ミャンマー軍事クーデター、日本政府が沈黙する陰に日本企業と軍の深いつながり(2)
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(一財)カンボジア地雷撤去キャンペーン理事長
CMCオフィス(株)代表取締役 大谷 賢二 氏2月1日のミャンマー国軍によるクーデターは、昨年のミャンマー連邦議会の総選挙で、アウンサン・スーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)が改選議席の8割以上を得たことに恐れをなした国軍が、憲法で保障された権限を発動したものだ。
国連や欧米各国は、ミャンマー軍に対して、市民の殺りく停止、スーチー女史などの逮捕者の即時釈放、民主化の回復を求めて厳しい対応をしているが、日本は毅然とした態度をみせていない。そのような対応しかできない背景には、日本企業とミャンマー軍との深いつながりがあった。日本企業とミャンマー軍部とのつながり
ミャンマーにおいて、2011年の民政移管後、15年11月に実施された総選挙の結果に基づく国民民主連盟(NLD)政権の発足後も、08年に制定された憲法により軍の政治的影響力は依然として温存されたままであり、ロヒンギャやカチンを含む少数民族に対する軍による国際人道法に違反した攻撃が報告され、少数民族に対する人権侵害が起きていることについて、筆者は重大な懸念を表してきた。
21年2月1日のミャンマー国軍によるクーデターにより、その懸念は現実のものとなった。ミャンマー国軍は、アウンサン・スーチー女史率いるNLDが大勝した20年11月の選挙で不正投票があったと主張している。
民主的に選ばれたスーチー女史を含むNLD関係者が、ミャンマー国軍によって拘束され、1年間の「非常事態」が宣言された。このクーデターに反対して、若者を含む大勢のミャンマー市民による民主化を求めるCDM(市民不服従運動)がミャンマー全土で実施されているが、ミャンマー国軍は非暴力・平和的に活動している市民に対して実弾を発砲。現地の人権団体によれば、これまでに約800人が死亡、3,000人以上が拘束されるなど、深刻な人権侵害が広がっている。
憲法上も、国軍の政治的役割が保証されるなど、民政移管、民主選挙によっても民主化が実現したとはいえず、軍の政治的影響力が依然として強いことは、かねてから問題視されていた。加えて、現役、あるいは退役した軍の幹部が、ミャンマーの複数産業にまたがる、少なくとも120の事業を共同で展開する主要軍産複合体「ミャンマー経済ホールディングスリミテッド(MEHL)」と「ミャンマー経済公社(MEC)」を率いるなど、軍が強い経済的影響力をもち、ミャンマーにおける経済活動の主だった部分を実質的に支配している。
軍はいまだに広大な土地を支配しており、膨大な数のビジネス、仲介業者、代理会社を通じて自己資金を調達しており、その事業は、ホテル、醸造所、銀行、タバコ、製造業、運輸業、農業、国際貿易、鉱業、翡翠、宝石など多岐にわたる。スーチー国家顧問率いる文民政府は、これらの事業を通じて調達された資金を十分に監視できていないと指摘されてきた。アメリカ政府は21年3月25日、MEHLとMHLに国内資産の凍結や取引の禁止を含む制裁を科すことを決定した。
そのため、外国の政府や企業がミャンマーで政府開発援助を含む経済活動を展開することは、その主観的意図にかかわらず、結果として、軍の経済活動を支援することにつながり、さらに軍による国際人道法違反、人権侵害を助長するというリスクが常に存在していた。軍によるクーデター下の現状において、各国政府および各国企業の責任は一段と高まっている。
ミャンマーの現状と、ビジネスと人権に関する課題
ミャンマーの民主化への取り組みを評価する欧米諸国による経済制裁解除の効果もあり、11年の民政移管後、ミャンマーは軍政下の計画経済から市場経済への転換を図るなかで多くの投資を呼び込み、経済成長を遂げた。しかし、軍の政治的影響力は憲法上も依然として強く残っており、民主的選挙が実施されたとはいえ、民主主義が確立されたとは言い難い。民主主義の根幹をなす法の支配、基本的人権は発展途上にあるのだ。
このような状況下で、ラカイン州で主にミャンマー国軍が引き起こしたと批判されているロヒンギャに対する国際人道法に違反する殺人、強姦、放火といった大規模な虐殺行為(ジェノサイド)など、ミャンマー国軍は少数民族居住地域において人権侵害行為を行っていることがこれまで数多く報告され、現在も紛争状態の地域が各地に残っている。
国連人権理事会が指名した国際的な独立調査団は、19年8月に報告書を発表し、同国に投資をする海外の企業に対し、同国軍とつながるビジネスから手を引くことを提言している。また、西部のラカイン州でのロヒンギャの問題だけではなく、北部のカチン州のカチン族などの他の少数民族に対しても、軍は、国際人道法違反の攻撃や人権活動家の拘束など人権侵害を続けている。
こうした今日のミャンマーにおける深刻な人権侵害状況にもかかわらず、日本企業を含む多くの国際企業は、事業活動がこれらの人権侵害におよぼす影響を十分に検討することなく、経済的利益を過度に重視し、ラカイン州などの紛争地域で事業を展開し、ミャンマー軍あるいは軍が関与する企業と投融資を通じて事業展開を行い、結果として同国内おける人権侵害を助長・加担していると批判されている。
11年、国連人権理事会にて全会一致で承認された国連「ビジネスと人権に関する指導原則」は、企業は世界人権宣言、自由権規約、社会権規約、また国際労働機関(ILO)中核的労働基準といった、基本的な国際人権を尊重する責任を負うことを明示している。
(つづく)
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