2024年12月26日( 木 )

イデオロギーではなくテクノロジーで〜経済人が啓く日本再生の処方箋(中)

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(株)ブロードバンドタワー
代表取締役会長兼社長CEO
藤原 洋 氏

 今年2022年は日中国交正常化50周年にあたる。この50年を振り返るに、初めこそ日本がODAなどを通じた中国の近代化の支援者であったが、バブル崩壊を機にみるみる衰退、2000年代以降は中国が豊富な労働力と巨大な市場を提供し、日本経済を支えるようになった。同時に世界は情報化社会へと急速に変化していったが、IT技術でめざましい経済成長を遂げた中国は米国のヘゲモニーを脅かすものとして敵視されるようになり、民主主義vs共産主義のような古めかしいイデオロギー対立論がまたぞろ浮上、いまや「有事」さえ取り沙汰される事態に――。「同盟国」米国と重要な貿易相手国たる中国との狭間にあって、我が国は、経済を再生し国際的プレゼンスを高めるために今後どのような道を模索すべきか。インターネット協会理事長で(株)ブロードバンドタワーCEOの藤原洋氏がデータ・マックスに語る、現実的かつ力強い日本再生論。

(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役 児玉 直)

日中企業間のアライアンスを模索せよ

(株)ブロードバンドタワー 代表取締役会長兼社長CEO 藤原 洋 氏
(株)ブロードバンドタワー
代表取締役会長兼社長CEO
藤原 洋 氏

    私はイデオロギーは国別に考えるべき問題であり、経済人が口をはさむものではないと考えています。しかし、経済で国を豊かにするというなら、真っ先に考慮すべきは貿易です。日本の2020年の対中貿易額は輸出でアメリカの1.47倍、輸入は2.56倍。貿易額合計では1.85倍で、4年連続の貿易黒字になっています。つまり、中国は日本にとっていいお客さんなのです。イデオロギー面でいらぬ対立構造を生むのは得策ではありません。貿易額が一番多い国に対し、政治的に反対意見をストレートにぶつけるよりは、そこはほどほどにして、経済交流を進めた方が国益になるだろうと思いますね。

 中国にしても、価値観のぶつかり合いはあろうとも、対日貿易をシャットアウトする気はないと私はみています。日本の経済規模も欧米のそれも中国にとっては魅力ですし、そもそも孤立した経済ではもはや成り立たない社会。本当のところはやはり経済交流をしたいのだと思います。とくに日本の中小企業の技術は、中国企業としても欲しいものばかりです。企業買収のような、どちらかが資本の力で支配するというかたちではなく、日中の企業がアライアンスを組むといいますか、お互いの強みを持ち合って手を握る。そういう企業間のマッチングをプロデュースする仕組みが構築され、経済交流が進むなら、政治外交も自ずとうまくいくだろうと私は確信しています。

成長できなかった安倍政権下の日本

 同時に、日本経済の停滞を招いている国内の課題というものをしっかり整理し、解決のための仕組みを整えていくことは必要でしょう。経済成長を掲げる安倍政権の下、お金を回そうとして「異次元金融緩和」とマイナス金利政策が取られましたが、株価が上がっただけで実質賃金も物価も上がらず、国全体としては豊かにはなりませんでした。日本の経営者さんたちは起業家精神が希薄といいますか、エリートサラリーマンの経営者さんが多いですから、結局守りに入ってしまうのですね。資金は内部留保ばかりにいって投資にはあまり向かわなかったわけです。岸田政権が「新しい資本主義」を掲げ、「成長」だけではなく「分配」に言及しているのはそうしたことの反省があると思われますが、それをどのように実現していくのか、お手並み拝見といきたいところです。

 また、民主党政権の下で基礎がつくられ安倍政権がフルに活用した「官邸主導」の行政の在り方も、日本が成長できなかったことに関係するかもしれないと思います。日本の高度成長を支えたものとして、やはり官僚の優秀さがあったわけですが、人事権を官邸に握られたこともあってか、安倍政権時に官僚たちの国の運営に対するモチベーションが下がり、単に官邸からの指示待ちに徹するという状況が生まれました。最近明るみに出た国交省のデータ改ざん問題なども、その一環かと思われます。

(つづく)

【文・構成:黒川 晶】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:藤原 洋
所在地:東京都千代田区内幸町2-1-6
設 立:2000年2月
資本金:33億4,500万円
売上高:(20/12連結)160億7,700万円
URL:https://www.bbtower.co.jp


<プロフィール>
藤原 洋(ふじわら・ひろし)
 1954年生まれ、福岡県出身。77年京都大学理学部卒業。東京大学工学博士(電子情報工学)。日本アイ・ビー・エム(株)、(株)日立エンジニアリング、(株)アスキーを経て、96年12月、(株)インターネット総合研究所を設立。同社代表取締役所長に就任、2012年4月、(株)ブロードバンドタワー代表取締役会長兼社長CEOに就任。現在、(一財)インターネット協会理事長、慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授、SBI大学院大学副学長を兼務。11年4月(独)宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学評議会評議員、13年12月総務省ICT新事業創出推進会議構成員、14年1月同省電波政策ビジョン懇談会構成員、16年10月同省新世代モバイル通信システム委員会構成員、18年12月から同省デジタル変革時代のグローバルICT戦略懇談会構成員に就任。
【主な著書】1998年『ネットワークの覇者』日刊工業新聞社、2009年『科学技術と企業家の精神』岩波書店、10年『第4の産業革命』朝日新聞出版、14年『デジタル情報革命の潮流のなかで~インターネット社会実現へ向けての60年自分史~』アスペクト、16年『日本はなぜ負けるのか~インターネットがつくり出す21世紀の経済力学~』インプレスR&D、2018年『全産業「デジタル化」時代の日本創生戦略』PHP研究所、『数学力で国力が決まる』日本評論社 ほか多数。

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