【注目自治体】大西一史・熊本市長 新型コロナ禍はまだ終わらない~常に最悪を想定し、危機に対応する (前)
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第33代熊本市長 大西 一史 氏
九州では福岡県と並んで新型コロナウイルスが猛威を振るっている熊本県。指定都市の熊本市では一時期病床稼働率が100%を超えるなど、医療体制がひっ迫する事態になっていた。市長就任以来、熊本地震と新型コロナ禍などの危機管理に直面してきた大西一史市長。危機対応の要諦を「常に最悪を想定すること」と語る大西市長に現状を聞いた。〈インタビュー実施日:5月25日〉
「来てほしいけれども、来てもらっては困る」というジレンマ
――昨年来、新型コロナウイルスの感染が熊本県内でも広がっています。5月24日時点で県内感染者が5,981人、うち熊本市が3,377人となっています。熊本市における病床使用率のひっ迫度などについてお聞かせください。
大西一史氏(以下、大西) 熊本市では今年の4月中旬から急激に感染者が増加し、いわゆる「第4波」が襲ってきました。さらに4月~5月の連休後に感染が拡大している状況も見てとれます。感染者が急増したことで5月6日あたりには病床使用率が100%近くになるという予測が出ましたので、4月25日には熊本市独自の「医療非常事態宣言」を発令しました。熊本県では5月7日に「熊本蔓延防止宣言」を発出し、外出自粛要請や営業時間短縮要請等の強い制限を課してきました。さらに5月14日には「まん延防止等重点措置」の熊本県への適用が決定しています。
感染状況をつぶさに見ますと、やはり飲食や接待をともなう飲食店などでクラスターが発生する傾向にあり、それが家庭内感染にもつながっています。さらにもう1つ傾向として出ているのは、出張などで県外との往来による感染が増えているということです。感染者の推移としては、5月に入って毎日記録を更新するほどに増え、一時期は100人ペースで増えていました。さらに5月22日の病床使用率は100%を超えています。熊本市には136床のコロナ対応病床がありますが、現在、病院に無理を言って1床増やしていただいている状況です(5月25日現在。6月1日より182床)。自宅待機の方も非常に多く、200人規模にまで膨らんでいます。このような方のケアに全力を挙げて対応しており、自宅待機中に急変してもきちんと医療を受けられるような体制づくりをはじめ、体調不良等の変化を早くキャッチできるよう自宅療養者のケアを行っている療養支援センターの強化にも取り組んでいるところです。
一方で、病床使用率が100%を超えているという現状は、本当に深刻な病状に陥った患者さんをすぐに受け入れられないということでもあります。これから新規感染者数が抑えられ、その間集中治療室や人工呼吸器を利用している方が回復してくれば、病床の見通しも立ってくると思いますが、まだまだ強い危機感を持っています。
――福岡県では緊急事態宣言が延長されました。飲食店では酒類の提供ができなくなったため、歓楽街の中洲などは灯が消えたような状態になっています。熊本市の現状はいかがでしょう。
大西 現在、「まん延防止等重点措置」が適用され、熊本市内全域ですべての飲食店に対する午後8時までの営業時間の短縮要請と、酒類提供の自粛要請が行われていますので、そういう意味では熊本市でも福岡と同程度の厳しい措置が取られています。県下全域をみても、営業時間は午後9時までという要請が出ています。熊本県は福岡県と県境を接していますので、たとえば大牟田市と隣接する荒尾市など有明保健所管内では福岡と同じような措置をとらざるを得ない状況です。
「まん延防止等重点措置」が適用されたため、飲食店に対し県と熊本市で売上高に応じた協力金を支給しているものの、飲食店経営者の悲痛な叫びが実際に私の耳にも届いています。できる限りの支援をしつつ1日でも早く通常営業に戻れるよう、今はとにかく感染拡大を防ぐことに集中するしかありません。昨年から、市の独自支援として家賃支援を3回にわたり実施してきました。ほかにもさまざまな対策のために合計1,000億円以上の新型コロナ対策予算を費やしてきましたが、今後も市の財政が許す限りできることをやるつもりです(6月13日「まん延防止等重点措置」解除)。
――熊本市では、税収においても雇用においても観光産業の振興が重要になります。そういう意味では、「(観光客に)来てほしいけれども、来てもらっては困る」というジレンマがあるのでは。
大西 4月26日、熊本地震から5年ぶりに再建復旧した熊本城天守閣の内部公開を予定していました。しかし急速な感染拡大にともない、前日の25日に無期限延期を決めました。熊本市は、熊本地震の後に全国から多くの方が観光に訪れてもらうことで復旧・復興を応援してもらい、支えていただきました。とくに福岡や九州各県からはたくさんの方にお越しいただいたご縁があります。まずは九州全体で感染状況を改善させ、また隣県や近県のみなさまが熊本にお越しいただけるようになることを、心から願っています。
九州新幹線が開通したことで、福岡まで30分、鹿児島まで40分という好アクセスが実現しましたが、これが逆にコロナウイルスの感染拡大を容易にしています。来ていただきたいのに、来るなと言わざるを得ない非常に厳しい状況ですが、ワクチン接種がカギになってくると思いますので、今はワクチンの接種率向上に向け、全力を挙げています。
