2024年12月22日( 日 )

小売こぼれ話(2)業態という選択肢(前)

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買い物は1カ所で済ませたいというニーズ

スーパーマーケット イメージ 「業態とは、わかりやすくいえば販売価格である」といったのは、戦後の小売業界を指導したペガサスクラブの渥美俊一氏である。

 その販売価格だが、仕入れ価格で決まると思っている人は少なくない。業界人でもそう思っている人がいる。たしかに安く仕入れれば安く売れるのは当たり前だ。問題はその安くというのがどれくらいなのか。

 小売とメーカーをつなぐのが問屋だ。問屋は在庫調整やタイムリーな配送、販売促進のための情報提供などで小売を手厚くサポートしている。

 スーパーマーケットなどの多種類の商品を取り扱う小売店にとって、問屋は欠かせない存在だ。戦後、小売の規模拡大とPB戦略の下に問屋不要論が声高に叫ばれたが、そんな声もいつの間にか小さくなり、今では逆に、問屋の高い機能に対する評価が定着している。

 問屋の経常利益率は大手でも1%前後である。つまり、小売側から仕入れ価格を下げてくれといわれても対応できない。小売側の要請をメーカーに伝えるのが関の山である。しかし、メーカーにも要請に簡単に応じられない事情がある。

 NB志向の強い我が国の消費者の後ろ盾で、たしかに日本のメーカーは強力だ。しかし、そんなメーカーでも利益率は高くない。味の素やキユーピーといったビッグブランドでも経常利益は3~5%程度に過ぎない。つまり、問屋とメーカーは極めて薄利で小売店に販売しているのだ。だから、大幅な値下げを提供する余裕はない。

 しかし、現実にはディスカウント店やドラッグストアと、通常型のスーパーマーケットとの価格差は、商品によっては10%以上もある。その理由は経費率だ。経費には変動費と固定費があるが、小売業の経費は概ね固定費だ。売上が落ちたからといって水道光熱費や家賃が下がるわけではない。人件費も似たようなものだ。だから、売上が高いほど経費率が低くなり、低ければ経費率は高くなる。

 お客が安さをしっかり意識できる価格差の数値は6%。A店では198円で売っているものがB店では186円。常にそんな体験を重ねると、お客は自然にB店に足を向けるようになる。価格の評判はすぐ広がるから、遠方からもお客が来る。大家族や個人営業の飲食業者も価格には敏感だ。たかだか6~7%といっても、安い店で買えば年間でほぼ1カ月分も安くなる。

 食品を中心とした必需品の買い物はありふれた日常だから、できれば短時間で済ませたいというのがお客の本音だ。できればすべての買い物を1カ所で済ませたい。このため、安く売ることで広域から集客できる生鮮や日用雑貨を含めた品ぞろえが必要となる。

 大型ディスカウント店はそんなお客の要望に合わせて品ぞろえをし、安い価格をアピールしている。

(つづく)

【神戸 彲】

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(2)-(後)

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