【横浜市長選】“菅降ろし”の狼煙で「IR取り止め」小此木氏に逆風、山中氏リードか
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菅首相の不人気で、地元・横浜でも小此木氏が苦戦
菅降ろしの号砲が鳴り始めるかもしれないと注目されている「横浜市長選(8月8日告示・22日投開票)」で、菅義偉首相が全面支援をする小此木八郎・前国家公安委員長が立民推薦の山中竹春・元横浜市立大学教授(共産・社民支援)に抜かれたという情報も流れ始めた。
告示直後は「小此木氏わずかに先行、山中氏ら猛追」(8月10日付の朝日新聞)とやや優位だったのに、選挙戦中盤には「山中氏、小此木氏、林氏横一線」(15日付の読売新聞)と追いつかれた模様で、山中氏リードと報じる記事さえ出てきたのだ。内閣支持率がどん底状態の菅首相の不人気が、地元・横浜でも小此木氏への逆風になっているようなのだ。「現職総理大臣が全面支援をすれば、追い風になる」という常識が崩れ去り、“菅降ろし”の狼煙がいち早く横浜から上がり始めたように見えるのだ。
ちなみに菅首相の選挙区は神奈川2区(横浜市西区・南区・港南区)で、上映中の政治バラエティ映画『パンケーキを毒見する』では、菅首相が「影の(横浜)市長」という呼び名とともに登場、横浜市政に大きな影響力を与える実力者として描かれている。
実際に今回の横浜市長選でも、菅首相が旗振り役をしてきた「カジノ(IR)推進(誘致)」の看板を降ろして「取り止め」と言い出した小此木氏を、自民党市議36名中30名が支援に回り、「全面的かつ全力で応援」とタウン誌で訴えた菅首相と足並みをそろえた。しかも自民党県議全員に加えて、同じ自主投票ながら公明党議員も小此木氏支援に回るという実質的な自公推薦に近い態勢となった。現職総理で“影の市長”との異名も持つ菅首相の鶴の一声で、瞬く間に強力な布陣が築かれたと思いきや、政党基礎票で劣る山中氏や、自民党市議36名中6名が支援の林市長を引き離せないという苦戦を強いられているのだ。
林氏の街宣でも目のあたりにした“菅首相離れ”
“菅首相離れ”は、カジノ誘致の立場を変えない林氏の街宣でも目のあたりにした。地元経済界の重鎮である「(株)キタムラ」(ハンドバックなど小物販売)の北村宏社長が林文子氏を支援、元町商店街を一緒に練り歩いて支持を訴えていたのだ。
そこで、民放テレビ局のクルーとともに北村社長に「菅首相は怖くないのか」と筆者が聞くと、「全然怖くない。『あのペテン師』と平気で言ってやるよ」と言い放ったのだ。菅首相がカジノ推進の方針を急に変更、小此木氏を支援していることは「自民党の公約違反」と怒っていたのだ。
そして菅首相の時代は終焉、神通力はないとも断言したのだ。北村社長との一問一答は次の通りだ。
北村社長 この間、神奈川新聞で名前を出されて不買運動を起こされた。「もうキタムラでは買わない」とメールがきた。
――けっこう(林氏支援者への)自民党からの締め付けはすごいのか。
北村社長 すごい。ここで語れないことがいっぱいあるし。
――(自民党)市議会議員30名が小此木氏についているが・・・。
北村社長 実際に(小此木)八郎と書くのかわからないよ。
――締め付けられて形式的に応援している人がけっこう多いのか。
北村社長 だって菅首相の時代ではないじゃない。
――菅首相の神通力は効かなくなってしまったということか。
北村社長 最初からないじゃない。
――菅首相が全面支援をしても小此木氏は安泰とは言い難いと。
北村社長 そこら中の人に聞いたらいい。同じことをいうと思う。
――(カジノ推進方針を変えた)今回の経緯はあまりにおかしいので。
北村社長 おかしい。おかしい。一回自民党で決まったことを――。はっきり言って公約違反だよ。自民党の、国の。そう思わない?
(隣の)民放クルー 思います。
北村社長 それをコロッと変えられた。「馬鹿にするな」と言いたくなる。横浜を良くするのは市長ではないよ。俺たちだよ。市長は、それの援助をするのが市長だよ。市長が来ようが何をしようが、我々のやり方で間違えたら追い出してやる。変なのがきたら。それを勘違いしたらダメよ。市長が横浜を変えるのではない。我々が横浜を良くしていくのだから。結果がどうであれ、全然怖くない。我々は結束をもっているから、これで横浜が1つにまとまったと思っているのだから。逆にいえば。
――菅首相は怖くないのですか。
北村社長 全然怖くないよ。「あのペテン師」と平気で言ってやるよ。
カジノ誘致をめぐる方針変更については、林氏も当然批判していた。
「今まで自民党と公明党と一緒に賛成の議決を受けながら統合型リゾート(IR)を進めてきて、何だが急に『横浜ではやらない』と決めたようです。今まで5年近く、一生懸命私は国とともにやって来ましたが、国の重要な観光立国として本当に重要な政策だったのです。それがなぜ、急に止めになったのでしょうか。そして自民党で、国務大臣をやられていた方がお辞めになって、市長選に立候補をなさって、私は当然ながら『地元でIRを進める』と思っていたら『止める』ということで本当にびっくりしました」(8月14日の林氏の街宣)
菅首相が全面支援する小此木氏が伸び悩む原因がみえてきた。安倍政権での官房長官時代からカジノ推進だったのに、急に「カジノ取り止め」を言い出した小此木氏を支援する方針変更が、林市長や地元経済界から厳しく批判され、離反してしまったようなのだ。しかも、経済界の重鎮から「ペテン師」呼ばわりされてもいた。菅首相の威光や神通力は地元でもほとんど消え去ってしまったのかのようにも見える。
菅首相の不人気ぶりのバロメーターにもなる横浜市長選の結果が注目される。9月の自民党総裁選で無風選挙になるのか、それともポスト菅候補が次々と名乗りをあげる“戦国状態”になるかを左右する要因になるのは間違いないのだ。
【ジャーナリスト/横田 一】
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