観光業利権を重視する菅・二階コンビ、地方首長が大都市からの地方への人流拡大を放置している。ご都合主義がはびこる限り、効果的なコロナ感染収束を見込めない」を訴えた4月25日付の記事を紹介する。

結果としての失敗に二種類ある。
「最善を尽くしての失敗」と「最善を尽くさぬ失敗」。

「経過は大切だ、しかし結果がすべてだ」
の言葉があるが、「経過が最悪で結果も最悪」というのが一番悪い。

菅内閣のコロナ対応は
「経過が最悪で結果も最悪」
に分類される。

しかも、失敗しても誤りを認めない。
これでは、事態が改善する可能性も消滅する。

昨年11月にGoToトラベルを即時停止すべきだった。
11月21日の3連休前がポイントだった。
しかし、菅首相は12月28日までGoToトラベル推進を強行した。
観光業界利権を優先した。
これが1月の感染爆発をもたらす原因になった。

12月中旬に英国で変異株が確認された。
私は当初から変異株リスクを指摘し続けた。
新型コロナウイルスの特徴に変異スピードの速さがある。
感染力の強い変異株、毒性の強い変異株の発生が警戒される。
このことを指摘してきた。

12月中旬に英国で変異株が確認された段階で、直ちに入国規制を厳格化する必要があった。
菅首相は12月28日に対応策を発表した。
御用コメンテーターの杉村太蔵氏がおべんちゃら発言を示したが、内容はザル対応だった。

外国人入国の大宗を占めるレジデンストラック、ビジネストラックを停止しなかった。
菅内閣が両措置を停止したのは1月13日。
2週間の遅れは致命的だった。

首都圏4知事に要請されて菅首相はようやく1月7日になって緊急事態宣言を発出した。
その宣言解除が3月1日に前倒しで強行された。
大阪府の吉村知事などが五輪開催を優先する菅内閣の意向を忖度したためだ。
3月21日には菅内閣がすべての地域の緊急事態宣言を解除した。

しかし、このとき、新規陽性者数は再拡大に転じていた。
先行指標となる人の移動指数は2月中旬以降、明確な増勢を示していた。
人流が季節的に拡大するタイミングに合わせて緊急事態宣言を解除すれば人流拡大が加速される。
結果として新規感染者数が急増する。

さらに、最大の懸念要因が変異株の確認急増だった。
菅内閣が緊急事態宣言解除を決定した3月18日時点で、最大の警戒事項は変異株になっていた。
菅首相は「再び緊急事態宣言を出すことがないようにするのが私の責務」と述べたが、わずか1カ月で「再び緊急事態宣言を出す」ことになった。

最善の対応を示して結果が生じたのなら同情の余地はある。
しかし、菅首相の場合は違う。
変異株に対する懸念が極めて強く、感染再拡大の変化が明確であり、しかも、人流が急拡大するタイミングで緊急事態宣言を解除して感染再拡大を招いた。

このことについて、菅首相は真摯な反省の姿勢を示すべきだ。
ところが、会見で「変異株が急拡大したこと」に責任を転嫁する発言を繰り返す。
いまや総理大臣に対して敬意を持つ国民はほとんど存在しない状況だが、国民は、自分の責任を素直に認めたうえで前に進む姿勢を求めている。

安倍内閣が7年も続き、その後に登場したのが菅内閣。
首相が国民に範を示して人間として正しく行動することがない現実が日本政治の質を著しく低下させている。

GoTo、変異株水際対策、緊急事態宣言解除という節目節目で、菅首相が重大な過ちを繰り返してきたことは動かせない事実。
その事実に対して謙虚な反省がなければ、同じ過ちが繰り返されることになる。
日本の主権者は政治の劣化を冷静に見つめて政治刷新に力を注ぐべきだ。

変異株では若年の健常者も重症化する事例が報告されている。
また、もとより、基礎疾患のある高齢者は重篤化しやすい。
新型コロナの特効薬は現時点で承認されていない。
この点が通常のインフルエンザと大きく異なる部分。

1日当たりのコロナ死者は1月には100人を超えた。
現在も50人ペースで発生している。
年率2万人から4万人ペースの死者は軽視できるものでない。
感染拡大抑止は重要な課題である。

感染リスクの高い行動は、多人数での会話をともなう会食。
とりわけ、飲酒をともなう会食のリスクが高い。
この行動を圧縮することが重要であるとの考え方には合理性がある。

多人数による会話をともなう会食機会創出は人流と比例的な関係があると考えられる。
このために、人流を抑制する措置が重要になる。
大規模商業施設、大規模遊興施設に対する休業要請、大規模スポーツイベントなどの無観客開催要請は、人流拡大に連動する会食機会減少が理由になっている。

プロ野球興行でスタジアムの感染対策を十分にしているのに、無観客要請は理解できないとの声が挙がるが、これは、感染対策の考え方を理解しないもの。
「感染抑制が最優先されるべき」が日本の主権者多数の声であるなら、感染が急拡大している現状では、感染拡大抑止策を全体として推進するのが適正ということになる。

各種休業要請、時間短縮要請、無観客開催要請などで発生する損害については政府が適正な補償を講じるべきだ。
GoToトラブル事業に2.7兆円もの予算を計上せずにコロナ対策の補償予算を計上すべきだ。

GoToは菅内閣の利権事業である。
利益の配分があまりにも歪んでいる。
中抜きも目を覆うばかり。
公金は透明、公正、公平に配分する必要がある。

菅首相は東京五輪の開催可否はIOCが決めると発言した。
日本が主権国家であることを放棄する発言だ。
日本で開催する五輪である以上、最終的な責任は日本の首相が負うべきことは当然。

現状を踏まえて本夏の東京五輪開催に賛同する主権者は圧倒的少数に転じている。
圧倒的多数が本夏の五輪開催に反対だ。
国内世論だけでない。
国際世論もまったく同じ。

賄賂を用いての五輪招致。
女性蔑視の東京五輪組織委員会。
フクシマ原発事故放置の東京五輪。

現在の日本には2つの緊急事態宣言が発令されている。
コロナだけでない。
原子力緊急事態宣言も発出されたままだ。

コロナ緊急事態宣言を発出したが、4都府県だけに対する発出がさらなる問題を引き起こす。
対象地域から大量の人流がウイルスを携えて日本全国に拡散する。
小池都知事は「東京に来ないでください」と発言するが「東京から都外に出ないでください」を声高に叫ばない。

東京のGoToトラベルを止めたときも、止めたのは東京を目的地とする旅行だけだった。
東京を出発地とする旅行は野放しだった。
その結果、東京から大量のウイルスが日本全国に運ばれた。

北海道や沖縄、中部・北陸地方の感染拡大は大都市からウイルスが運ばれた結果として生じたもの。
観光業利権を重視する菅・二階コンビ、地方首長が大都市からの地方への人流拡大を放置している。
このようなご都合主義がはびこる限り、効果的なコロナ感染収束を見込めない。

利権ファーストの政治権力を一掃することが何よりも重要になっている。


▼関連リンク
植草一秀の『知られざる真実』

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