【横浜市長選】小此木氏を“隠れカジノ推進派”と疑う有権者をめぐる攻防も
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三つどもえの戦いに
菅政権(首相)の命運を左右するとされる「横浜市長選(8月22日投開票)」が8日に告示され、菅首相が全面支援する小此木八郎・前国家公安委員長がわずかにリード、立民推薦の山中竹春・元横浜市立大学教授と林文子市長が猛追する三つどもえの戦いとなっている。そんな激戦のなかでカギを握ると見られているのが、ハマのドンこと藤木幸夫・横浜港ハーバーリゾート協会会長だ。
「藤木家とは三代にわたる付き合い」という小此木氏は第一声で、「藤木さんと菅さんの話をすればメデイアは喜ぶが、横浜市民には何の関係もない」と強調。「本当に大事なのは、IR取り止めを実現して、その後の横浜の姿をどうつくるのか」と訴えたが、まさに横浜へのカジノ(IR)誘致をめぐって菅首相と藤木会長が激突、どちらに軍配が上がるかによって横浜の将来に大きな影響を与えることは確実であったのだ。
上映中の政治バラエティー映画「パンケーキを毒見する」に“主役”として登場する菅首相は、小此木八郎氏の父親の彦三郎・元建設大臣の秘書を皮切りに、横浜市議を経て国会議員へと登り詰める足取りとともに、「影の(横浜)市長」と呼ばれていることも紹介されている。
横浜市政に大きな影響を与える実力者というわけだが、だからこそ藤木氏は、2019年8月に林文子市長がカジノ誘致を表明した際、「顔に泥を塗られた。泥を塗ったのは林さんだけど、塗らせた人がいる」と背後に菅首相(当時は官房長官)がいることを示唆。「菅さんは安倍首相(当時)の腰巾着。安倍首相はトランプ大統領の腰巾着」とたとえながら、カジノ業者が大口献金者のトランプ大統領の意向でカジノ法案が安倍政権下で成立し、横浜などへのカジノ誘致が進むという日米政治構造を浮彫りにしたうえで、「俺は命を張ってでも反対する」と宣言したのだ。
こうして「反カジノの象徴的人物」となった藤木氏は、“影の市長”こと菅首相が推進するカジノ誘致を阻止すべく、「横浜港ハーバーリゾート協会」を設立してカジノ抜きの開発計画を作成・発表。反カジノ市長誕生を目指す「横浜未来構想会議」にも加わり、5月22日の発足集会で講演。秋田生まれで横浜が第二の故郷の菅首相を「旅人」と表現し、「旅人に(横浜の未来の)絵を描かれたら困るだろう」と批判、カジノ阻止の姿勢をここでも示したのだ。
「“影の市長”が操るカジノ推進候補(自公推薦)対藤木会長支援の反カジノ候補」という構図となれば、カジノ反対の市民が多いため菅首相ら与党の敗色は濃厚。そこで小此木氏は、幼馴染みの菅首相の窮地を救うため、不人気政策である「カジノ誘致」を撤回して「取り止め」を掲げて出馬表明をしたのではないか。
「カジノ取り止め」と訴えれば、争点潰しになると同時に、「菅首相と藤木会長の関係改善」にもプラスに働くことは容易に想像できる。小此木氏の出馬会見で、こうした見立てについて筆者が質問したのはこのためだ(6月30日付Net IB News「小此木氏が閣僚辞任、出馬表明へ カジノ誘致が争点」)。
小此木氏出馬による“関係改善効果”が、目に見えるかたちで表れたような記者会見が8月3日に外国人特派員協会で開かれた。ここで藤木会長は、これまで批判を繰り返してきた菅首相を「異色」「草履取りが総理大臣になった」と好意的なコメントで持ち上げる一方、世襲議員だらけの政界を問題視したのだ。と同時に、「カジノは小さな問題」とも述べて、(横浜市長選で)当選するのは(小此木)八郎でしょう」という驚くべき予測まで口にしたのだ。
7 月17日に藤木会長は山中氏の事務所開きに駆け付け、「山中さんにしっかりお願いする」と支援表明し、山中氏の選対会議の名誉議長にも就任していたのに、相手候補の勝利を予測したのだ。
