2024年12月23日( 月 )

『脊振の自然に魅せられて』一期一会の出会い

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 先月22日、早春の花であるホソバナコバイモ(ユリ科)がそろそろ芽を出す頃だと思い、背振に向かった。

 福岡市早良区の椎原バス停から林道に向かったところ、空き地に何台かの車が停車していたため、やむを得ず林道の路肩に駐車。車の温度計は2℃を示していた。

 ホソバナコバイモの群生地まで30分、長靴を履き登山口へと向かっていると、2年前にリニューアルされた登山地図を見ている高齢男性がいた。筆者が「どこまで行かれますか?」と声をかけたところ、彼は「さて、どこまで行こうかな」と登山地図を見ながら答える。どうやら目的もなくやってきたようだ。筆者は登山者を見かけるとできるだけ声を掛けるようにしている。遭難、行方不明も考えられるからである。

 登山道を進むと4日前に降った雪が残り、笹や登山道は雪で覆われており、水で濡れた道は凍っていた。長靴の底のグリップが滑らないかどうか、たしかめつつ歩いたところ、氷の上でも滑らないことがわかり安堵する。

 登山道を横切る沢に来ると、上部の石清水に氷柱ができていた。長い氷柱や丸い氷の玉もできている。沢の岩に氷柱ができたのを見るのは何年ぶりだろう。

 椎原バス停の一停前に湯野のバス停がある。小爪沢へ向かう登山口である。10年前、氷の撮影で小爪沢に何度も通った。

 久しぶりに氷柱を見て感動を覚えた。そして小爪沢の氷柱の撮影にかつて何度も行ったことも思い出した。

 早速、小型カメラで動画撮影を行う。残念なことにカメラを固定する一脚を忘れてきたので、やむを得ず手持ちで撮影を行う。岩にできるだけ近づき撮影。丸く固まった氷がダイヤモンドのようにキラキラ光って神秘的だ。

 氷柱の撮影を終え、5月に咲くサイハイランの自生を確認しながら、ホソバナコバイモの群生地へと向かう。

 すると沢の本流の大きな岩に氷柱ができているのが目に飛び込んできた。目の前の巨大な岩全体に氷柱の塊ができ、流れる水も凍てつき、氷柱の間を飛沫が散っていた。

 できるだけ岩に近づき、カメラを上から下にゆっくり移動させ、シネマチック風な一枚に仕上げた。
自然のつくり出す光景は素晴しく、まさに一期一会の世界。しばらく沢の光景を脳裏に焼き付けた。

凍てついた沢の氷柱
凍てついた沢の氷柱
ダイヤモンドの輝きを思わせる
ダイヤモンドの輝きを思わせる

 沢での撮影が終わり、ホソバナコバイモの自生地へ向かう。ホソバナコバイモの自生地は雪に覆われ、同居するキツネノカミソリの新芽だけが雪から顔を出していた。

 ホソバナコバイモは芽を出していないのか?腰を屈めて何度も周辺を見て回った。あきらめかけていたとき、小さな3つ葉が雪のなかから顔を出しているのを見つけた。

 3つ葉はホソバナコバイモの葉である。覗き込むと蕾を付けたホソバナコバイモの赤ちゃんだった。よく見ると周辺にいくつも顔を出していた。

雪のなかから顔を出したホソバナコバイモの小さな蕾 その(1)
雪のなかから顔を出したホソバナコバイモの小さな蕾 その(1)

 手袋を外し、膝をついてカメラのピントを合わせる。素手なので凍傷になりそうだった。開花まであと10日だろうか?

 撮影を終え、しばらく歩いていると大学生らしい男性4人組が登ってきた。脊振山まで行くらしい。時刻は昼過ぎで、かつ軽装である。「道も凍っているので途中で引き返した方がよい」とアドバイスする。山は早出、早帰りが鉄則である。まして、冬の山は午後3時を過ぎると暗くなってしまう。

 いつの日か、満開のホソバナコバイモに会えるのを楽しみに帰路についた。

雪のなかから顔を出したホソバナコバイモの小さな蕾 その(2)
雪のなかから顔を出したホソバナコバイモの小さな蕾 その(2)

2022年3月6日
脊振の自然を愛する会
代表 池田 友行

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