国民の命より「五輪利権」を優先 政治家の劣化、ここに極まり【特別対談】(後)
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元朝日新聞編集委員 山田 厚史 氏
ジャーナリスト/小池都知事の「天敵」 横田 一 氏政治家の劣化が甚だしい。「至上最低」(月刊誌の編集者)と酷評された今年6月9日の党首討論は、野党第一党・立憲民主党の枝野幸男代表が五輪開催による感染爆発リスクなどについて質問したのに、菅義偉首相は聞かれたことに答えず、突然、57年前の東京五輪の思い出話を約3分以上も語り続けた。国民への説明責任を投げ出すと同時に危機管理能力の欠如が露わになる醜態を曝(さら)け出したのだ。最高権力者のぶざまな姿は、戦後75年の間に日本の政治レベルが地に落ち、とことん劣化したことを物語るものだ。そんな現実から目を背けたくなる衝動を抑えながら、今回はこうした“劣化政治家”を、対談を通して直視・論評していくことにした。対談相手は、元朝日新聞記者で経済担当の編集委員も務めた山田厚史氏。ネット配信媒体『デモクラシータイムス』代表で『週ナカニュース』『山田厚史の闇と死角』などの番組を多数公開。私が毎週月曜日に配信する「横田一の現場直撃」もデモクラシータイムスの番組群の1つだが、山田氏の番組と同じネタ(菅政権のコロナ対策や五輪開催強行や参院広島再選挙など)を取り上げることは珍しくなかった。そこで共通テーマにおける政治家の言動をチェックしていくことにした。
野党政治家も劣化~枝野代表の歯切れの悪さ
横田 劣化した日本の政治家をレベルアップさせるには、もう1度政権交代をして、世襲議員だらけの自民党を下野させるしかないと思いますが、そのカギを握る立憲民主党の枝野幸男代表はどう評価されていますか。
山田 野党第一党の党首としてリーダーシップを発揮すべき立場なので、もっとハッキリと物を言った方がいいと思います。立憲民主党を立ち上げたころは「原発ゼロ」と明言していたのに、最近はあまり言わなくなった。
横田 当時は、全国各地でタウンミーテイングを開きながら「原発ゼロ基本法案」を作成、共産党や社民党と一緒に国会に出したのですが、最近は熱意が薄れてきたように見える。とくに合流新党をつくる際、電力系労組を抱える連合に「綱領に原発ゼロを盛り込んだのは問題だ」と文句を言われて、気を遣い始めた。電力会社や電力系労組に屈した印象を与えるようでは、政権交代の気運がしぼんでしまう。
山田 電力系労組の支援が受けられなくても、立憲民主党は「原発ゼロ」と言い切ればいい。電力系労組の票が減ったとしても、それを上回る無党派層の支持を集めれば、いいのです。
横田 野党共闘についても枝野代表は歯切れが悪い。トリプル選の際、神津里季生・連合会長や玉木雄一郎・国民民主党代表は共産党との選挙協力にクレームをつけて、枝野代表が謝罪することがありました。政権交代の勢いをそぐ問題発言であったわけですから、「共産党を含めた野党共闘、選挙協力で菅政権を倒すことが最優先課題」と枝野代表は両者に反論、毅然とした態度を示さないとおかしかった。
山田 内輪もめをしている暇はないはずです。とにかく菅政権である今が政権交代の絶好のチャンスなのです。有権者の心に刺さる言葉を発信していけば、次期総選挙での勝機は十分にあります。菅首相・麻生大臣・二階幹事長・甘利明氏・安倍前首相らの自民党幹部の面々を思い浮かべてください。品性がないし、知性を感じないし、リーダーシップもない。野党が「この人たちが僕たちの国のリーダーですが、このまま任せてもいいのでしょうか」と呼び掛ければ、多くの国民から支持を得ることは確実です。
横田 たしかに今の自民党の重鎮たちには、新しい時代を切り拓いてくれそうな政治家は1人もいませんね。二階幹事長は全国土地改良事業(農業土木事業)団体連合会の会長を長年務め、「選挙を頑張ってくれたところに予算を付ける」という露骨な利益誘導発言をしてきた。新潟県知事選などの大型地方選挙で、農業土木関係者の前に「民主党政権時代に減らされた土地改良事業予算を自民党政権になって増やしてきた」とアピールしながら、候補者への投票を呼びかけていました。公共事業予算増と投票行動がギブ・アンド・テイクの関係にあるという古き土建政治(選挙)を実践したいたのです。甘利氏も同じ穴のムジナです。UR(都市再生機構)の道路用地買収に関して口利きを行い、建設業者から金品を授受したことを文春砲がスクープ。鶏卵業者からの現金授受で辞職した吉川貴盛・元農水大臣と同様、甘利氏も大臣室で金をもらったことも暴露されましたが、すぐに入院をして説明責任を果たさなかったことも甘利氏と吉川氏と瓜2つでした。
山田 自民党を離党して古い体質を批判した小池百合子都知事は「五輪中止表明をするのではないか」と注目されたが、開催地の首長としてどうするつもりなのか。五輪開催強行の菅首相と足並みをそろえていますが、結局、自民党に戻りたいということなのか。
横田 小池知事が特別顧問を務める「都民ファースト」の党名からすれば、都民の命を守るために「五輪中止」と言わないとおかしい。しかも都民ファの増子博樹幹事長の談話(5月28日発表)に「甘い水際対策でコロナ第四波を招いた」「再延期も含むあらゆる選択肢を視野に入れる」と書いてあったのに、小池知事は菅首相に突きつけることはしなかった。その3日後には平慶翔都議が選挙区を板橋区から千代田区に変える会見を開き、増子幹事長と荒木千春代表(都議)も同席。その場でも、菅政権の不十分なコロナ対策が感染拡大を招いたと批判、台湾のような厳しい水際対策にすべきとも訴えていた。都議会第一党である都民ファの主張を重く受け止めて小池知事は、「台湾並の厳しい水際対策にまで強化しない限り、五輪は開催すべきではない」などと政府に迫ることができたはずです。しかし実際は、菅首相に同じように安心安全な開催と繰り返すだけだった。
山田 なぜ小池知事は自分の手を封じる対応をしたのか。国政転身をして自民党に戻ったとしても、そう簡単に有力な総裁候補になれるとは思えないが。
横田 最終ゴールが総理大臣と見られる小池知事がなぜ、五輪中止カードを切らなかったのか。「菅政権延命に協力した見返りにポスト菅の密約を交わした」といった何らかの政治的取引をしたのではないか。不仲説が流れる小池知事と菅首相ですが、都民や国民の命は二の次で自らの保身や権力奪取が最優先課題である点ではよく似ている。2人とも“劣化政治家”の代表的存在ということです。
(つづく)
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