【コロナで明暗企業(11)】良品計画のトップ交代~「無印良品」の堂前氏と「ユニクロ」の柳井氏がガチンコ対決(前)
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生活雑貨「無印良品」を運営する(株)良品計画の次期社長に堂前宣夫専務(52)が昇格する人事が7月2日に発表された。就任は良品計画の新年度が始まる9月1日付。堂前氏はカジュアル衣料「ユニクロ」などを展開する(株)ファーストリテイリング出身で、柳井正会長兼社長の後継者と目されていた人物だ。「無印良品」の堂前氏と「ユニクロ」の柳井氏のガチンコ対決に関心が集まる。
後継者と目されながらユニクロを2度辞めた人物
堂前宣夫氏は、(株)ファーストリテイリング(以下、ファストリ)の創業者、柳井正氏の“秘蔵っ子”だった人物だ。柳井氏と同じ山口県出身。柳井氏の20歳年下にあたる。
1993年に東京大学大学院電子工学修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパンに入社。コンサルティング業務を経験する。その後、転職を考えているなかで、面接で会った柳井氏の熱意に強く惹かれ、ユニクロ・原宿進出の年である98年9月にファストリに入社。2カ月後の11月には、取締役に就任。30歳を迎える翌99年7月には常務取締役に昇進した。
後に社長となる玉塚元一氏(現・(株)ロッテホールディングス社長)や、澤田貴司氏(現・(株)ファミリーマート副会長)などとともに、当時のユニクロブーム&フリースブームを支えた。
澤田氏や玉塚氏は、柳井氏の急成長の期待に応えることができず、相次いでファストリを去った。堂前氏は2000年前後に入社した若手幹部のなかで、最後まで残り、04年には30代半ばで副社長に抜擢された。
堂前氏がユニークな点は、ファストリを二度去った人物であることだ。副社長として名実ともにナンバー2となったが、07年退任した。米国法人の代表をしていた。3カ月後に復帰して、周囲を驚かせた。柳井氏が呼び戻したとされる。
堂前氏の新しいポストは最高戦略責任者(CSO)。これからの成長ドライバーとなる海外事業の仕事だ。機能性インナーを世界共通ブランド「エアリズム」にして大ヒットさせた。ファストリ第2次成長期だ。
ところが、堂前氏は15年ごろに、本当にファストリを去った。理由ははっきりしない。急成長する海外事業のなかで、堂前氏が管轄する米国ユニクロ事業の伸びが、アジア(とくに中国)と比べて低いことの責任を問われたという説が有力だ。
堂前氏は柳井氏の後継社長の有力候補と目されていたが、そんな“秘蔵っ子”の堂前氏を容赦なく切り捨てる。柳井氏は「守り」や「安定」を絶対に許さない。非情な経営哲学の持ち主だ。かつて好んでいた言葉がある。「泳げない者は沈めばよい」。
ファストリを去った堂前氏は、16年6月に、モバゲーなどを展開する(株)ディーエヌエー(DeNA)と、ネット証券のマネックスグループ(株)の社外取締役に就任した。
その堂前氏を良品計画がヘッドハンティングした。
良品計画の米子会社が破産法を申請
「無印良品」は1980年に(株)西友ストアー(現・(同)西友)のプライベートブランド(PB)としてスタート。89年に良品計画が設立され、90年に西友から「無印良品」の営業権を譲り受け、91年に英国にロンドンに出店し海外展開を開始した。セゾングループの創業者、(故)堤清二氏のアンチ・ブランドの商品開発という思いが「無印」に込められている。
小売の「勝ち組」と称された良品計画は転機を迎えた。2020年7月10日、米国で「無印良品」を展開する子会社「MUJI U.S.A」が、日本の民事再生法にあたるチャプター11(米連邦破産法第11条)の適用をデラウェア州で申請したと発表した。負債総額は6,400万ドル(約68億円)で、このうち5,300万ドルが良品計画に対する債務。
発表資料によると、米国での営業開始は06年。ニューヨークなど一等地の路面店へ出店。ニューヨークやカリフオルニア州で18店を運営している。高い賃料や高コスト構造のために継続的に損失が発生していた。20年2月期の米国事業の営業収益は110億円、最終損益は18億円の赤字に陥った。
コスト構造の見直しへ19年に店舗の賃料の引き下げを軸とする再建策をつくったが、家主との交渉は折り合えなかった。そこへ新型コロナが追い打ちをかけた。3月17日以降、米国内の店舗すべてが営業停止となったことで、売上高が急減し採算が悪化したという。
同社は再生手続きを進めながら事業を継続する。不採算店の閉鎖や賃料の減額交渉などにより、事業構造を抜本的に転換する予定だとしている。米国では小売業が同法を使って賃料減額や店舗閉鎖を進めるのが一般的だという。最近ではブルックス・ブラザーズが申請している。しかし、家賃の引き下げ交渉がスムーズにいくかは不透明だ。
新型コロナによる米破産法申請は、日本の小売大手では初めて。同社は内需の縮小で海外に活路を求めてきた。力を入れていた米子会社の経営破綻で、世界戦略に試練が訪れた。
海外展開を加速している良品計画は、日本以外で30の国と地域に店舗網を広げた。無印良品の海外の店舗数は550店(20年8月期末時点)。国内の479店を上回る。主柱に据えようとした米国事業が失敗した影響は大きい。
(つづく)
【森村 和男】
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