五輪開催強行は可能。だが間違っている
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NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を抜粋して紹介する。今回は、「日本がどのような災厄に見舞われようが、自分の利権を確保するために五輪開催を強行する。これが五輪の実態、五輪の正体だ」と訴えた5月5日付の記事を紹介する。
菅内閣は1月7日に緊急事態宣言を発出した。年末に東京都の新規陽性者数が1,000人を超えた。しかし、菅首相は緊急事態宣言発出の必要はないとした。首都圏1都3県の知事が緊急事態宣言の発出を要請し、菅首相は追い詰められて緊急事態宣言を発出した。
この宣言が当初の予定より延長されて3月21日に解除された。このときすでに感染は再拡大に転じていた。大阪府の吉村知事は五輪開催強行姿勢の菅首相の意向を忖度して、3月1日に大阪府の緊急事態宣言を解除した。感染を抑制するためには性急な行動は禁物だ。経済への打撃が逆に大きくなる。大阪府での感染急拡大は吉村知事の菅首相忖度行動が主因になったと考えられる。
感染拡大にもっとも強い影響を与えるのが人流拡大。ただし、人流拡大と新規陽性者数増加との間に時間差がある点に注意が必要だ。時間差は3週間。新規陽性者数が減少に減じても、足元で人流が再拡大に転じていれば、3週間後には新規陽性者数が再増加する可能性が高い。
人流は昨年11月21日をピークに減少に転じ、12月31日に最低値をつけた。1月末までは低水準の人流が維持されたが、2月入り後は増加に転じた。菅首相が緊急事態宣言を解除した3月21日段階では、人流は鮮明に再拡大に転じていた。新規陽性者数が急増する可能性が高かった。
人流がピーク値を記録したのが3月26日。3週間後の4月中旬に向けて新規陽性者数は急増した。想定通りの感染再拡大だ。結局、菅内閣は4月25日に緊急事態宣言を再発出する事態に追い込まれた。
しかし、コロナ感染拡大抑制のスタンスは中途半端。首都圏では東京都だけに発出し、千葉、神奈川、埼玉が宣言の対象から除外された。関西では奈良県が緊急事態宣言発出を要請しなかった。
また、菅首相も各県知事もゴールデンウイークに旅行をしないことを強く訴えなかった。感染拡大地から大量の人が全国各地に移動した。各地の人出はコロナ前に比べれば少ないが、昨年と比較すると激増した。
アップル社が公表している人の移動指数。交通機関、徒歩、自動車の数値が示されている。今回の波動で人流がピークを記録したのが3月26日だった。3月末に向けて緊急事態宣言を解除したことで人流拡大に拍車がかかった。その後、「まん防」「緊急事態宣言」が発出されて、人流はやや減少したが、人流減少が極めて小規模にとどまった。
その人流が3月26日ピークを超えて5月2日に最高値を記録した。自動車での移動指数が206.08と200ポイントを突破した。自動車206.08、交通機関139.6、徒歩143.95を記録した。昨年はゴールデンウイークにかけて人流が著しく抑制された。人の移動指数が最低値を記録したのが5月5日。自動車64.72、交通機関51.43、徒歩53.24だった。今年のGW数値は昨年の3倍を超えている。
菅内閣は感染防止と言いながら五輪聖火リレーを強行し、マラソンレース実施を強行。観光業界と癒着する首長は感染拡大地からの観光客入込を容認。この状況で感染収束が実現するのは世界的な感染波動が縮小に向かう場合に限られる。
GW中の新規陽性者数が日によって前週比減少したが、休日で検査数自体が減少したことが大きな背景。変異株の流行が拡大しており、感染収束をまったく見通せない。
感染収束を実現できない場合、菅内閣は総辞職で責任を明らかにすべきだ。緊急事態宣言を発出したのに目立った効果が表れない主因は菅内閣のスタンスにある。
感染抑止を真剣に考えているように見えない。菅首相の頭のなかは五輪開催強行一色に染まっている。安倍晋三氏が5月3日のBS番組で「オールジャパンで対応すれば何とか開催できると思う」と述べた。桜を見る会前夜祭の明細書の国会提出もしていない身で、無責任な発言を示すべきでない。「オールジャパン平和と共生」=「政策連合」は東京五輪開催に反対である。
政府がはたすべき最重要の責務は国民の命と暮らしを守ること。国民の命と暮らしを犠牲にしてスポーツ興行にうつつを抜かすなど言語道断。
五輪の正体は超巨大商業イベント。巨大な金が動く。IOCが五輪開催強行に前のめりなのは、五輪開催による巨額のテレビ放映権料を獲得するため。
東京五輪は昨年3月24日に1年延期されることとされた。1年前の状況と現在を比較してみれば、2021年夏の開催があり得ないことは明白。五輪憲章の「オリンピズムの根本原則」に「オリンピズムの目的は、人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てることである」と明記されている。「スポーツのために社会がある」のではなく、「平和な社会の推進を目指すためにスポーツを役立てること」がオリンピズムの目的であるとしている。
しかし、これは建前の話。IOCバッハ会長のスタンスは、「日本がどうなろうと、日本国民がどのような災厄に巻き込まれようとも、必ず五輪をやる」というもの。東京五輪組織委員会の森喜朗元会長と違いがない。国民が犠牲になろうが、日本がどのような災厄に見舞われようが、自分の利権を確保するために五輪開催を強行する。これが五輪の実態、五輪の正体だ。
巨大利権イベント、巨大スポーツ興行を、国民の犠牲を踏み台にして実施する正当性はまったく存在しない。「東京五輪を開催すべき論理的な理由」などと題する提灯記事が流布されているが、論理的理由など何も示されていない。東京五輪を開催すべき論理的理由が存在しないことは誰も目にも明らか。
「東京五輪開催が可能か」の設問があるが、開催すること自体は可能。「火が燃えさかっている火災現場建物で、建物内部に突入することは可能か」の設問と同じ。火災現場に突入することは可能だが、無残な焼死になることは明白だ。重要なことは、このような場面で火災現場建物内部に突入することが適正であるかどうかを判断すること。「可能か不可能か」ではなく、「実施すべきか中止すべきか」を適正に判断することが重要なのだ。
現時点での客観情勢は中止が適正判断であることを示す。「コロナがどうなろうと、日本国民のどのような災厄が降りかかろうとも五輪開催を強行する姿勢を示す集団」は、「威力をもって経済的利益を追求する集団」である。
日本はIOCならびに東京五輪組織委員会を「反社会的勢力」に認定すべきだ。
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