【コロナで明暗企業(6)】日本製鉄と日立製作所~企業城下町の栄枯盛衰(前)
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新型コロナウイルスの感染拡大は、全国の「企業城下町」の経済に深刻な打撃を与えた。企業城下町には大企業の工場に部品を納入する下請業者、孫請業者が幾重にも連なる。大手が工場を縮小・休止・閉鎖すれば、影響はそのまま地域全体に連鎖する。日本を代表する大企業である日本製鉄と日立製作所の企業城下町の栄枯盛衰をたどる。
「鉄は国家なり」時代の終焉
「鉄は国家なり」は、鉄血宰相として知られるプロイセン王国、ドイツ帝国の首相ビスマルクの演説に由来する。大砲や鉄道に欠かせない鉄は国力の象徴だった。ドイツを範とした明治政府が、筑豊炭田に近く、洞海湾に面した八幡村(現・北九州市)に建設したのが官営八幡製鐵所だ。その流れを汲む八幡製鉄と富士製鉄が合併し、新日本製鉄が発足したのが1970年3月。高度成長をけん引する「鉄は国家なり」の時代だった。
それから半世紀。新日鉄の後身の日本製鉄は、大合理化に踏み切った。世界遺産にもなった八幡製鐵所は、ほかの製鉄所と統合されて名称が消えた。
日本製鉄は3月5日、高炉休止や1万人規模の合理化を盛り込んだ2026年3月末までの中長期経営計画を発表した。
東日本製鉄所鹿島地区(茨城県鹿嶋市)は25年3月末をめどに高炉2基のうち1基を休止する。20年2月に高炉2基がある瀬戸内製鉄所呉地区(広島県呉市)の閉鎖を決めたばかり。関西製鉄所和歌山地区(和歌山市)の高炉1基の休止時期も今年9月に前倒しする。九州製鉄所八幡地区小倉第2高炉は20年9月にすでに休止している。国内の高炉15基は10基に減り、粗鋼生産能力は2割減る。
製鉄所のシンボルである高炉の火が消える。「鉄は国家なり」の時代は終焉、企業城下町は崩壊をたどる。
「戦艦大和」を建造した呉製鉄所が閉鎖
「戦艦大和」が建造された広島県呉市の旧日本海軍の呉海軍工廠。その跡地に建設された日本製鉄呉地区(旧・日新製鋼呉製鉄所)は2023年9月末をめどに全面閉鎖される。
旧海軍工廠のなかで唯一、製鋼部があった呉海軍工廠。終戦から6年後の1951年に日新製鋼が建設された。143万平方m、東京ドーム30個分の広大な敷地に、高さ100mを超える高炉がそびえ立つ。海軍工廠時代のレンガつくりの建物が今も使われている。自動車の高機能鋼板などの製造を手がけている。
日本製鉄は19年11月、国内に16カ所ある製鉄所や製造所を6つの組織に再編する方針を打ち出した。製鉄所の再編案のなかで、日鉄の傘下に入った呉製鉄所は広畑製鉄所(兵庫県姫路市、旧・新日鉄)などとともに「瀬戸内製鉄所」として高炉は残る見通しだった。地元には存続するとの安心感があった。
ところが、1年半後の全高炉休止、3年半後の閉鎖の方針に切り換わった。高炉から製品の加工・出荷までを一貫して担う国内の製鉄所が閉鎖されるのは極めて異例だ。
「まさか全面閉鎖とは」――。中国新聞電子版(20年2月7日付)は、地元に走った衝撃を報じた。
「従業員たちからは『あの火災さえなければ…』と嘆きが漏れる。呉製鉄所内の第1製鋼工場で19年8月30、31日に連続して起きた火災が、方針の急転を招いた要因の1つとみるからだ。関係者によると、30日は、溶けた鉄が高炉からあふれ、ダンプカーや建物の一部を焼損。31日の火災は、より深刻な被害をもたらした。消火の水にまだぬれていた配線に通電したため、ショート。電気系統が焼けたという。電気部門の現場を知る70代の元社員男性は『考えられないミス。再稼働を変に焦ったとしか思えない』と指摘する。(中略)火災後、復旧のめどは立たないまま。別の従業員は「急ぐ様子はないのでおかしいと思っていた」と予兆を感じていた」。
日新製鋼の呉製鉄所は、17年に新日鉄住金(当時)が日新を子会社した際、新日鉄住金幹部が「我々の技術力を投じれば相当強い製鉄所に生まれ変わる」と豪語していた。だが、18年の西日本豪雨で大きな被害を受けた後に、2度の火災まで発生し、壊滅状態となって、全面閉鎖を余儀なくされた。
17年に日新を買収した際、利益創出効果は300億円と見込んでいたが、結果的に1,000億円近い赤字を抱える結果になった。「日新買収は何だったのか」と鉄鋼業界では冷ややかな声が聞かれた。
広島県呉市は呉製鉄所の企業城下町
製鉄所は関連・協力会社が多く、地元経済を支える大黒柱である。呉市は、呉製鉄所の企業城下町だ。製鉄所の全面閉鎖は、地元経済に壊滅的な打撃を与える。
呉製鉄所は、協力会社を含めて従業員3,300人を抱える。資材を納入する業者や運輸関係など経済的な裾野は広い。呉製鉄所の仕事がなくなれば、倒産、廃業するところも出てくる。
「ホテル、旅館業界も危機感を募らせる。市ホテル旅館組合は『客が3、4割減るところもあるかもしれない』。年に数回ある製鉄所の定期修繕で多くの事業者が出入りするからだ」(前出の中国新聞)
今回突き付けられた3年半後の閉鎖には、「早過ぎる」とショックが広がる。協力会社などが全面閉鎖までの3年間に対応策を講じられるだろうか。消費はとどめなく落ち込み、地域経済の崩壊は現実のものとなる。高炉の火が消え、街の灯も消える。
(つづく)
【森村 和男】
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