相手陣営を油断させるのが狙いか
「小此木氏の出馬で切り崩されてしまったのか」と思いながら8月8日、山中氏の第一声の街宣場所に駆け付けた藤木会長を直撃、会見での発言の真意について聞いてみた。
――「小此木さんが勝つだろう」と会見でおっしゃっていましたが。
藤木会長(以下、藤木) そう言っておかないと仕方がないでしょう。――油断させるのか。
藤木 そうそう。選挙のたびに相手を褒めるのが俺のやり方だったのよ。40年間、やってきたのだよ。――(相手候補の陣営を)油断させて逆転するということか。
藤木 あとでちゃんと言いますから。この後、マイクを握った藤木会長は一転、「山中さんは当選するのは間違いない」と断言。小此木氏勝利の予測を覆したうえで、山中氏への全面的な支援を次のように訴えた。
「『山中しかいない』とみんな言ってやってください」「私も選挙中は一生懸命話して歩きます。皆さん、『藤木が頭を下げていたな』と(思い出して)俺も頑張ろうということで私を助けてください。私の夢を実現させて、私と一緒に万歳をさせてください」「この人は旅人ではありません。本当に原住民です。地元の人です。頑張って行きましょう」。
カジノ誘致予定地の山下埠頭で米中戦争が起きていることも、藤木氏は次のように紹介した。
「トランプの使いが俺のところにきたのだから。ご飯を食べながら話をしました。『何とかしてくれ』と。米中戦争をやっているのだよ、(カジノ誘致予定地の)山下埠頭で。アメリカは『もう絶対に中国には貸さないでよ。藤木さん、頼むよ。アメリカは引っ込むけれども、俺のところは引っ込むけれども、中国には渡さないでくれ』と」。
この米国側の働き掛けと符合する話を立民の江田憲司代表代行がしていた。6月29日の山中氏の出馬会見に同席し、小此木氏を“隠れカジノ推進派”と疑っていたのだ。
「本当はアメリカ系カジノ業者を誘致したかった。中国系(カジノ業者)ばかりが申請している。(小此木氏が)仮に当選して1年くらい経って、ほとぼりが冷めたら『環境条件が整った。いろいろなヒアリングも説明会もした。環境条件が整った』と言って誘致を表明するという疑念が消えない。『もう騙されないぞ!』ということだ」。
一方の小此木氏は第一声で、こうした疑いの眼差しを向ける人が「4割」もいると認めていた。
「朝昼晩、皆さんの協力を得て、駅に街頭に立ちます。たとえば、3,000人の人が通り過ぎていきます。200人の方がビラを受け取ってもらえます。1時間、2時間経てば、私に話しかけてくれる方は、夜のほうが多いですけれども、10人から20人。驚くことにみんなIRです。IRのことしか言っていらっしゃいません。『IR、止めるのですよね』(との問いに)『止めます』(と答えると)「支持します』(と言ってくれる)。
『IR本当に止めるの』。4割の方々は疑いの眼差しで見ているのです。『どうせ菅さんと結託して当選したら、ほとぼりが冷めたらもう一回やり直すのだろう。前の人がそうだったではないか』。これが恐らく有権者の皆さまの正直な思いだと」。
菅首相が全面支援し、自民市議も36人中30人と8割以上が支援に回る小此木氏は、自公推薦に近い強力な選挙態勢にある。そこに藤木氏から「小此木氏が勝つだろう」という勝利予測が飛び出せば、小此木陣営の緩みを誘発しても不思議ではない。その間隙を縫って、小此木氏を“隠れカジノ推進派”と疑う約4割の有権者を山中氏に取り込むというのが藤木氏の狙いなのかもしれない。藤木氏の意味深な発言をめぐって、さらに混沌としてきた横浜市長選から目が離せない。
【ジャーナリスト/横田 一】
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