2024年07月18日( 木 )

73兆円補正予算食いものにする連中

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を抜粋して紹介する。今回は、「追加財政支出の73兆円の巨大予算を、利権政治勢力と利権官庁と癒着業者(政商)が共謀して食いものにしている」と訴えた5月21日付の記事を紹介する。

2020年度は3次にわたって補正予算が編成された。
追加された財政支出は第1次が26兆円、第2次が32兆円、第3次が15兆円。
合計で73兆円の財政支出が追加された。

とてつもない金額だ。
この巨大な財政資金の使い方を問題にしなければならない。

20年度の国の財政支出は合計で250兆円。
一般会計、特別会計歳出純計は296兆円だが、このなかに財政投融資が46兆円含まれている。
これを除いた歳出純計が250兆円。
巨大な金額だが、これらのすべてが政策支出ではない。

国債費が100兆円
地方交付税交付金が20兆円
あり、これを除くと130兆円になる。

130兆円のうち、
97兆円が社会保障関係費
34兆円がその他の政策経費。

巨大な予算だが、一般の政策支出は34兆円に過ぎない。
97兆円の社会保障支出の財源として国費を投入している部分が35兆円。
これ以外の財源は62兆円の社会保険料収入等である。

社会保障支出を除くと国の政策支出は1年間で34兆円。
この金額を踏まえると、20年度補正予算での財政支出追加73兆円は途方もない水準であることがわかる。
当初国家予算の2年分以上の支出が追加されたことになる。

73兆円のすべてが国民に支給されていれば、1人あたり56万円の手取り増になる。
その73兆円が個人消費で支出されればGDPは73兆円増える。
日本のGDPはコロナで大幅に減少したが、このGDP減少を完全に穴埋めできる金額が国から支出された。

19年7~9月期の実質GDP 558兆円(季節調整済、年率)が20年4~6月期に500兆円に減少した。
しかし、73兆円の財政支出が個人消費などで支出されれば、GDPの落ち込みは完全に穴埋めできているはずだ。
しかし、73兆円の巨大な国費が闇に消えた。

唯一、例外的にわかりやすい政府支出になったのが一律給付金。
1人10万円の給付が条件なしで実施された。
約13兆円の支出。

しかし、政府は3次にわたる補正予算編成で73兆円の財政支出を追加した。
13兆円の一律給付金なら5回実施して65兆円。
なお、8兆円が残る。

1人10万円給付を5回実施すれば、4人世帯の家計収入は200万円増える。
200万円の給付が実施されれば、生活を支える基盤になる。
巨大な財政支出を追加するなら、このような「透明」「公正」な方法を用いるべきだ。

消費税収は年間20兆円だから消費税率ゼロを3年も実施できる。
消費税率5%なら6年実施できる。
このような透明、公正な財政運営を行うことが重要なのだ。

補正予算の中身を見ると、得体のしれない支出が列挙されている。
第1次補正予算の支出内容
第2次補正予算の支出内容
第3次補正予算の支出内容

第1次補正の26兆円に一律給付金13兆円が含まれるが、これ以外に資金繰り対策費として4兆円が計上されている。
第2次補正の32兆円には予備費が10兆円、資金繰り対策費として12兆円が計上されている。
第3次補正予算ではポストコロナに向けた経済構造の転換、好循環の実現に12兆円が計上されている。

予備費10兆円は言語道断。
資金繰り対策費は上記の2つを合わせて16兆円にもなるが、この金額が政府金融機関への資金贈与になっている。
国民に対する資金贈与ではなく、天下り先の政府系金融機関への資金贈与なのだ。

ポストコロナの名の下に各省庁の利権予算が無制限、無尽蔵に計上された。
結局、貴重な国民の税金が利権政治勢力と利権官庁の利権支出に充当されている。
73兆円の補正予算を編成しながら、一般庶民の手にはほとんど回らない。
この構造を打破する必要がある。

コロナに便乗して利権政治勢力と利権官庁、そして、利権政治勢力・利権官庁と癒着する業者=政商が巨大な補正予算資金に群がる。

その一端がGoToトラブル事業。
2.7兆円もの国費が計上された。
2.7兆円の巨大な予算を食いものにする者が群がる。

「サービスデザイン推進協議会」などという外郭団体を立ち上げて、予算の中抜きを行うなどの事実も判明した。
巨大な政府予算を食いものにする者が群がるのだ。

GoTo事業の事務処理を特定少数の事業者に委ねる。
この特定少数の事業者が法外な収入を獲得する。

1人1泊4万円の宿泊に2万円の補助金が投下されれば、1泊4万円の高級旅館に利用が集中する。
利権政治勢力と癒着する事業者だけが暴利をむさぼる構造が構築された。

その一方で、菅内閣は高齢者医療費窓口負担の引き上げを強行。
75歳以上高齢者の医療費窓口負担を1割負担から2割負担に引き上げる。
負担が1割増えるのではない。
負担は2倍に増えるのだ。

国民の命と健康が危機に直面するなかで、73兆円補正予算を編成しながら、どうして75歳以上高齢者の医療費窓口負担を倍増する政策決定を提案するのか。

この措置で節約される公費負担は年間1,200億円。
利権まみれのGoToトラブル事業に2.7兆円もの国費を投入しながら、75歳以上高齢者の医療費窓口負担を倍増させることを、なぜ国会が糾弾しないのか。

73兆円の巨大補正予算のなかで、広く国民に分配した部分はわずかである。
13兆円の一律給付金が唯一、透明、公正な資金配分だった。
これだけの予算を計上すれば、コロナ病床を無尽蔵に確保することなど朝飯前のはず。
病床提供によって生じる病院の収入減を完全に補てんする財政措置などを駆使すれば、必要十分な病床確保は十分に可能だったはずだ。

73兆円の巨大予算に利権政治勢力、利権官庁、利権業者が群がり、食いものにする構図がくっきりと浮かび上がる。

73兆円もの巨大補正予算を編成するのであれば、一律給付金を5回実施できる。
消費税ゼロを3年実施できる。
消費税率5%を6年は実施できるのだ。

これらの透明公正な財政措置を実施したうえで、残余の資金をコロナ対策に充当する。
これが正しい対応だ。

一般の政策に充てる年間予算額が34兆円に過ぎない現実のなかで、73兆円もの財政支出を追加した。
その73兆円から一律給付金13兆円を除いた約60兆円が闇に消えている。
これが日本財政の最大問題だ。

財務省は財政危機で「明日はギリシャ」と叫んできた。
ところが、何の議論もなく、突然、73兆円もの財政支出追加が行われた。
財政危機が真っ赤な嘘であったことも判明している。
73兆円の巨大予算を利権政治勢力と利権官庁と癒着業者=政商が共謀して食いものにする構図が浮かび上がる。

日本の一般政府のバランスシートを見ると、99兆円の資産超過であることがわかる。
債務が1,335兆円あるが、資産が1,434兆円ある。
差し引き、99兆円の資産超過なのだ。

日本財政の根本問題は国民の税金が利権政治勢力、利権官庁、利権業者=政商によって食いものにされていることにある。
この事実を広く国民に知らせる必要がある。


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植草一秀の『知られざる真実』

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