アスベスト被害訴訟(1)最高裁が判決で国の責任認める、補償制度新設へ
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アスベストによるひきおこされた中皮腫や肺がんなどの健康被害問題。国内では2005年にアスベスト含有製品を過去に生産していた工場近辺の住民の健康被害が明らかになったことで注目を浴びるようになった。アスベストは建築物の解体によっても排出され、環境省は解体により排出量が20年~40年頃にピークを迎えると予測しており、今後も被害者への補償制度の充実が求められる。国の責任を認めた先日の最高裁の判決を紹介するとともに、今後の補償制度を展望する。
建設現場のアスベストを吸い込んだことにより中皮腫や肺がんなどの病気になったとして元建設作業員や遺族ら約500人が訴えた4件の集団訴訟(東京・横浜・京都・大阪)で、最高裁は17日、国や建材メーカーに賠償責任を求める判決を初めて下した。08年の「建設アスベスト訴訟」の開始から、13年もの年月が経っている。
世界保健機関(WHO)が1972年ごろ、アスベストはがんの原因となることを指摘しており、国もそのリスクを認識していた一方で、アスベストの建材への使用が原則禁止された2004年頃まで国が十分に規制を行わない違法状態が続いた。最高裁は、国が1975年10~2004年9月にアスベストを使用する建設現場で粉じんを吸い込むと病気の危険があることを建材に警告表示し、防じんマスクを着用する必要があることを示すように指導監督すべきであり、規制を怠った国の対応を違法と認めた。
今回の判決により、国は原告1人あたり最大1,300万円の和解金などを支払うこととなり、裁判を起こさなくても被害者が補償を受けることができる国の制度がようやく設けられることとなった。建設アスベスト訴訟原告団、弁護団は18日、これらの内容について国と基本合意書を締結した。
最高裁は、メーカーの賠償責任についても一定の条件を認め、労働安全衛生法の対象でない一人親方や中小事業主に対する国の責任も認めており、救済の対象とする。建設現場でアスベストにより健康被害を受けたのは国が認定しているだけでも約1万人で、実際の被害者は数万人におよぶと考えられる。訴訟が長期におよんでいるため、今回の原告をはじめ被害者の高齢化が進み、亡くなってしまった人も多い。
今回の判決は、全国で行われているアスベスト被害訴訟や被害者の救済に大きな影響を与えるだろう。一方、屋内作業者について国の責任があると認めているが、屋外作業者は屋内と比べると粉じん濃度が低いことから被害が予見できないとして、国とメーカーの責任が否定される結果となったことは今後の課題として残る。
アスベストは1970年から90年にかけて年間約30万トンが輸入され、その8割以上が建材に使用されたと言われている。((独)環境再生保全機構HPより)安価で耐火性や耐熱性に優れるため、多くの場所で使用されてきた。
アスベストは、肉眼では見ることのできないとても細い繊維からなっており、飛散すると空気中に浮遊して、吸い込まれて人の肺胞に沈着しやすい。肺の組織内に長く滞留したアスベストが、肺がんなどの病気を引き起こす原因となる。1960年代のアスベスト輸入量の増加した時期にアスベストのばく露を受けてから、発症するまで約40年という非常に長い潜伏期間があるため、アスベストによる健康被害と言われている中皮腫が最近において急増。2017年の中皮腫の死亡者数は1,555名と1995年の3倍以上となる(以上、(独)環境再生保全機構HPより)。
これらの被害者は、今後も増えると予想され、これからはアスベストが大量に使われた1970~90年ごろに建てられた建物の老朽化にともない、解体工事が増加するため、十分な対応が必要だ。
今回の判決を踏まえて、アスベスト被害者が納得できる救済を行うことが求められている。
(つづく)
【石井 ゆかり】
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