小売こぼれ話(14)同床異夢(後)
-
良くいえば「バラエティー豊か」だが…
ダイワハウスにとっては、テナントスペースを埋めることが最優先課題だ。業種や業態やテナントミックスというお客志向のバランスはとりあえず横に置く。投資ファンドは配当と転売で利益を目論む。
その結果、出来上がる店がどんな店になるかがアクロスモール春日で見て取れる。新しくなった外装はエスニックカラーだ。大型テナントが並ぶサインボードは生まれ変わったイメージを宣言しているようだ。
施設内のアパレルや雑貨スペースには有名、無名の100店舗余りがそれぞれの顔で店を開いている。コムサなどのブランドショップから子ども用のリユースショップまで、よくいえばバラエティーに満ち、別な言い方をすれば、まとまりのない猥雑性が漂う。確たる買い物があって、店を訪れるケースは別として、普通に楽しく売り場を見て回りたいという人にとってはいささか退屈な売り場だ。
空きテナント部分は休憩所や催事などでスペースを埋めているが、それでも埋めきれないテナントスペースは白い壁で仕切られている。
客数から見て、よほど低家賃でなければ採算をとるのは容易ではないはずだ。しかし、たとえ低家賃でも損益分岐点に満たない売り上げなら、撤退しか選択の余地はない。
繰り返された「失敗の構図」
売上額世界最大のウォルマートが、日本進出の足がかりとして大金を投じて買収した西友には自社幹部や金融界や流通業界で名を売った国内外の人材をトップに迎えた。しかし、結局は投資したコストを回収できないまま、事実上の撤退に落ち着いた。競争に勝つためには競合施設と違う特徴が求められる。結論として従来型のままでは、その実現ができなかったということになる。
▼おすすめ記事
西友売却に見る小売のパラダイムシフト(前)本格的な進出以降、大幅な経営改善ができなかった一番の理由は、戦略より、オペレーション、コントロールでの改善を図ろうとしたことだろう。ウォルマートが重視したのは短期での業績改善だ。短期で実績を残すためには経費節減しかない。ウォルマート式の販売とオペレーション戦術を導入すると同時に人員削減というリストラを行った。慣れないシステムの導入に加え、人を減らせば業務は混乱する。当然、それは売り場、さらに業績に反映する。そこから生まれる数値結果で現場経営を評価すれば、「営業トップを変えろ」ということになる。代わった経営者も速やかな経営改善を求められる。こうして同じ構図が繰り返されることになる。
異文化圏での小売経営は容易ではない。ウォルマートにとってイギリス、ドイツや日本という、どちらかというと個性的な市場に対応しそこなったということだろう。
我が国においては、力を背景にメーカーを巻き込み、ウォルマート流のEDLPを展開しようとしたものの、大手メーカーがこぞってしり込みした。世界一の小売業も日本という地域で見れば図抜けた大きさではない。1兆円に満たない販売額で大手メーカーや自社PB 戦略は企図した通りには運ばない。結果として先が見えなくなっての撤退なのだろう。
生まれ変われるか?
西友の優位性は都市部に店が多いということだが、そのほとんどは老朽店だ。改装投資が必要だが、春日型の改装で新たな経営がうまく行くとも思えない。しかし、楽天の思惑通りオンライン販売が急拡大して、リアル店舗がダークストア化すれば、望みは無きにしもあらずかもしれないが、アクロスモール春日は、それぞれのテナントショップが、お客にそれぞれの顔を向けており、先行きは容易ではないように思える。
(つづく)
【神戸 彲】
関連キーワード
関連記事
2024年11月11日 13:002024年11月1日 10:172024年10月25日 16:002024年11月14日 10:252024年10月30日 12:002024年10月29日 17:152024年11月1日 11:15
最近の人気記事
まちかど風景
- 優良企業を集めた求人サイト
-
Premium Search 求人を探す