衰退する日本の現状
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名古屋市立大学22世紀研究所・特任教授 中川 十郎 氏
GDP成長率は戦後最大のマイナス幅
政府が5月28日に発表した雇用関連統計によると4月の完全失業率は2.8%に悪化。有効求人倍率も2020年4月の1.3倍から6か月ぶりに1.09倍に低下。新型コロナウイルスの感染が再拡大する東京都や大阪府では1倍を割り込んでいる。
完全失業者数は前年同月比20万人増の209万人で、15か月連続で前年同月を上回った。就業者数は6,657万人で、2年前の4月と比べて51万人減っており、新型コロナウイルスの感染拡大前の水準には回復していない。産業別では宿泊業、飲食サービス業で厳しい状況が続き、就業者数は前年比20万人減。2年前に比べて66万人減となっている。
アジア開発銀行が4月28日に発表した「アジア太平洋地域46カ国、地域の経済予測」では、21年のアジア新興国のGDP成長率は前年比7.3%のプラスであり、22年に5.3%と予測されている。これをけん引している中国は21年8.1%、22年5.3%、インドは20年▲8%、21年11%、22年7%となり、東南アジア(ASEANと東ティモール)は21年4.4%と予測されている。
日本は20年度のGDP成長率は戦後最大のマイナス幅となった。政府はグリーンとデジタルを次の成長戦略の原動力としているが、具体的な動きが見られない。50年のカーボンゼロの政策は原発再稼働で実現しようとしており、国民の間に強い批判がある。
電気自動車も、欧米に比べて日本では動きが鈍い。筆者が19年9月に訪問した中国・合肥の電気自動車工場では、ロボットを大量に活用しており、加えて、車体の重量を抑えてエネルギー効率を高めるために、車体にアルミを多用していた。工場の関係者が、中国は世界の電気自動車のシェア50%を目指すと豪語していた。成長分野の半導体やスマートフォンでは、台湾、韓国、中国メーカーの独壇場だ。
デジタル技術を活用した台湾のコロナ封じ込め策
先日開催された「デジタル立国ジャパン・フォーラム」(主催:日本経済新聞社、日経BP、開催日;5月28日)では白熱した議論が展開された。同フォーラムの講演者の台湾デジタル大臣のオードリー・タン氏は、バーなどのロックダウンは行わず、台湾のデジタル革命により社会全体をデジタル化して、コロナ感染者を抑え込んだと強調した。IoT、AIなど、デジタル技術を活用した台湾のコロナ封じ込め策は、マイナンバーカードの混乱などにより、コロナ封じ込めで後手後手に回った日本と比較しても、国際社会から高く評価されている。
さらにアジアでは、中国をはじめ、韓国、タイ、ベトナム、シンガポールなどのコロナ封じ込め策は、コロナ対策後進国の日本を尻目にして効果を発揮している。5月末になっても日本のワクチン接種率が2~3%という状態は、東京オリンピックを控えて、海外からも批判の的になっている。
コロナ後の対策~緑の革命、DX、健康・医療対策
「国連世界幸福度ランキング」(21年3月19日発表)で上位のフィンランド、デンマーク、スイスなどに比べて、わが日本は56位。日本の国民1人当たりのGDPは、平成の失われた30年間で首位から23位になり、デジタル競争力は63カ国中27位、デジタル教育46位、データ活用では63位に落ち込んでいる。デジタル時代を控えるなか、ゆゆしき事態だ。
日本はコロナ後の対策として、Green Revolution(緑の革命)とともにDX(デジタル・トランスフォーメーション)、さらに健康・医療対策に真剣に取り組むことが必要だ。
前述の「デジタル立国ジャパン・フォーラム」では、内閣のデジタル庁が9月に発足することもあり、デジタル専門家による長時間にわたる熱のこもった討論があった。
「インターネットの父」とも呼ばれる情報専門家の村井 純・慶應義塾教授は今後、グローバル・サイバー空間での安全、安心な日本の構築が重要だと強調した。
オードリー・タン大臣はデジタル革命により、マシンインテリジェンス (機械知能)の活用で今後、手作業などが自動化されて時間の節約が進展すること、ソーシャルイノベーション(社会問題に対する革新的な解決法)が進み、問題解決型の創造的イノベーションの時代が訪れること、そのためには自然と人間のかかわりを大切にして市民を信頼し、生涯教育を推進することが必要だと強調した。
内閣情報通信政策監(政府CIO)の三輪昭尚氏は、5Gによるデータ活用、社会基盤整備と社会実装、加えて、デジタル社会に備えた教育、医療、サイバーセキュリティなどを組み込んだデジタル・ガバメント(電子政府)、デジタル社会の構築による社会問題の解決が必要だと強調した。さらに、EBPM(根拠に基づく政策立案)の重要性も指摘した。
デロイト トーマツ グループのCSO(最高戦略責任者)の松江英夫氏は、日本は失われた30年で米国、中国との差がついて、1人当たりGDPでは23位に衰退。デジタル教育では46位、データ活用では実に63位に後退していると日本の出遅れに警告を発した。さらに、日本は内向きの「タコつぼ」型であり、閉鎖的な自前主義社会で変革スピードが遅いこと、既存ルールの偏重が目立つこと、情報関係予算の80%が既存のシステム維持に向けられていること、従業員の89%にデジタル教育の機会がないことを指摘した。
これではデジタルの破壊力、創造的破壊に貢献できないため、専門分化よりも統合的価値に重きを置き、新たなものを作り出すことが大切だという。そのためには、既存の強すぎる組織、業界を改革して、「あるものを活かし、ないものを創る」という新たな価値創造が大切だという指摘には、筆者も同感して感銘を受けた。データをつなげて価値を創造すること、地域を活性化するためにデータを読み解き、課題を解決できる人財を育成すること、教育による人材の高付加価値化で、新しい産業創造と雇用機会を創出することが大切だと強調した。まったく同感である。
コロナ後は、社会のパラダイム(社会の仕組み)が大幅に変革される。かつて日本がIT・情報革命に乗り遅れたのは1990年代のインターネット革命に対して日本の組織が閉鎖的であり、既得権が強すぎて対応できなかったことが原因だ(『リープフロッグ』、野口悠紀雄著)。
今回のデジタル変革でも同じ過ちを犯してはならない。日本の官民の硬直した組織と既得権を破壊して、新たなデジタル社会の構築に向けて官民が総力を結集し、21世紀の緑の革命、DX、健康・医療革命に対応することこそ、コロナ後の日本を再生して、日本が生き残るために肝要だ。日本の官民の奮起を期待する次第である。
<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)
鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)。関連キーワード
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