2024年11月17日( 日 )

小売こぼれ話(6)スーパーマーケット廃棄物事情

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プラスチックのリサイクル

 1960~70年代にかけての高度成長下において、産業廃棄物問題や公害の発生で環境問題が頻発し、廃棄物に関する法律が整備されるようになった。やがてそれらが廃棄物処理法やリサイクル法を生み、いまやリサイクルが当たり前の時代となったが、少し前までゴミはゴミという一種類でしか認識されていなかった。紙も缶も瓶もプラスチックも捨てる側からは皆同じゴミだった。

 その後、分別が始まって、とくに問題なったのがプラスチックだ。世界で生産されるプラスチックは年間3億トン以上、そのうち800万トンが陸から海に流れ出すという。我が国で生産される量が年間550万トン余り。自然界で完全に分解されるまで400~500年かかるといわれる。その間、多くの海洋生物に危機がおよび、さらに分解の過程でマイクロ化したプラスチックが魚介類に取り込まれ、それを間接的に人間が摂取する問題もクローズアップされ始めた。

 廃棄物による環境問題は60年代の有機水銀や90年代のダイオキシン問題が典型例だ。2000年代になると、プラスチック容器が急速に生活のなかに入ってきてその後、廃棄プラスチックによる環境問題が取りざたされるようになる。そんななかで、先ずアメリカで反プラスチックの流れが生まれる。

トレーの分別回収

食品トレー イメージ 我が国でのトレー分別回収の皮切りは米国の流通視察時に、反プラの運動を目にしてその将来消費を心配したあるメーカートップだ。彼は帰国するとスーパーの店頭に分別回収ボックスの設置を提案する。それが一部店舗で実現し、その背景がニュースや特集で報道されると、たちまち未設置のスーパーマーケットにお客の厳しい声が届くことになる。結果として、リサイクルボックスの設置が急速に進んだ。

 前々回でスーパーマーケットのゴミ箱事情に少し触れたが、リサイクルボックスはゴミ箱ではなかったため、店の出入り口にあるゴミ箱はそのままだった。ところが、05年前後、一部自治体でゴミ有料化が始まると家庭ごみが頻繁にスーパーのゴミ箱に持ち込まれるようになる。ゴミ箱はあっという間にあふれ、その周りにさらにごみが捨てられる。それを見た一般客からのクレーム。店は頭を悩ませる。かといって、一日中ゴミ箱を見ているわけにもいかない。

 店のゴミ箱に家庭ごみを捨てるのは明らかな不法投棄だが、お客から見ればいつも買い物をしている店であるため、大きな抵抗はない。店も強いことはいえない。残された手段は店頭のゴミ箱をなくすことだった。

 殺到する抗議を覚悟して店頭のゴミ箱をなくしたが、家庭ゴミを店にもって来ることへの多少のうしろめたさがあったからなのか、不思議なことになくなったことへのクレームは少なかった。もちろん今は店の周りに一般ごみ箱はない。そんなスーパーマーケットであるが、レジのサッカー台の横には今でもゴミ箱がある。そこに入っているのは主に生鮮食品のトレーだ。

 寿司や刺身など一部の商品以外のトレーはもって帰るのにかさばるし、リサイクルゴミに出すのに手間もコストもかかる。だから不必要なトレーの中身を備え付けの「薄い無料ポリ袋に入れ替える」のだ。ゴミ箱は捨てられたトレーですぐにいっぱいになる。捨てられたトレーは洗ってそのまま再利用というわけにはいかない。レシートなどのその他のゴミも混じるので、大方が焼却廃棄物に回る。

トレーやペットボトルの再利用

 そんなトレーだが、お客が思うより価格は高い。発泡タイプの白いトレーは一枚あたり10円程度だが、刺身などに使われる複雑なかたちの蓋つきカラートレーは30円以上のものも少なくない。

 1パック300~500円程度の商品なら、原価に占める割合が馬鹿にならない。店としてはトレーの代わりに一枚1円程度のポリ袋にしたいところだが、そうすると極端に売れなくなる。

 「きちんと並んでいる、見た目が美しい、容器がおしゃれ」。これがお客の基本的要望だ。売り場でお客の声は、「きれいねえ!」が「安いわね!」より、圧倒的に多い。それが女性だ。だから価格は高くても見栄えのするトレーを使う。見栄えの前ではエコもかすむ。難しいところだ。

 そんなトレーが再びトレーに生まれ変わる率は30%前後で70%以上が焼却される。その理由は捨てられたトレーを洗浄、選別する手間だ。回収ボックスにはきれいに選別されたものもあるが、中にはリサイクルできないものや洗っていないものがたくさん混じっている。それを洗浄、再分別しペレットに加工し再成型するとなると新品より高くつく。回収して再利用するより一般ごみで焼却される大きな理由だ。我が国の場合、燃料という名目なら焼却も再利用ということになるから大方がそちらに流れる。

 ついでにペットボトルだが、再生利用されるものは全体の12%程度だという。この比率を70%以上に高めようと、22年春に施行されるプラスチック資源循環促進法を先取りした新たな試みがメーカーやコンビニなどで始まっている。再生回収がよりスムースに実行できるようボトルを逆さにして中身が残らないような回収機や、ラベルの付いたボトルや缶などを自動的にはじく回収機の設置だ。このことはいかに消費者の資源節約や自然保護への関心が薄いかも物語る。

 環境保護。総論賛成、各論個人の事情あり。いくらメーカーや小売が努力しても消費者意識が変わらない限り、100%再利用への道は遠い。

【神戸 彲】

(5)-(後)
(7)-(前)

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