九州新幹線のインパクト~福岡は通勤・通学圏内
――九州新幹線開通が与えたインパクトは大きいですね。熊本から福岡まで通勤・通学で通う方も増えましたか。
大西 非常に増えていると思います。熊本に家を構えて福岡に通勤される方もいらっしゃれば、福岡に家をお持ちの方で、転勤で熊本勤務になったけれども引っ越さず熊本まで通っている方もいらっしゃいます。これは新幹線の効果が非常に大きいと思います。JR九州によると新幹線定期券の発行額が大きく伸びているということですが、今後もさらに伸びていくと思います。福岡はある意味では日本で一番元気のいいまちだと言われていますので、30分で繋がっていることはすごく大きな効用があります。コロナの感染状況を見ても、福岡と熊本の感染グラフはほぼ同じように推移しています。それだけ社会的に近接性があり、経済回復においても福岡と熊本の景況はある程度連動していますから、まずは福岡が早く感染を抑え込み、経済を回復させてほしいです。
――ワクチン接種については、自治体間でかなり差が出ています。たとえば佐賀県鳥栖市ではかなりスムーズに、打ちたい方が受けられる状況が実現していますが、一方で福岡ではまだ予約段階で渋滞しています。熊本市や熊本県ではどのような状況でしょうか。
大西 熊本市も他自治体と同様に混乱した状態にありました。4月12日に、まずは高齢者施設入所者や従事者に対する接種をスタートさせ、5月6日に一般の高齢者の予約を受け付けました。ところが公平を期すため65歳以上のすべての方に接種券をお配りし、一斉に電話やインターネットでの予約を開始したため、予約枠は4千数百しかなかったにもかかわらず熊本市の約20万人の高齢者が殺到してしまいました。大混乱した結果、市役所だけでなく、私の元にも多くの苦情が寄せられました。立て直しに全力で当たり5月17日と18日の第2期予約受付では、「65歳以上、一斉に」というかたちではなく、「85歳以上」と「80歳以上」で年齢を区切って分散予約をお願いしたところです。
なんとか7月末までには希望される高齢者の皆さん全員の接種を終わらせたいということで、医療機関での個別接種枠を増やすことや、大規模接種会場についての検討もスタートさせましたので、今後そうした部分が整っていけば、ワクチンの接種がかなりはかどっていくのではないかと思っています。
今非常に心配しているのは、その後の「65歳未満」の方の接種をいかにスムーズに進めるのかということです。熊本市では対象者が約60万人であり、このうち約7割の方がワクチンを接種するとしても40万人程度いらっしゃるため、先行して実施した高齢者のように現場は大混乱すると思います。この方々の接種をできるだけ前倒しできるよう、現在行っている高齢者の接種について速やかに予約をしていただき順次接種を行っている状況です。
――ワクチン接種における混乱が続いています。国や自治体が優先的に受けるべき人を決め、順番まで決めたうえで線引きするというやり方もあったのではないでしょうか。
大西 私自身は、あくまでも公平に行うべきと考えています。ただし、接種の優先順位に関しては、もう少し国全体で整理しておくべきだったと思います。「自治体にお任せします」となると、どうしても「公平にやりましょう」という結論になりがちです。私自身は指定都市市長会でコロナ感染症対策本部の副本部長を務めていますので、河野太郎行政改革担当大臣と4月にお話しした際、ワクチン接種について大都市から接種を急ぐべきだということを要請しました。やはり、感染が急速に拡大している地域を抑えるという意味では、緊急事態宣言が出ているような地域について優先的に接種を進めるという戦略があってもよかったと思います。しかしながらワクチン接種の希望者は多いので、優先接種については自治体できめ細かに行っていく必要があるのだろうとも思います。
キャンセルされたワクチンについては高齢者や救急や消防に携わっている方、あるいは特別支援学級の養護教諭など幅広く打てるよう優先すべき人をリストアップし、公表して接種しているところです。5月24日からの1週間でそのような方が200人ほどに達しました。今後は優先接種すべき業種なども全国的に考えるテーマになるのだろうと思います。
個人的には、「インフルエンザワクチンは予約なしで打てるのに、なぜコロナワクチンは打てないのか」という疑問を持っていましたが、新型コロナワクチンのハンドリング(扱い方)が非常に難しいということがわかりました。確実に予約を受けた分だけワクチンの供給や解凍をする、しかも常温にしたら「数時間しか持たない」などいろいろな制約があり、そこは仕方がない部分なのかもしれません。
(つづく)
<プロフィール>
大西 一史(おおにし・かずふみ)
1967年12月、熊本市生まれ。92年日本大学文理学部心理学科卒業。日商岩井メカトロニクス(株)に入社し、94年に退職。内閣官房副長官秘書を経て、97年に熊本県議に就任(5期)。2014年12月に熊本市長に就任し、現在2期目。関連キーワード
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