2024年11月14日( 木 )

被災地復興や新型コロナ禍への対応 高まる業界団体としての存在感(前)

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(株)森商事 代表取締役
(公社)福岡県産業資源循環協会 会長
森 史朗 氏

 産業廃棄物を適正処理することは生活環境の保全と国民経済の発展を図るために不可欠なうえ、近年は大規模災害の多発などで被災地における災害系廃棄物の処理も大きな社会問題となっている。(公社)福岡県産業資源循環協会は産業廃棄物処理業者と排出事業者などが会員となって運営される業界団体で、協会員は400社超。会長として業界をリードする森史朗氏は、さまざまなリスクの高まる現代社会で廃棄物処理は社会に欠かせない「エッセンシャルワーク」だと自負する。

災害系廃棄物の撤去で存在意義示す

 ――産業廃棄物処理の現場は社会情勢などを反映して日々変化しています。現場が直面している問題などについてお聞かせください。

福岡県産業資源循環協会・森 史朗 会長
福岡県産業資源循環協会・森 史朗 会長

 森史朗氏(以下、森) 近年の問題で最大のものは自然災害ですね。いわゆる災害廃棄物撤去の支援について(公社)福岡県産業資源循環協会(以下、協会)は、福岡県および県下自治体と個々に「災害時における災害廃棄物の処理等の協力に関する協定」を締結しています。2017年の九州北部豪雨被害でも、協会として朝倉地区や東峰村の災害系廃棄物の撤去を行いました。地震や豪雨など災害の態さまはさまざまですので、その災害ごとの対策・対応をどうすればよいのか、業界として検討していかなければならないでしょう。

 福岡県の場合はこれまでの被災経験などを生かしているため、九州他県の同業者からは「仕組みがよくできている」と捉えられています。他県の場合、たとえば災害廃棄物撤去で各建設業協会が介在したり、場合によってはゼネコンが出てきて下請に流したりするように、スピード感よりも利権が優先されるためにスムーズな撤去が阻害されるケースもあります。また、被災家屋の公費解体について、一部ゼネコンが入るケースもあるようですね。近年は、100年に一度と表現されるような災害が数年おきに起きている状況ですが、福岡県の場合は速やかな復旧・復興を第一に考えますので、そういった点では協会の存在意義を示せていると自負しています。

独立法としての廃棄物業法確立が悲願

 ――事業者が抱えている問題についてはどのようなことがありますか。福岡県は「処理費用が安い」という業界事情もあるようですね。

 森 処理費用は基本的に市場原理で決まるものだと思いますから、協会として処理費用の多寡に関与することはありません。たとえば医療系廃棄物については、かなり単価が崩れているなどの情報が入ってきますが、そのコストのなかで適正処理ができているということであれば、企業努力も当然あってしかるべきだと考えています。業界全体の問題意識として、処理費用が安すぎるという話が表立って討議されたことはないと思います。

 むしろ業界全体の課題として避けて通れないのは、人手不足です。これについては、外国人技能実習生制度を活用するために、上部団体の(公社)全国産業資源循環連合会(以下、連合会)が技能実習生の育成やノウハウなどを業界として検討しており、早期の実現を目指しているところです。ただし、いろいろなハードルがあり、たとえば中間処理場や最終処分場の労働には従事できるけれども、収集運搬部門では車の免許が必要になるために難しくなります。そういう制約のなかでは技能実習生が働きづらいとの話が出ています。

 労働力確保に向けた福岡県の取り組みとしては、たとえば協会の青年部が地域の中学校などに出前授業「ジョブスタディ環境教育」を行っています。授業では簡単な化学実験を行い、濁った水を凝集剤などを使ってどうやって(濁りの原因物質を)沈殿させるのか、どのようにしたら水がきれいになるのかということに、子どもたちに興味をもってもらいます。最近はいろいろな業種が出前授業を行っていますが、私どもの業界が子どもたちに一番人気があるという話です。そのなかから1人でも、将来は地球環境保全に寄与する職種に就きたいという子どもが出てほしいですね。コロナ禍が落ち着けば、また再開する予定です。

 注目されているSDGs(持続可能な開発目標)については、17のゴール、169のターゲットのなかで業種的には一番実践していると思います。ただし、すべてが実践できているわけではありません。一般的に、産業廃棄物は製造業から排出されるものがウエートとして一番大きいわけです。私どもの業界は裏方であり、製造業をうしろで支える存在であることをよく理解していれば、静脈産業を支える廃棄物業界にスポットライトがあたることは「国力」という視点で考えると、あまり好ましいことではないとも思います。日本は資源に恵まれないため、原料を輸入して加工し製品をつくることで成長してきました。私たちは後方で主要産業を支えることで国の成長に寄与するという立ち位置を忘れてはいけないと思います。今の若い方はそれを理解したうえで志が高く、優秀です。

 連合会では、独立法としての廃棄物業法を確立するという悲願があります。現在はサービス業のカテゴリに含まれているため、「業法」という範疇では一人前になっていないのが現状です。もちろん反対意見もあって、「また面倒な書類が増える」という業界関係者がいることも間違いありません。でも、そこはきちんと業法を権利としてもったうえで、廃棄物処理業としてものがいえるような立ち位置につきたいというのが悲願です。

(つづく)

【内山 義之】


<INFORMATION>
(公社)福岡県産業資源循環協会

所在地:福岡市博多区吉塚本町13-47
TEL:092-651-0171
FAX:092-651-1065
URL:https://www.f-sanpai.com

(後)

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