2024年11月05日( 火 )

『脊振の自然に魅せられて』沢登りは夏の「清涼剤」(後)

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 40分も進むと、二股にわかれた滝に出た。楽しみにしていたポイントである。落差15mの滝は二股にわかれて釜に流れ落ちている。釜の広さは10m四方で、深さ1mほどの静かなプールとなっている。

 この場で、一息入れた。S嬢に感想を聞くと、「五感を研ぎすませて、水のなかを進むため、細胞が活性化した」という。水中を探りながら、足の置き場も習得したようだ。

二股の滝で一休み 中央の赤いヘルメットが筆者 左側の青いヘルメットが『のぼろ』N記者
二股の滝で一休み 中央の赤いヘルメットが筆者
左側の青いヘルメットが『のぼろ』N記者

 その後、陽だまりの地点で休憩した。いつも歩いている林道の下のトンネルを抜ける。今年6月には、ハイノキが橋の端に白い花を見事に咲かせていた場所である。ここから30分登ると、2週間前に下見をした場所がみえてきた。杉の倒木が沢を塞いでいる地点で登山道へと這い上がった。

 休憩ポイントまで10分歩き、沢装備から登山スタイルに変えた。砂のついた沢靴やハーネスを沢の水で洗い、大きなビニール袋に詰め込んだ。このポイントは小型道標を取り付けた場所であり、本流と右俣が合流した地点である。沢の装備を外してザックに収納し、石の上に腰を下ろし、それぞれ昼食を取った。

 濡れたままのシャツが冷たく感じる。同行した山仲間から携帯食が回ってくる。山仲間と楽しいひと時である。ヘルメットをザックに固定して、山野草を観賞するために矢筈峠への登山道を進んだ。ザックを担ぐと濡れた沢装具が重くて腰に負荷がかかる。

 お盆ごろに見頃を迎えるオオキツネノカミソリが咲いていた。標高600m地点で高度が低く、日あたりが比較的良いため、早めに咲き始めたのだろう。

 楽しみにしていた絶滅危惧種のオニコナスビに会いに行こうと思い、登山道を進む。30分歩くと、標高700m地点であるオニコナスビの自生地点にようやく着いた。この場所は筆者が石積みをして、オニコナスビを保護している。今年は咲いているだろうかと期待がふくらむ。

 2週間前には青い蕾であったオニコナスビは、太陽をいっぱいに浴びて黄色い花を元気に咲かせていた。それぞれスマホで写真を撮る。『のぼろ』の 記者N氏は初めて見る花だと喜んでいた。オニコナスビが絶滅危惧種のため、SNSには投稿しないでほしいと筆者はN氏には念を押した。

絶滅危惧種のオニコナススビ(サクラソウ科) 1㎝ほどの可愛い花である
絶滅危惧種のオニコナススビ(サクラソウ科)
1㎝ほどの可愛い花である

 佐賀方面の登山口から矢筈峠を逆に下って、この花を見にきた女性グループもおり、少しばかり賑やかになる。密を感じてコロナ対策のマスクを着用する。

 蔓植物であるオニコナスビが少しずつ生存範囲を広げているのは喜ばしいことであるが、今は登山者にその存在が知れわたってしまった。登山者が撮影に夢中になり、オニコナスビのツルを踏みしめた後が痛々しく残っていたため、筆者は周りにある手のひら大の石を敷き詰めて、踏みしめられないようにオニコナスビを保護した。

 花の観賞が終わり、「来年も会おうね」とオニコナスビに声をかけて登山道を下った。1時間ほどで、車を止めた登山口に届いた。登山口で『のぼろ」記者N氏と別れて、集合場所の「ワッキー主基の里」へと戻り、それぞれ3台の車にわかれた。

 わかれ際にS嬢が冷えたドリンク剤を振る舞ってくれた。心配りが嬉しい。今年の初入渓が終わった。加齢を考えると今年が沢登りの最後になる可能性がある。少しでも多くの沢登りを堪能したい。

(了)

2021年7月30日
脊振の自然を愛する会
代表 池田友行

(前)

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