【コロナで明暗企業(8)】海外旅行が蒸発したエイチ・アイ・エス~ハウステンボス売却計画の衝撃!(1)
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新型コロナウイルスの流行はいまだ収束せず、旅行することはまだ難しい。コロナ禍で需要が蒸発した旅行業界のなかで、エイチ・アイ・エス(HIS)は海外旅行が主体であるだけに打撃が大きい。ワクチン接種による国内旅行の回復に期待がかかるが、7月12日、東京都に4回目の緊急事態宣言が出された。ドン底から抜け出す光明は見えてこない。同社は生き残るために、なりふり構わず資産売却に動き出した。
移転からわずか1年、325億円で本社を売却
(株)エイチ・アイ・エス(以下、HIS)は6月30日、本社を置く東京・虎ノ門のオフィスビル「神谷町トラストタワー」の4~5階フロアを売却すると発表した。譲渡額は325億円(簿価は同額)で、新型コロナウイルス流行にともなって業績が悪化するなか、手元資金を確保して財務基盤を安定させるのが狙い。
三井住友ファイナンス&リース(株)系の不動産関連事業を営むSMFLみらいパートナーズ(株)(東京都千代田区)への売却で基本合意した。売却後もそのまま賃借するセール&リースバックの手法で、7月末に賃貸契約を締結する予定。リース期間は7月から2041年6月まで。リース料の総額は非公表としている。
HISが創業40年を迎えた昨年の6月に西新宿から本社を移転した先が、神谷町トラストタワーだ。これは、国際的ビジネスタワーとして再開発が進められている虎ノ門バストラルホテルの跡地を開発した東京ワールドゲートの中核を成す超高層ビル。
同ビルを所有する森トラスト(株)からHISは新本社が入居する4~5階分、延べ床面積2,320坪を19年3月に325億円で取得。「持ち分の売却」と呼ばれ、土地・建物の所有者がその一部を第三者に売却する取引だ。
HISは20年6月、神谷町トラストタワーへ本社機能を移した。本社移転を機に、どれ1つとして同じものがない世界5大陸原産の約80種類の植物をオフィス内に設置し、多様性を表現するとともに自然との調和も強化した。世界にネットワークをもつ旅行会社を象徴するオフィスだった。
それが、たった1年で売却することに。新型コロナウイルスがもたらした衝撃の大きさを物語っている。
21年中間期は過去最大の赤字
「今が一番悪い時期、ボトムかなと思っている。ワクチンを打った人を中心に、今年の秋以降に国内旅行が戻り、海外旅行は来年以降になるだろう」。
21年10月期中間決算で過去最大の赤字を計上したHISの澤田秀雄会長兼社長は6月11日、オンラインで開いた決算会見でそう述べた。
第2四半期(20年11月1日~21年4月30日)の連結決算は、売上高が前年同期比80%減の676億円、営業損益は310億円の赤字(同14億円の赤字)、最終損益は232億円の赤字(同34億円の赤字)だった。営業損益、最終損益ともに同期間として過去最大の赤字だ。
1~3月に東京都などで緊急事態宣言が発令されたこともあり、旅行需要の蒸発が長期化した。旅行事業の売上高は90%減の290億円にとどまり、180億円の営業赤字。ハウステンボス(株)(長崎県佐世保市)などテーマパーク事業も6億円の営業赤字だ。
新規事業はハウステンボスから生まれた。ロボットを活用して話題となった「変なホテル」などのホテル事業も26億円の営業赤字。
HISが力を入れているエネルギー事業は、再生可能エネルギーを利用して発電・電力供給を行う。これもハウステンボスから誕生した事業だ。エネルギー事業は主力5事業のなかで、唯一の増収。しかし、昨年12月以降の寒波到来による電力需要の増加、LNG(液化天然ガス)火力の供給力の低下により、電力卸売市場では価格が暴騰し、営業赤字は77億円(86億円の減益)となった。
(つづく)
【森村 和男】
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