不正会計から6年、東芝はやっぱり解体!~西室泰三と西田厚聰「東芝を潰したA級戦犯」(中)
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日本人は、不幸なことを連想させる言葉を他の言葉に置き換えることをお家芸とする。守備隊の撤退は「転進」と言い換えられ、全滅は「玉砕」と美化された。敗戦は「終戦」とごまかした。東芝はこの麗しき日本文化を踏襲した。「東芝は解体ではなく進化」だという。まことに物は言いようである。
「テヘランからきた異端児」西田厚聰
西田厚聰は異色の経歴の持ち主だ。1943年12月29日、三重県生まれ。一番でなければ気が済まない西田は猛勉強して東京大学や京都大学などのトップ校を目指したが失敗し、浪人して早稲田大学第一政治経済学部に入学。卒業後、「学問の世界の一番」である東京大学大学院法学政治学研究科修士課程に進んだ。大学院では丸山眞男や福田歓一に師事しながら、西洋政治思想史を研究した。
西田は日本に政治史の研究で来日したイラン出身の女性を見初めて学生結婚してイランに渡る。学問の世界から足を洗ったことについて、多弁な西田は口を閉ざしているが、周囲は、東大の卒業生ではないため東大の教授になれないことがわかったからだろうと見ている。
イランでは東京芝浦電気(現・東芝)と現地法人の合弁会社に就職した。そこで才能を見出され、1975年5月東芝に入社。時に31歳。青年期を過ぎての中途採用組だ。そこから社長に昇り詰めたのだから、「超異端児」である。
東芝に転職した西田は欧米の販売会社を13年間渡り歩いた。二番になるのが大嫌いな西田はパソコン事業を興す。西田は世界初のノートパソコン「ダイナブック」を欧米で売りまくり、米国のノートパソコン市場で一時シェアトップとなった。
「お公家集団」と揶揄される東芝では、西田のアクと押しの強さは異色で、それゆえ逆に重宝され「パソコンの西田」の異名をとった。その実績が認められ、中途採用組の西田が名門、東芝の社長の座を射止めたのだ。
すべてはWH買収から始まった
2005年6月に社長に就任した西田のデビューは鮮やかだった。
圧巻は、2006年2月の米原子力プラント大手、ウエスティングハウス・エレクトリック(WH)の買収だ。大本命と目されたのが、WHと古くから取引関係がある三菱重工業(株)。東芝は、想定価格をはるかに超える約6,600億円の買収価格を提示して、最終コーナーで三菱重工を抜き去り、大逆転に成功した。
西田は、東芝EMI(株)などグループ企業を売却する一方、原子力発電事業と半導体事業を経営の2本柱に掲げる「選択と集中」を進めた。半導体は国内首位で世界3位(当時)、原発は世界首位に躍り出た。この時期が、西田の絶頂期だった。
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東芝・車谷社長が事実上のクビ、CVCと仕掛けた救済策が大炎上(1)しかし、2つの事業とも特有のリスクが付きまとうことを思い知らされることになる。半導体事業は価格と需要の変動が激しい。2008年秋のリーマン・ショック後の需要の急減によって価格が70パーセントも下落。東芝は半導体事業が巨額の赤字に転落したため、2009年3月期には3,435億円の巨額赤字に転落。西田は社長から会長に退いた。だが、辞任会見で「引責辞任」とは口が裂けても言わなかった。
東芝を解体に追い込んだ原因は、WHの買収から始まったのである。
東芝内紛をもたらした張本人は西室泰三
有森隆『社長解任』は内紛という視点から東芝の病理を解剖した。経営トップである会長と社長の内部抗争をビビットに描く。
同書は「東芝内紛をもたらした張本人は西室泰三」と断じる。東芝の歴代社長は任期4年で交代しているが、唯一、例外なのは岡村正。5年間、社長をやった。そこには、会長の西室の思惑があった。
「肩書きコレクター」。これは西室泰三についた仇名である。名誉欲は人一倍強い。東芝会長になった西室が、野心をかきたてたのが経団連会長=財界総理の座だ。東芝は第2代経団連会長石坂泰三、第4代会長土光敏夫を輩出したが、その後は、新日本製鐵(株)(現・日本製鉄(株)、東京電力(株)(現・東京電力ホールディングス(株))、トヨタ自動車(株)の経団連御三家の時代が続いた。
西室は東芝から3人目となる経団連会長になる野望を抱く。経団連会長になるには経団連の副会長か評議員会議長で、現役の社長か会長であることが条件だ。2001年から経団連副会長を務めていた西室が、東芝の相談役に退けば次期経団連会長候補の資格を失う。これを嫌がって、岡村を留任させた。財界総理になりたいという思いから、東芝のトップ人事を停滞させたのだが結局、西室は経団連会長になれなかった。主要財界人のなかに西室を推す人間がいなかったからだ。
(つづく)
【森村和男】
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