ソフトバンク孫社長の英アーム買収の狙いは、情報系車載の「世界標準」(前)
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いかにも気宇壮大な孫社長らしいM&Aだ。ソフトバンクグループは、世界的な半導体設計会社の英アーム・ホールディングスを、約240億ポンド(約3兆3,000億円)で買収する。日本企業が海外企業を買う額としては、過去最大だ。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」時代が迫るなか、孫正義社長の狙いが見えてくる。自動車の情報化(テレマティクス)の進展にともなう車載ネットワークの「標準」を手に入れることだ。
「IoT」時代に大化けすることを狙って買収
〈「いまは『IoT(モノのインターネット)』という大きな変化の入り口。アームは爆発的に伸びる」
ソフトバンクの孫正義社長は7月18日、ロンドンでの記者会見で(アーム買収について)説明した〉(朝日新聞7月20日付朝刊)。アームは自ら半導体を製造せず、独自技術を盛り込んだ設計図を米アップルや韓国サムスン電子といった端末メーカーや、米クアルコムなどの半導体メーカーに売っている。
アームが急成長を遂げるのは、携帯電話大手のフィンランドのノキアと組み、通信用半導体を共同で開発したこと。ノキアが世界の携帯電話市場を席巻したことで、デファクトスタンダード(事実上の標準規格)を確立した。
スマートフォン時代には、米クアルコムがアームの省電力性能を評価し、頭脳にあたるCPU(中央演算処理装置)に採用した。スマホでは、CPUや通信用半導体の90%超に採用されているという。孫社長が見据えるスマホの次
最近、「IoT」が経済メディアを賑わす。「IoT」とは「Internet of Things」の略で、「モノのインターネット」と訳される。IT関連以外のビジネスマンにはいまひとつわかりにくいが、パソコンやスマホなどの情報通信機器に限らず、すべての「モノ」がインターネットでつながることを言う。
アームがデファクトスタンダードを確立したスマホは、世界的に普及が進み、販売は頭打ち。アームの将来性を不安視する見方がある。
孫社長が見据えるのは、スマホの次だ。自動車や家電、日用品など幅広い工業製品に組み込み、それらのネット接続を支える通信用半導体で、アーム仕様を標準にすることだ。ガラパゴス化する日本からデファクトスタンダードへ
デファクトスタンダード(事実上の標準=世界標準)を狙って買収するとは、いかにも孫社長らしい。かつて日本ビクターが先鞭をつけたビデオ方式のVHSがデファクトスタンダードになったことがあったが、ネット時代には、そうした威勢の良い話は少ない。
聞こえてくるのは、「ガラパゴス化現象」。技術やサービスなどが日本市場で独自の進化を遂げて、世界標準からかけ離れてしまう現象を、生物の世界での「ガラパゴス諸島」における現象にたとえて「ガラパゴス化」という。
日本のガラパゴス化現象の代表的な例は携帯電話。日本の携帯電話サービスは、コンテンツやメールサービスなどで世界最先端の充実を誇る。しかし、世界市場とかけ離れた進化を遂げた影響で、日本メーカーの端末は日本以外ではさっぱり売れず、撤退に追い込まれた。
非接触ICカードも同様。日本の電子マネー市場は急速に拡大している。しかし、日本電子マネー運営会社の大半が、世界標準と異なる技術を採用している。世界市場では、携帯電話の二の舞いになることは目に見えている。
「日本の企業は、モノづくりは得意だがコトづくりは苦手」と言われるゆえんだ。「コトづくり」とは、グローバルのレベルでルールをつくり、それを「世界標準」にすることをいう。世界の七つの海を支配した大英帝国のお家芸だ。スマホで通信用半導体の標準を確立したアームは、大英帝国の申し子である。
先陣を切ってルールをつくるという能力の弱さが、日本企業のアキレス腱になっている。孫社長が、デファクトスタンダードを確立するために、英アームを買収するのは、実に画期的なこと。歴史的快挙と言っていい。
(つづく)
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