2024年11月23日( 土 )

日本製鉄が東京製綱に対する血の粛清~「ガラガラポン」で、役員人事総入れ替え(中)

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 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。その人を憎むあまり、その人に関係のあるものすべてが、憎くなるというたとえ。この諺を地でいく出来事があった。ワイヤロープの国内最大手、東京製綱(株)の全取締役が退任する。前会長・田中重人氏を追い落とした筆頭株主の鉄鋼最大手、日本製鉄(株)が放った二の矢が、盾突いた役員らを「ガラガラポン」での総入れ替え。全体主義国家を彷彿させる「血の粛清」である。

日本製鉄、東京製綱に敵対的TOB

 日本最大の鉄鋼メーカーの日本製鉄は2021年1月21日、ワイヤロープ最大手の東京製綱に対して株式公開買い付け(TOB)を実施すると発表した。現在9.9%の株式を保有する筆頭株主であるが、最大約24億円を投じて19.9%まで買い増す方針。TOB期間は3月8日まで。1株あたり1,500円で買い付ける。

 これに対し、東京製綱はTOBが事前に何らの通告や連絡がなく、一方的に開始されたとして反発。2月4日、TOBに「反対」意見を表明したことで、経営陣が同意しない敵対的買収へ発展。それでも3月9日に敵対的TOBは成立した。

 東京製綱は明治時代の1887年、艦船用のマニラ麻のロープの国産化を図るために設立された。「日本資本主義の父」と言われ、2021年のNHKの大河ドラマ『青天を衝け』の主人公である渋沢栄一氏が創業メンバーの株主に名を連ね、渋沢氏は初代会長に就いた。

 その後、ロープの素材が鉄に移り、エレベーターやロープウェー、クレーンなどに使われるワイヤロープを製造し、1970年1月に富士製鐵(株)が資本参加した。同年3月には八幡製鐵(株)と富士製鐵が合併して新日本製鐵(株)が発足。新日鐵が住友金属工業(株)との経営統合で誕生した日本製鉄(株)は、現在も、東京製綱の筆頭株主であり、東京製綱に原材料を供給する立場にある。2020年3月期の純損益は24億円の赤字に転落していた。

東京製綱業績

新日鐵OBの田中会長の首を取るだけのために仕掛けたTOB

ワイヤロープ イメージ 日本製鉄による敵対的TOBは特異のものだった。東京製綱の経営権を握ることが目的ではない。持ち分法適用にすらしない。

 「トップ指名プロセスの形骸化」「独立性・多様性が不足した取締役会」─。日本製鉄が1月21日に公表したTOBの説明書には、東京製綱の経営の問題点として辛辣な言葉が並ぶ。なかでも、田中重人会長が代表取締役の在任期間が20年におよぶことを問題視した。報道陣に対して「退任は必須」(日本製鉄)と言い切っている。まるで「ものいう株主」になったようだと驚かせた。

 日本製鉄は2017年5月中旬以降、東京製綱の経営改善を促してきたという。しかし、「(東京製綱が)ガバナンス体制の機能不全等の問題を抱えているにもかかわらず、それらの問題に対する有効な対応策を講じず、継続して業績が悪化している状況をこれ以上看過することはできない」とかなり強い不信感を示している。この「カバナンス体制の機能不全」の要因として名指ししているのが、田中会長だ。田中会長の首をとるだけのために、TOBを仕掛けた。

 グローバルな大企業である日本製鉄が、規模が小さい東京製綱に対してそこまでやるか、と物議を醸した。日本製鉄は、官営八幡製鐵所を源流とする保守本流。新日本製鐵時代は「鉄は国家なり」と豪語していた。そんな大企業が、なりふりかまわず、東京製綱を力でねじ伏せた。異例なTOB劇となった。

 会員制情報誌『FACTA』(21年3月号)は「東京製綱に『粛清的』」TOB 『日鉄離れ』を画策する取引先には煮え湯を呑ませる。ゾウがアリを踏みつけるような時代錯誤」と一刀両断した。

(つづく)

【森村 和男】

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